第4話 ご挨拶にまかり通る
★決戦当日 早朝 ドルダ川 ヒューパ決戦陣地
ほぼ徹夜で作業を済ませ、ようやく眠れたと思ったら、頭を蹴飛ばされて起こされた。
犯人は分かっている、ひどい。
「起きろ、今からお前にも特別な用事を与えてやる」
……昨日別の任務のをやれって言ってたじゃないんですか、姫様?
ドワーフ使いが荒すぎる。
「寝ぼけてないでさっさと馬の支度しろ、ちょっと出かけるぞ」
……姫様、お散歩に行くような軽さで言ってますがここは戦場デスヨ。
僕は目からこぼれる水を拭いて、馬の準備をしてると、陣地内はすでに起きていて忙しく戦争の準備をしていた。
急ごしらえの陣地は、簡単なクイで馬防柵が作られ、手前には1m程の堀が掘ってあって、自分たち側に同ぐらいの高さの堤防を幾つかに分けて作っている。前衛が突破されても後衛で受け止める陣形でミニ要塞になっている。
ミニ要塞の馬出しに行くと、すでに姫様と側近の親衛隊4名が並んでいた。
ははーん、逃げるんだな。僕も連れて行ってくれるんだ。やっぱり姫様は僕の事を大事だと思ってくださってたのか。
「遅い」ボスッ!
鉄拳制裁で完全に目を覚ました僕に向かって、姫様が意味のわからない事を喋りだした。
「おい、今から敵の総大将のとこ行ってご挨拶するから、お前も来い」
……
「い、いや〜〜」ボスッ!
また鉄拳制裁された。
★決戦当日 早朝 セト教国連合軍 総司令部 総大将 神聖ピタゴラ帝国 神聖皇帝カール15世陣幕
カール15世は、陣幕の中で目を覚ました。
昨日の連合諸国が国王や元首達と共に送り込んできた将軍も含めて、100名以上の大宴会で飲みすぎた酒がまだ残っていて頭が痛い。
まだ戦闘は始まってすらいないのに、昨日の宴会は完全に戦後を睨んでの外交の戦いの場であった。
突如、辺境のエウレカ公国国内から興ったヒューパ国が、謎の技術力で周りの国々を席巻し始めたのだ。
エウレカ公国は獣人や亜人、さらには異教徒まで抱え込む異端の国であった。
元々は、我が神聖ピタゴラ帝国の1公爵領でしかなかったのに、言う事を聞かなくなったので懲罰軍を入れたら、あっさりと我々を駆逐したのがエウレカ公国のさらに辺境の領主だったのだ。
しかも相手は、女領主だと言う。
我々は女に戦で負けるわけは無いので、謎の技術力によって化かされ続けたのだ。
周辺諸国もこの技術力には注目をしている様子で、今回の戦でいかにヒューパの富を分け合うかを昨日の宴会で話し合われた。
ふう、ようやくだ、ようやくあの魔女を殺せる。
今まで我が軍は散々やつに打ちのめされた。
復讐を叫ぶ騎士達を抑えて、決戦を避け、チマチマと敵の補給を潰し続けた努力が実を結ぶ。
教皇庁も利益をちらつかせたり脅しなだめてようやく動かし、聖戦を宣言させる事に成功して、各国諸侯に引きられた連合軍2万3千のかつて無い大軍団が、この地に集結したのだ。
保険をとって敵陣に間者(スパイ)を何人も放ち、暗殺は全て失敗したが逐一行動を監視した、さらに奴らの新技術武器をいくつも壊させた報告も昨日受けた、負けるわけが無い。
あの女は伝説の勇者の黄金の瞳を持つと言う。
何が勇者だ、むしろ魔王が持つという黄金の瞳の方が正しい。我々人族に仇なす魔王だ。やつは魔女だ。
戦闘が始まる前に、教皇庁を使って正式に魔女認定を行っておかねばなるまい。
皇帝はまだ朝が早いのに目が覚めててしまって、眠い目をこすりながら、今日の予定を考える。
恐らく、諸侯達が起きだすのは昼前頃だろう、遅い朝食を食べてからとなると昼過ぎからの戦闘だ。始まればあの奇怪な銃や大砲とやらがいくら有ろうが、我々は敗戦から学び対策は取った。この数を一斉に突入させてしまえば、必ず踏み潰すまでに時間はかかるまい。
心の隅にあった不安を忘れ去る。
ドタッ、ガタンッ!
外で何やら大きな音がしてる。
「何事か、ゾルバ」
参謀のゾルバを呼ぶ。
ガタッ!
陣幕のドアを壊しながら外から飛び込んできたのは、外で皇帝を守っていた衛兵だった。
衛兵の首は半分千切れかかっていてもう死んでいるのは見て取れる。
外の朝日の光を背に浴びながら続けて中に入ってきたのは、返り血を浴びた女だった。
「おい、ベックちょっとこいや、さっきの宣告状を読み上げろ。とちったら殺すからな」
目の前の女は後ろにいたドワーフのヒゲを引っ張って、ワシの前に立たせる。
敵の刺客をこんな近くまで来させてしまった自分を呪いながら見つめると、震えてるドワーフが紙を読み上げ出した。
「我がヒューパに古き因習によって襲いかかろうとする終わりし者よ。我がヒューパは新しき者、新しき世界を産みだす者である。この戦闘をもって古き終わりし者に真の終わりを宣告する」
ドワーフは、ワシに向かって紙と汚い手袋を投げてきた。
「よし、逃げるよ」
え?
ヒューパの者ならなぜ敵の総大将のワシの首を取らん?
戦線布告のためだけにきたのか?
「姫様ちょっと待ってください、置いてかないで」
???
姫様? ちょっと待て、もしかしてあれがヒューパのティアなのか?
理解ができない。
思考が戻った頃、陣幕に参謀のゾルバが飛び込んできた。
「陛下はご無事か」
「遅い、彼奴らはとっくに出ていきおったわ」
「くっ、外は大混乱になっておりまする。騎士達の一部が暴走して追いかけていますし、このままだと陣形もないままなし崩しに戦闘が始まってしまいまする。
急いで現場をお鎮めくださいませ」
外に出ると至る所で火の手が上がり、水魔法の術者が必死で消火作業をしている。
見るとさっきの女共は大声で
「ヒューパだ、お前らを殺しにきたぞ、ヒューパのティアがお前らを皆殺しにきたぞー」
と叫びながら陣内を馬で走り抜けて行った。
見ると、騎士達の陣幕からはプレートアーマも着けないまま飛び出している騎士すらいる。
契約している傭兵団も飛び出していてもう止めようが無くなっていた。
離れた他国の陣営もこちらの動きをみて、押っ取り刀で動き出している。
やられた!
寄せ集めの軍勢で、誰が戦後の主導権を取るかで戦う前から我々はバラバラだったのだ。
隣にいる参謀のゾルバが発言をする。
「皇帝陛下、ここに至ってしまっては混乱を収めることはできませぬ。いっそ、このままの勢いを利用して全軍に戦闘開始のラッパを吹くしかありますまい。
バラバラでいけばこの数でも危おうございます。塊を動かすのです」
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