第7話 秘密兵器

★決戦当日 正午 ヒューパ決戦陣地



 ガンッガンッ

「フェイ、例のやつ準備できてるか」

「はい、いけます、指示してください発射します」


 姫様がまた大声で、下にいるフェイ副官に叫んでいます。

 どうやら新兵器を出すみたいですね。


「よし、どっかの馬鹿のせいで予定より少ないが、敵の戦線を分断してしまうぞ、うちの傭兵隊も準備大丈夫か、すぐに出せるようにしろ」

「はい、いけます」

「よーし、発射ラッパ吹け」


 ペーポーペーポー


 戦場に朗らかなラッパの音が鳴り響いています。もっと平和な時に聞きたい朗らかさです。

 前線で待機していた傭兵隊に緊張が走っているのが、僕のいる場所からも解った。



★暁の咆哮団、団長グスタフ目線


 俺たちの番がきた。

 暁の咆哮団のグスタフは、十人長達に素早く指示を出す。

 今朝の作戦会で説明されたのは、

1,朗らかなラッパの音がしたら敵陣に突撃する準備をする。

2,次に大きな音がするので走れ。

3,敵は非常に混乱しているので、この作戦はスピードが命だ、敵が混乱から立ち直る前に倒して、さっさと引き上げろ。

 だった。


 実質的な指示は、最初の二つだけだ、最後のは、戦場でいつもやってる事だしな。

 しかも今回は、敵が寝そべっている、立ち上がる前にやってしまえば簡単作業だ。

 炎魔法が使える奴をつかって、燃やしてしまおう。


 その時、戦場に聞きなれない大きな音がした。


 ドンッ バシュッイイイイイイ……シュルシュルシュルシュル


 ロケット花火の大きな奴が発射される。

 姫様の国で催される祭りの時に、打ち上げられてる花火のような物か? 3年前ヒューパに入った時、一度見たことが有る。

 が、どうも違う、ロケットの後ろから付いていく紐のような物がある。

 トゲの付いた針金だ。


 グスタフの見た物の正体は、いわゆる鉄条網と呼ばれる奴が、ロケット花火に引っ張られて、戦場を斜めに交差しながら分断して行く光景だった。

 鉄条網は、1mぐらいの高さで、螺旋状に形がついて戦場に広がっていく。

 鉄砲が生まれた戦場では、この1mの高さが命取りになるのだ。


「よーし、野郎ども、やっちまうぞ。走れ」

 グスタフは、暁の咆哮団へ命令した。

 一斉に自陣を飛び出した傭兵達は、ほんの数十メートル先でモゾモゾしている竹束へと走る。

 竹束の下で、上で何が起きてるのか分かってない敵傭兵達を鏖殺していった。

 敵の後方から、味方がやられているのを助けようと、飛び出してきた奴らも大勢いたが、鉄条網に引っかかって動きを止めたところを鉄砲の餌食になって倒れていく。

 鉄砲と鉄条網の組み合わせは、見た目以上の効果を発揮していた。


 グスタフは、自分達の担当区域にいた敵を皆殺しにすると、意気揚々と自陣に引き上げた。


★ティア目線


 よし、後方の竹束陣地からの弓矢で何人かの犠牲者は出たが、これで敵傭兵のかなりの数は間引けた。

 問題は温存されている騎士団約5千の数だな。

 ……

 ティアは、戦場を見ながら次の指示を出す必要に気が付いていた。

 竹束に炎魔法を使った傭兵がかなりの数いたようだ。敵の竹束は予定外だったので、目の前で燃え続ける竹束の煙も完全に予定外だ。


 まずい、戦場での目が奪われた。

 私が敵なら、今すぐ動いて煙に紛れ、騎士団達を突撃させる。次の手を打たねば。


「フェイちょっと出てこい」


「何でしょうか姫様」

 フェイ副官が飛び出る


「煙で前が見ない、騎士突撃で蹂躙されるぞ、鉄条網には敵兵が引っかかってるいるから簡単に馬が超えてくる。第一陣を下げろ、第二陣で防ぐ。一陣と二陣の間に例のをやるぞ、すぐに連れて行け」


 ティアが後ろでぼーっと立っているベックを親指で指差す。


「一陣退却太鼓! すぐに打て」


 ドーンドーン カッカ カッカラカ ドーン

 フェイの指示をで戦場に太鼓の音が鳴り響く。


 第一陣が急いで後ろに走り出した。



★再び僕、ベック目線


……


????

 戦場は煙だらけで、僕は何が起きてるのか分からないでいたら、突然髭が引っ張られた。

 振り返ると姫様じゃなく、フェイ副官が僕のヒゲを掴んでひっぱってる。


「ナニぐずぐずしてるんですか、さっさと乗ってください、急いでっ」


 僕は、何が起きてるのかさっぱり分からないまま、馬の背中に荷物のように乗せられて走り出していた。



 戦線の右端に着いたら、馬と鉄条網の準備はできていた。

 フェイ副官が馬から飛び降りると、僕も一緒に転がり落とされた。


「あんた忘れて無いでしょうね、姫様の指示で作ってた例の鉄条網の敷設機の操作手順は大丈夫?」


 いやだ!

 僕は、思い出した、姫様の言ってた命令ってやつだ。また馬に乗って危ない事をしないといけない。


「ふ、フェイさん、代わってください」


 猛烈にやる気はない。

 ほんとに勘弁してほしい、僕は技官であって、武官のフェイさんみたいには馬に乗れない。だから代わってください。


「うん、大丈夫だそうですね、おい、お前ら乗せろ」


 嫌がる僕を、皆んなが馬に押し上げる。


「姫様からの伝言だ、『いいか、勝手に死ぬな、死んだら殺すぞ』だ」


 …アリガタイオコトバデスネ……


 僕は、泣く泣く決死作戦についた。

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