第6話 勇者、草津 海

王都へ到着した俺は美少女との出会いを求めて、観光という名の王都散策をエリナちゃんに申し出るがあっさりと却下されてしまい、出荷される牛のように無理やり引きずられ王城まで連行された。

 途中周囲を見渡してみたが、王都というだけあっていろんな店があり果物や野菜のようなものから、よくわからない生物の干物のようなものまで様々な商品が店先にならんでいる。

 さらにさすが異世界といったところか美少女の多いこと多いこと。まるでここは美少女の宝石箱かと思い手を振り払おうと抵抗してみたが、「わたしだっておなかすいてるの我慢してるんですから、カイさんも我慢してください」っとエリナが口から涎を垂らして言うのを見て、同レベルになるのはまずいと思い大人しく引きずられていく。


 王城へはエリナの顔パスですんなりと入れ、発売日には学校や会社を休む者が続出し社会問題になった名作竜のお使い3回目の主人公が、玉座まで歩いていくように陛下とやらの眼前まで来てしまった。

 こんなザル警備で大丈夫かと不安になるが、それだけエリナの地位が高いのかもしれない。


「陛下。大司教エリナ、勇者をお連れしてただいま帰還したのです」


 エリナが傅いて言うと、ぼーっと突っ立っていた俺は頭を押さえつけられて強引に傅かされ「陛下の御前です、くれぐれも失礼なことはしないでくださいね」と耳元で囁き頭から手を離す。


「おお、エリナよ。無事に戻って何より。そちらが件の勇者殿か。勇者殿、名をなんと申す?」


 頭をあげて陛下とやらを見上げると、トランプでよく見るキング見たいな顔と格好をしていて低くこもった声で俺に名を聞いてきた。


「カイです」


「カイ殿か。良くぞ異世界から参られた。この世界がどういった状況に置かれているかは、すでにエリナから聞いておるだろう。この世界を救うにはカイ殿の力が必要不可欠。バレア4世の名において命ずる、今この瞬間をもってカイ殿に勇者の称号を授けよう!」


「おお! 勇者様だ!」 「これでこの国は救われるぞ!」 「勇者様バンザーイ」 


 バレアが玉座から立ち上がって俺に手をかざすと、周りにいた兵士たちが歓声をあげる。


「ではカイ殿、くれぐれも頼みますぞ」


 そういってバレアはその場を後にしようとするが、それでは納得がいかない。


「それだけなのか?」


「陛下は多忙ですからね。いきなり来て会えるだけでもすごいことなのです」


 俺がボソボソとつぶやくと、エリナが小声で返してきた。


「ふーん。あーちょっと待ってくれ、バレン陛下? ひとつお願いがある」


「ちょっとカイさん!」


 バレアを名前を間違えてお気軽に呼んだ事で、場の空気が凍りつく。


「何かね? カイ殿」


「俺は確かに、エリナちゃんに頼まれてこの世界を救いに来たよ? だけどだれもタダでやるなんていってない。俺のやり方で自由にやらせてもらうし、報酬のほうもしっかりもらうぜ」


「あわわわ、なんて無礼なことを! 陛下、どうか寛大なお心で聞かなかったことに」


 エリナが慌ててフォローに入るが、とうのバレンは口元をゆるませている。


「ふっ、おもしろいことを言う。いいだろう、自由にするといい。ただし褒美に関してはことが全て終わってからだ。それでよいな?」


「それだけ確認できれば満足だ。じゃあ行こうぜエリナちゃん! ここから勇者俺の、サクセスストーリー開幕だ!」


「ちょっちょっとカイさん、陛下の御前ですよ! まっ待ってください。あわわあわわ、陛下失礼するのです」


 バレンは細い目を見開いて驚いた表情をし、エリナへ目線をやる。ふたりが謁見の間から出て行くのを蓄えた立派な白いひげを触りながら見送ると、バレンもまた謁見の間を後にした。


~~~~


「おらおら! 勇者様のお通りだ!」


 バレンからの許しを得た俺はとりあえず勇者の伝統的行為である、民家へ入りタンスや壷をあさってアイテムを収集することにした。

 魔法というのは本当に便利なもので、俺が勇者として認められたことは既に国中へ知らされている。

 自由にやらせてもらうというのをバレンが納得した以上、俺が何をしようと罪に問われることはないはずだ。


「おやめください、家には勇者様のお役に立ちそうなものなどなにも……」


 たまたま目に付いた民家へ入り、追いすがる住人を押しのけ奥にあるタンスへ向かう。引き出しを上から順番に開けていくと、葉っぱの束とジャラジャラと音のする小袋を発見。


「嘘はよくねえな。あるじゃねえか! やくそうっぽいのとコインっぽいのがよ!」


「そ、それは、もしもの時にと、取っておいたもので……」


「もしもっていつ使うの? 今でしょ!」


「いい加減にするのです! すみませんすぐにお暇するので」


 エリナは杖で俺の頭を叩くと服の襟を掴んでずるずると引きずり、民家から出たところでゴミ袋を投げ捨てるがごとく放り投げた。


「おうふ! 乱暴だなぁ」


 俺は立ち上がって土ぼこりを払ってエリナのほうを見ると、遊園地に行く約束を破られた子供のようにほっぺたを膨らませて、わたし怒ってますオーラをあふれさせている。


「なにが『乱暴だなぁ』ですか! カイさん自分のやっていることわかってるんですか? あんなのただの盗賊ですよ?」


「目の前に一般人からハムを奪い取ったやつがいるんですがそれは……」


 ゴホンッと咳払いすると、エリナが「いいですか?」と話し始める。


「たとえ陛下のお許しをもらったとしても、行き過ぎたことをすれば魔法ですぐにそのことが知らされて、最悪賞金首になってしまうことだってあるのです。そしたら、世界を救うどころじゃありません」


「それもおもしろそうだな。異世界に勇者として召喚された俺は賞金首になっていた! なんかラノベのタイトルにありそう」


「大好きな女の子とも関われなくなりますよ」


「それは困る! が、先立つ物は必要だ。エリナちゃん、レベルあげもかねてどこか良い稼ぎ場を知らないか?」


 女の子という単語を出したとたん態度が変わったからか、エリナは「はぁ」とため息をつく。


「それなら冒険者ギルドへ向かいましょう。そこで冒険者登録をすれば、ランクにあった依頼を紹介してもらえるのです」


「なるほど、冒険者ギルドか。ますますファンタージ感が増して、キタァアアアアアアアアア」


 期待に胸を膨らませ、俺たちは冒険者ギルドへと向かった。


~~~~


 冒険者ギルドを訪れた俺を待っていたのは、まさに天国だった。

 受付のお姉さんはバニーガールのような格好をしており、胸元にできた谷間は思わずとてもよいものをお持ちでと言いたくなってしまう程、でかい、でかい……。

 受付のお姉さんが冒険者登録の説明をしてくれるも、体を動かすたびにそのたわわな果実がぷるんぷるんして話を聞くどころではない。 


「気を抜けば俺の46センチ3連装砲が最大仰角になってしまう。そしてそのまま我、夜戦に突入す! からベッドウェー開戦になり、アンアンキシムサウンドとなりかねない。ここは気分が滅入ることを考えて中和するんだ」


「カイさん声にでてますよ。あとその7.7mm機銃しまえよなのです」


「……エリナちゃん。俺の心がえぐられるからやめてくれ。ん? そういえば、なんでその返しを知ってるんだ?」


「あれ? 何ででしょう? 頭の中で何かが囁いたのです」


「あのー、説明を続けてもよろしいでしょうか?」


 戸惑っている表情で俺とエリナのやり取りを見ていたお姉さんだが、相手もプロ。続けてくださいというと嫌な顔ひとつせずに説明を再開してくれた。


「つまりですね。この白紙のカードをあなたの額にくっつければ、内臓されている『解析スキャン』の魔法が自動で発動し、あなたの能力がこのカードに数値として表示されます」


 受付のテーブルにある受け皿に、白紙のカードを置いて差し出すお姉さん。


「職業に関しては先ほど説明した通りですが、ステータスに応じて自動で適正職業が表示されますので、最初はその職業がいいでしょう。後で職業を変更することもできますから、深く考えなくても大丈夫ですよ」


「できれば魔法使いとか弓兵とか遠距離から攻撃できる職業がいいな」


 俺は白紙のカードを手に取り自らの額へ貼り付けた。するとカードからフラッシュの点滅のように青白い光が放たれ、頭上に青いフラフープ的な物が出現。それは俺の体を通して頭の先からつま先まで降りてくると光の粒となって消え、それと同時にカードの放っていた光も収まった。


「『解析スキャン』が完了したようです、カードをご確認ください」


 この数値しだいで、俺の今後が決まると言ってもいい。俺は恐る恐る額に貼り付けたカードを20センチくらいはなして、書かれている内容を確認する。


 冒険者ネーム――カイ。

 冒険者レベル――1。

 腕力――1。

 素早さ――2。

 体力――1

 知力――2。

 器用さ――3。

 幸運――1。

 適正職業――無職。ステータスが低すぎて、該当職業が見つかりません。


「あの、お姉さん。なんか適正職業、無職とかでてるんですけど」


「え? そんなはず」


 冒険者カードをお姉さんに手渡すと可愛そうな人を見る目で俺の顔を一瞥し、再び冒険者カードへ視線を戻す。


「これはひどい」


 思わず本音がポロット出てしまったんだろう。お姉さんの顔から営業スマイルが消え、エロゲーでエロシーンを見ていたら親が後ろに立っていたような深刻な表情をしている。


「だっ大丈夫ですよ。レベルをあげれば上昇したステータスを元に適正職業が再表示されますから、その、あきらめないでがんばってください……」


「ちなみに、普通の人って数値どれくらいなんですか?」


「基本は各ステータス5を基準に考えられます。なのでカイさんは……」


「ああもういいです。わかりましたありがとうございます」


「い、いえ。カイさんでも達成できそうな依頼を探してきますから、おかけになっておまちください」


 そういってお姉さんは、カウンターの奥へと消えていった。

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