7:猫の集会と狐の話

 神社に帰ると、クロは猫に囲まれてなにやら話し込んでいた。

 近所の猫たちのようだが、野良も飼い猫も混じっている。小さいサバトラ柄がいて、ちょっと可愛い。


「戻りました」


 そう声をかけると、猫達は驚いたように耳と尻尾を立てた。


 クロが声をかけると落ち着いたように元に戻ったが、やがて一匹、一匹とどこかに去って行く。


 サバトラ柄は小さい分、足も遅いのだろうか。一番最後にいなくなった。


「集会でも開いてたんですか」

「まぁな。……ん?」


 クロは立ち上がると、私の傍まで近づいて鼻を小さくひくつかせた。


「どうしました?」

「……臭い」

「はぁ?」


 失礼な神様だ。

 よりにもよって臭いとは何事だろう。


 これでもボディソープはこだわっている。最近のお気に入りはゴートミルク、山羊の母乳を使ったものだ。

 肌にしっとり馴染んで、それでいて洗い心地はさっぱりしている。


「臭いってなんですか!」

「俺が嫌いな匂いがする。何してきたわけ?」

「昨日の女子生徒と話していただけです!」

「いやぁ、そっちじゃないな。狐の匂いだ」

「狐?」


 狐に会った記憶はない。


「このあたりに狐がいるんですか?」

「お稲荷さんがあるんだよ。そこ通った?」

「いえ、通っていないと思います。お狐様なら私、わかりますし」

「じゃあ狐のほうが通ったんだな。あいつ、そこらじゅうウロウロしてるんだ。学校でも病院でもお構いなしだよ」


 クロは鼻頭に皺をよせ、唇を歪めながら言った。

 猫が匂いを嗅いで唇を引き上げるのはフレーメン反応というらしい。


「この町には色々神様がいるんですね」

「動物信仰が盛んなんだよ。正一位から正六位まで揃ってる」


 動物を祀る神社は多くあるが、それぞれには相応しい神格がある。

 正一位を与えられる動物は結構多い。

 有名ところでは狐だが、猫や蛇が正一位になることもあるし、逆に正三位の狐もいる。


「此処にいたら、そのうち会うかもな。変な奴が多いけど、蛇なんかはいい奴だぞ」

「いい奴?」

「好物が一緒なんだよ」

「好物って……」


 頭の中に浮かんだのは鼠だった。

 怯える鼠を蛇と猫が挟み撃ちする絵が脳裏に浮かんで、慌ててそれを振り払う。


「それより、言われた通りに幡野さんに会ってきましたよ」

「うん。それで?」


 学校で見たままのことを説明する。

 黒い靄のことも一応伝えたが、何かはわからなかったと言うと、クロは不満そうな顔をした。

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