第2話 最前線
★帝暦2524年 最前線
僕が連れてこられた1年ほど前までは連戦連勝だったので、正直危なくないとタカをくくっていたのですが、周りの国々もバカじゃありませんでした。
敵は、姫様の戦術を学び、焦土作戦や逃げ回って決戦を避け、騎士団の機動力をこちらの補給線や連絡線攻撃に回すようになったのです。
軍団間の連携をズタズタにされた僕たちは、とうとう敵地のど真ん中で孤立して逃げ回わる羽目になりました。
その上、僕たちの窮状を見た周辺諸国と、セト教団教皇庁の教皇が聖戦を宣言して、世界中の軍隊がこの地に集まって、僕たちを追い回してる始末 。
泣きっ面に蜂とは、この事です。
ついこの前まで追い回していた敵に、僕達が追い回されています。
★決戦前日 朝
「もうすぐだ、もうすぐで用意した補給地までたどり着く。あとたった三時間の我慢だ。三時間後には腹一杯になるぞー」
徹夜で歩き続けて、死んだような目をしていた兵士達が目の色を変えました。
相変わらず姫様は、兵士を使うのが上手い。
上手いけど、僕達が追い込まれた状況は、とても厳しい。
この所の敗戦で、調子の良いことばっかり言ってすり寄ってきていた貴族連中は、あっさり敵側に寝返ったし、傭兵団のいくつかも隊単位で逃げて、兵力は減り続けています。
ジリ貧どころの騒ぎではありません。
姫様は、『いいんだよ、逃げた傭兵団には給料払わずに済んだし、糞貴族連中は、すり寄ってきた時に絞れるだけ絞って金を巻き上げた。逃げたんだから約束の褒賞も必要ないし、後でまとめてぶっ潰して残り全部巻き上げてやるわ』と、ケロッとした顔で言い放ってる。
姫様、僕たちにお金がいくらあっても、生き残らないと何も使えないんですよ。うううう。
★決戦前日 午前 ドルダ河 ヒューパ軍陣地
それから街道をしばらく進むと、ドルダ河が見えてきました。
「「おおー」」
丘の上から見えた光景に、兵士たちが口々に歓声を上げる。
兵士達の視線の先には、河の三角州に舟が着けられて、物資を降ろしている。
姫様が言った通り、確かに支流と本流が交わる三角地に陣が構えられていました。
『いつの間に?』兵士達は驚いてるけど、虫力舟を使っての補給です。
うちの虫力船なら、河を遡って補給物資を運べるから不思議じゃない。
この舟の開発は、僕も関わったから知っているのです。
「はああ、助かったー」
僕も思わず声が漏れました。
良かった、まだ河の補給路は生きていたみたいだー。
僕も姫様と一緒に舟に乗って最前線から逃げよう。
姫様と僕の仲だし、連れて行ってくれるはず……だよね。
先頭へ移った姫様の後ろ姿を見てたら、ちょっと不安になったので、到着してすぐに尋ねました。
「あ、あの、姫様この後どこに逃げるのですか?」
「ん? 何言ってる、逃げんぞ、
「はい? えっ、物凄い数の敵が追いかけて来てるんですよ」
「うん、楽しみだろ、さっさと飯を食え。最後になるかもしれないんだ、ちゃんと味わえよ」
泣きそうな僕に笑顔で答えた姫様は、忙しそうに指示を出しに行きました。
グゥゥ……
どんなに悲しくても、お腹の虫には敵いません。
僕達は、すぐに逃げ出したかったのに、美味しそうな匂いに釣られて炊き出しの列に並んでいました。
僕が、ご飯をかき込んでいたら、斥候の軽騎兵たちが続々と帰ってきて報告しているのが見えます。
姫様が地図を前に目を爛々と輝かせながら、敵がこの地に集結を始めている事を皆に知らせてるのが確認できます。
「なるほど、予想より敵さんの進軍速度が早いな、よし作業を急がせろ」
「はっ、では全軍に伝えます」
姫様の周りを囲んでいた司令部の皆さんが、慌ただしく動き出しました。
ご飯を食べているので、埃を立てないで欲しいな。
迷惑そうに見ていたら、傭兵団の人を捕まえて大声で怒鳴っています。
嫌な予感です。
「お前ら、死にたくなければ、急いで防衛陣地を構築するんだ。土木作業だ土木作業、急げ急げ」
戦争前でテンション高めになっている姫様の事です、僕の顔を見たら何をするか分かりません。
こんな時の姫様は要注意です。
関わりたく無かった僕は、小さくなって人混みに隠れていました。
「ベック、お前らの仕事だ、今すぐ陣地構築しろ」
あっさり見つかりました。
まだご飯の途中なんですよ、ご飯ぐらいゆっくり食わせて欲しい、なんだよもう、鬼のような人だ。
と心の中で悪態ついていたら、後ろから僕のヒゲを掴んで顔を強引に引っ張られました。
「ベーック、何、ちんたら飯食ってるの? 私は鬼じゃなくてとても優しいからね、使えない奴でもいきなり銃殺なんてやらないわよ」
「は、はい」
「だけどな、お前ら技官が急いで大砲陣地構築しないと、ここに居る皆殺しにされちゃうんだよ。分かったか? 分かったなら走らんかボケー」
この人、心が読めるんじゃないのか、怖すぎるよ全く。
急いで走ろうとしたら姫様に呼び止められる。
「ところでアレは大丈夫なんでしょうね?
「あーはい、多分大丈夫だと思いますよ」
「多分?」
姫様の頬が、スカーフの上からも分かるぐらいピクッと動いた。
「んー、多分とはどういうことなのかな? ベック君」
あ、怖い。
ドキドキしながら事情を説明する。
「重かったので辛そうにしてたら、親切な人が、アレの半分を別の馬車に乗せ換えてくれたんです。なので多分だいjy」
「フェーーーーイ、ちょっとこっちこーい」
僕が大丈夫という間もなく、姫様が副官のフェイを呼ぶ。
フェイは、20歳の女性士官だ。
まだあどけなさが残るけど、姫様が設立した学校の士官部で出色の才を見せて早くから現場に抜擢され、姫様と一緒に最前線を駆け回ってきた。
「姫様何でしょうか」
「このバカがやらかした、アレを別の馬車に積み替えたらしい、すぐに行って確認してこい」
「はっ」
フェイが走っていく。
僕が何かやらかしたらしいけど、どうしよう。
その場で立っていると姫様が。
「あ”? 何突っ立ってるの? さっさと陣地構築行かないと殺すぞ」
僕は、パンツを少し汚しながら走って生きました。
★決戦前日 夕方 ドルダ川 ヒューパ軍決戦陣地
僕は、頑張りました。
頑張って泥まみれになって砲台陣地を八箇所も構築して帰ってきたら、姫様が僕を手招きしています。
何だろう? グズグズしていたら鉄拳制裁されるので、僕は急いで姫様の元まで走っていきました。
「何でしょう姫様」
「うん、あのな、お前はいつも頑張ってくれてるから特別な任務を与えようと思うんだ、とても名誉なことなんだぞ」
……猛烈に嫌な予感がする。
「お前が自分の馬車から他の馬車に移した例のアレな、アレの発射装置をうちに紛れ込んでいた
サアァァァァァァ
……血の気が音が聞こえるぐらい引いていく。
「明日は お前たちの部隊に馬を貸してやる。でな、合図に合わせて残った
嫌な予感がガッチリ心臓を鷲掴みしています。
「それが終わって生き残ってたらもう一個仕事を用意してるので、勝手に死んだら殺すからな」
ううう、僕は偉いはずなのに……
「あ、それから
さっきまで全力で土木作業してたのに、今日も徹夜作業しろと言うのか。
この人、鬼だ。
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