第3話 旅のはじまり
「この世界……。パンバーラに突如魔王が出現したんです。名前はギチート」
あたり一帯に広がる草原と澄み渡る青空、暖かい春の日差しのような光を浴びて、真剣な物言いをするエリナ。
そこにはにへらとした笑顔はなく、もうお父さんと一緒にお風呂入らないという悪魔の言葉を言い放つような表情だ。
「魔王? あー、魔王ね」
お約束だが異世界には魔王とそれを倒す勇者の設定は欠かせない。
世界の危機を救うため助けを求めてくるロリ巨乳、エリナ。
それに応え異世界へ降り立つ勇者、草津海。
旅の途中で出会う心強い仲間達。
いくつもの困難を乗り越え出会いと別れを繰り返し、勇者草津海は魔王を激戦の末撃破する。
そして可愛い美少女達に囲まれ、救世の英雄として後世まで語り継がれるのだった。
(ざっとこんな感じか。よーしここから俺のサクセスストーリーがはじまるぜ!)
「それで海さんには、ギチートと友達になって欲しいんです」
「あ!?」
友達。
エリナの放った言葉の意味が理解できない俺は、不祥事を起こした政治家を煽る記者のようにまくし立てる。
「なに言ってんだよ。魔王は倒すもので友達になるものじゃないだろ?」
「たったしかにギチートの配下である魔物は、町を襲ったり作物を荒らしたりしてます」
俺が「そうだろ」と言葉を続ける前に、エリナは畳み掛けるような口調で話を続ける。
「ギチートを倒しても人間と魔族の溝は深まるだけ、新しい魔王が現れて同じことの繰り返しです。だったらいっそのこと友達になればいいんですよ。友達になればきっと争いもなくなります」
「友達になれれば、そうなるかもしれないが。でもなぁ」
エリナの気迫に押されて言いくるめられそうになるも、自体はそんなに単純ではない。
仮に友達になれたとしてもそれで今までの事がチャラになるわけではないし、人の恨みっていうものはそう簡単に消えたりしないからだ。
「カイさんは小さな女の子が、魔王ってだけで忌み嫌われるのを可愛そうだと思わないんですか?」
「思うに決まってるだろ! よし俺が友達第一号になってやる。エリナちゃん、魔王のところへ案内を頼む」
「!?」
詳細検索で小さな女の子という条件が付け加えられたら、検索結果は変わってくる。
「ああ、先に言っておくが誤解しないでくれよ? 俺はロリコンじゃあない」
「あっはい、そうですね」
エリナは呆けた表情で言うと、持っている杖の先端で右を指す。
杖が指し示す場所へ視線をやると、遠くのほうに黒いモヤのようなものが見えた。
「あそこに見える黒いところががギチートの城です。でも、いきなり行っても今のカイさんじゃぶち殺されるだけなので、まずあっちへ行きましょうか」
続けてもっている杖で左を指す。
(エリナちゃんて、結構はっきり言うよな)
「この先にタタリヒっていう村があります。それほど遠くはないので、ウォーミングアップだとおもって張り切って行きましょう! っとその前に、『
エリナが杖の先端を俺の足へ向けてつぶやくと、杖から緑色の小さな粒が舞い上がる。
粒は俺の足へ付着してサッカーボールくらいの固まりになると、ぼんやりとした光を放って小さくなっていく。
「……これは……靴か」
光が収まると俺の足は登山靴のようなしっかりとした物を履いていた。
「わたしからのプレゼントです!」
「ありがとうエリナちゃん。じゃあ行くか、タタリヒへ」
~~~~
歩き始めて30分ほど経っただろうか?
タタリヒを目指して進む俺達は、牛のようにゆったりと歩く樹を発見した。
それは樹の幹に突起物ようなものがあり、枝葉を大きく揺らしている。
「あ! あれはピーチウッドですね。ちょうどいいモンスターですよ」
エリナは俺の左腕を掴んでひっぱり、ピーチウッドへ向かって一直線。
「おいおい引っ張るなよ、敵に正面から突っ込むやつがあるか!」
振り払おうにもこのロリ巨乳、握力がかなり強い。
為す術もなく引きずられ、ピーチウッドの眼前へと突き出される俺。
「さあカイさん、記念すべき初戦ですよ! びしっと決めちゃってくださいっ!」
「なぁ、エリナちゃん。俺初期装備貧弱すぎるんだけど大丈夫なんですかね? 後、ピーチウッドだっけ? 割とでかいんだけど」
意気揚々とはしゃぐエリナだが、俺の装備は紫色のジャージ上下と靴のみで丸腰だ。
対してピーチウッドの大きさは3メートルほどで、樹の中央上辺りにバスケットボールくらいの頭のようなものがある以外、その辺の樹と変わらない。
(ポケットにワンチャンなにかあるか?)
一抹の希望をもって左右のポケットへ手を突っ込み中身を出すが、あったのは糸くずとカメムシの死骸。
(俺の装備は紫色のジャージ上下、靴、糸くず、カメムシの死骸。これでどうやって戦えばいいんだ……)
「ふふーん! 安心してください、ちゃんと武器を用意してありますよ。『
左の手のひらを上にして目の前へ出し、右手に持っている杖の先端を手のひらへ向け、隠しようもないドヤ顔でつぶやくエリナ。
するとボンッという音と共に白い煙が手のひらの上に発生。
煙が天に昇って晴れると、そこにはまさに手のひらサイズの箱が出現した。
「『
続けてつぶやくと手のひらサイズだった箱はみるみる膨張し、大きさが炊飯器くらいになったところで止まると、エリナは箱を両腕で抱えて穴を俺の方へ傾ける。
「さあさあ、カイさん。この箱の中から武器を引き出してください!」
「お、おう」
魔法って本当になんでもありなんだなと思いつつ、箱の中に手を突っ込む。
指先に何かが触れ、硬くヒンヤリとした感触がした。
(できれば破壊力ばつ牛ンなやつでオナシャス)
俺はそれをしっかりと掴み、そして一気に引き抜く!
「いくぞおおおおおおおおおおおお!」
引き抜いたそれを確認すると、変な形をしていた。
だがしかし変な形をしているほうがわりと強かったりするので、意外と伝説の武器とかだったりするのかもしれない。
しかしこれは、見覚えがある。
「こ、これは……掃除機じゃねーか!」
紫色のジャージ上下、靴、糸くず、カメムシの死骸、掃除機(NEW)。
「おいおいおい、エリナちゃん!? なんでよりにもよって掃除機なんだよ。せめてもっと実用的なのだな?」
「ふぇ!? それカイさんの武器じゃないんですか?」
出現させた箱を元の大きさに戻して仕舞うと、ひっくり返った声で質問に質問を返してくる。
「なんで俺の武器が掃除機だとおもったんだよ!」
「だだだだって海さん、それをもってこっちの世界に来たじゃないですか!」
涙っぽい目で訴え、両手をバタバタさせながら地団太を踏むエリナ。
その様子は、お菓子を買ってもらえなくて駄々をこねている子供そのものだった。
(俺が勇者的なポーズをとったときのことをいってるのか?)
「じゃあ魔法は? 簡単な攻撃魔法教えてくれ」
「魔法は体内のマナをコントロールできないと使えません。いまのカイさんじゃ無理ですぅ」
「なんで夢なのにそんなハードモードなんだよ。もっとこうファイアって叫んだら火が出るとかでいいだろ!」
「夢? カイさん何を言ってるんですか! ここは異世界ですけど夢なんかじゃありません。この世界で死んでしまったら、本当に死んじゃうんですよ!」
「え?」
脳裏をよぎる死という言葉が事の重大さを告げた。
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