第6話 やり直し

★決戦当日 昼前 ヒューパ決戦陣地



 僕達が最初の敵を見事撃退して歓声を上げていた頃、丘の上では、敵の聖戦軍が混乱から立ち直って、伝令の馬が忙しく走り回っています。

 お昼前ぐらいの時間になると、丘の上から津波のように人の波が動き出しました。

 朝方の攻撃とは、様子が違っているようです、今度は、間隔を広く散開して降りてきています。


「ちっ、大砲撃てっ」

 ドッドドーンドドンドーン


 舌打ちをした姫様の号令で、大砲が火を吹き、轟音が鳴り響きます。

 派手に丘の斜面で爆発が起きていますが、どうも様子がおかしいですね。

 敵の兵隊の間隔が広いため、うちの大砲で吹っとばせるのは、運の悪い一人か、土だけのようです。


 さらに敵をよく観察してみると、大勢が何か大きな木の束をもっています。


 うちの鉄砲隊の距離まで来た頃、ティア姫様が舌打ちをしています。

 こちらの鉄砲隊が弾を撃っても相手が倒れてくれません。弾が通り抜けないようです。


「ちっ、あれは竹の束だ、しかも表面の焼入れまでしてやがる。南方からこれ程の量を集めてくるとは……流石に全部予定通りにはいかないな」

 ガンッガンッ!

 姫様が踵で壕の天井を蹴ります。

「何でしょうか姫様」

 下から副官のフェイが答えます。

「あれは竹の束だ、鉄砲隊を正面から撃っても無駄だ、兵士達の射線戦駆を変更しろ、斜めから盾の後ろにいるやつを撃たせるんだ」

「了解です」


 司令部のから伝令が飛ぶと、ようやく敵に倒れる者が出てきました。

 続けて姫様からの踵通信が下に伝わります。

「竹束の盾が集まりだした、簡易の陣地を作るつもりだ、大砲に狙わせろ」


 矢継ぎ早に姫様からの指令が飛びますが、一歩遅かったようで、手前の大砲陣地の一つが沈黙しています。

 砲撃職人が、倒れているのが見えました。

 凄腕の弓矢使いが竹束陣地にいるらしく、うちの砲撃職人を一人ひとり狙撃しだしてあっと言う間に半数の大砲陣地が沈黙してしまいました。

「くそっ、フェイ、あそこだ、弓の使い手がいる陣地に集中砲火、続いて生きてる大砲で吹きとばせ」

「了解です」

 姫様も黙って見ているだけではありません、腕のいい弓矢使いがいる竹束陣地を見つけ出して、鉄砲隊の集中砲火を浴びせさせます。

 弓矢使いが黙ったのを確認して、生き残った大砲に命じると、竹陣地ごと弓矢使いを吹き飛ばしてしまいました。

 姫様ご満悦です。


 ですが、大砲が半分黙ったのは非常に痛かったようです。生き残った大砲陣地からも犠牲者が出てしまい、思うように戦果を挙げにくくなりました。


 大砲陣地への攻撃を防いで、安心していたら突然。

 ヒュンッ!

 ちょっとよそ見をしていた僕のすぐ横を、矢が飛んでいきます。

 姫様が狙撃されてるじゃないですか。

 親衛隊の大盾は、『視界が取れなくて邪魔だ』とどけられてましたので狙い放題です。

 ヤバいと思って姫様に下がってもらおうとしたら、裏拳で殴られて。

「うるさい、集中できないからちょっと黙ってろ」

 と言われました。

 姫様は飛んでくる矢を何事もないように、自分の持ってる細身の剣でいなしてしまいます。

 僕は、すぐ近くを通る矢に生きた心地が全くしません。


 姫様の指示で、狙撃者のいる竹束を大砲が吹き飛ばしたのを見て、ようやく僕は一息つきました。姫様の後ろの立っているだけで死にそうです。


 他の敵側の弓矢使いが、うちの鉄砲隊に犠牲者を出すようになってきた頃、敵が動きました。

 後方からさらに多くの竹の束が現れ、その下に陣地突撃用の傭兵隊を隠しています。

 傭兵達が竹束の下で腹ばいになりながら前進を続けて、ジリジリと近寄って居ますが、なかなか鉄砲が上手く通じてないようです。

 どうやら、近寄ったら一気に突撃するつもりのようです。

 うちの大砲がいくつかの竹束を吹き飛ばしましたが、数が違い過ぎます。

 これはまずい。


 敵の突入用竹束が横に並んで、あと20m程の距離になった時、うちの姫様も動きました。

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