ドワーフ戦記

アリス&テレス

第1話 王国技術部長官

★帝暦2524年  敵国:神聖ピュータ・ハ・ゴラース帝国内深く


 僕は、ドワーフのベック、今年で31歳になる。

 ヒューパ国軍で技術開発部の 長官をしている。

 日の出の勢いの我が国で、数ある文官の中でも最も花形の技術職だ。しかも最新技術を研究する技官達の長官でとても偉い。偉いドワーフなのでヒゲもじゃだ。

 ……偉いはずだ…多分。


「くぅおあらー、ベックー、ちんたらやってんじゃねーぞ。キリキリ引っ張らんかー、そのキンタマ引っこ抜いてゴブリンの餌にされたいのかあああああああ」

「ひっひいいいい、すいません姫様」


 偉いはずの僕のヒゲを掴んで怒鳴り散らしてるのが、もっと偉くて美人のヒューパ国女王ティア様です。

 女王陛下に就任した後でも、本人が姫様と呼べと言うのでそうしている。

 確か僕より二つ歳下で、姫様と呼ばれる歳ではないはずだが、歳の事を言うと殴られるので言わない。

 姫様には、特別な力がある。伝説の勇者様と呼ばれるやつだ。

 それと他の世界の記憶があるとも言われている。

 僕が子供の頃から姫様の謎の行動力に引っ張り回されて、何度も命を落としそうになったのも、その他所の世界の記憶が残ってたせいだろう。


 そんな姫様も、僕が出会ったばかりの頃はとても可愛らしくて、本気で天使様と間違えたぐらいだったのに、どうしてこうなった……


 昨日、大砲や火薬、新武器を引っ張る馬が足らなくなったのを姫様に報告したら、僕の自慢の髭を掴んだ姫様に『お前暇だろ、お前が引っ張れ』と言われて部下の技官達と一緒に、馬のいない馬車を引っ張っているのです。


 僕は、偉いのに……

「ドワーフは力持ちだ、力持ちなんだい……ううう」


 前を行く姫様は、馬上で顔に巻きつけた緋色のスカーフの端を風にはためかせ、動きやすい革鎧に細身の体を包んでます。

 凄腕の弓師に狙撃で暗殺されてしまうから、最前線で目立つのはよしてくださいと、周りが口を酸っぱくして言っても、人の話しを全然聞かない。

『私の黄金の瞳にそんな攻撃通用しないわ、だいたいスカーフないと日焼けしちゃうじゃない』

 と、スカーフの隙間から黄金の瞳を覗かせて知らん顔だ。


 僕は、もう少しオッパイあった方が好みだ。



★帝暦2523年 首都ヒューパ


 話しは、1年前に戻る。


 僕たちの国は、先代国王の時代から続く戦争をしていた。

 敵は、周りの国全部。

 魔力を使った武器。巨大な軍馬にまたがった難攻不落の騎士。歴戦の傭兵団。

 戦力差は、絶望的だった。

 だけれども、姫様は勝ちまくった。

 姫様の数々の発明だけではなく、何より姫様のデタラメな度胸の良さと、悪魔のように狡猾な軍略を積み重ねて、周りの国々からの圧力を跳ね除け、逆に敵国深く攻め込んで、連戦連勝を重ねていた。

 僕は、姫様の幼馴染で、初期技術開発の功労者であった事をもあり、この頃は本国の技術開発工廠の二階にある技術部長官室で、フワフワ椅子に座わる身分でいました。


 最新技術の武器の事は全く分からないが、魔石とか宝石とか物凄く高くてお金になる鉱物を湯水のように使っていたので、ちょっと混ぜ物して浮かした分をポケットに入れてたある日、毎日の日課にしているフランソワ副官のキュートなお尻を丹念に撫で回していた時の事です。


「う、うーん、どーしたーフランソワー、その可愛くて優秀な君のお尻を撫でてるんだぞー、どうして無表情なままなのかなあー、逆らってっも良いんだぞー、僕は物凄く偉いけどなー」


 相変わらず、無表情なままのフランソワ副官は、書類の整理をしている。

 どんなに僕がお尻を触っても、副官は知らん顔して、仕事が終わったらさっさと出ていくので、僕の楽しみはこの時間しかない。

 なので僕は、この手触りに集中していたため、後ろから忍び寄ってきた人影に気が付かなかった。


ガシッ!

「あ痛っ!」


 突然、僕の髭が後ろから引っ張られた。

 僕は、この場所王国技術部で1番偉い。なのに物凄く偉い僕のヒゲを後ろから掴む無礼者がいたのです。


「おう、ベック、楽しそうだな、ちょっとツラ貸せや」

「あ、姫様……」


 誰かと思ったら、最前線が大好きで戦争狂のティア様が、鬼のような形相で立っていました。

 僕のほっぺたを魔剣でペタペタ叩きながら、とても偉い僕の髭を引っ張るのです。

 細身な体型の姫様が、そのまま80kgある僕を片手で掴んで引きずって行きます。


「フランソワ、ちょっとお偉い長官様・・・を借りるぞ、後は頼んだ。とにかく例の物の開発を急がせろよ」

「はい、承知しております姫様」

「あ、それから前線に送ってくる雷管や資材に色々混ぜ物しやがったバカがいるらしい、関わった奴全員にヘルメット被らせろ、スコップ持たせて最前線に送れ」


 僕は、物凄く偉いのに、泣く泣く最前線に連れてこられたのでした。

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