第2話 幼馴染み

「溶ける~~。」


じりじりと外から蝉の声が聞こえる。

自分がかいた汗と季節特有の湿気でむわりとした風が部屋の中に吹きつける。


学校が夏休みに入った今、初日であることから課題の心配はまだまだ先で良い。

しかも高校2年である、私、真壁麦まかべむぎは余裕で寝ていることができると自負していた。

時計は8時半を指している。


『ぐあああああああ!寝過ごした!』


突然隣の家から悲鳴が上がる。

確か、7時半頃に目覚まし時計がなっていた気がする。

またかと隣の家が見える窓から顔を出す。


「のん、朝からうるさいよ。」


『んなこと言ったって!今日、俺補習なのに!』


幼馴染みである隣の家の工藤望くどうのぞむ。彼は、一つ年上の高校3年生だったりする。

家族同士も仲が良く、部屋も向かい合わせで必ず一日一回は顔を合わせる生活を送っている。

だからといって、漫画みたいに恋に発展するわけでもなく、小中高と何もなく成長している。


「泣きそうになってないで、とりあえず制服に着替えな。頑張ればまだ間に合うでしょ。」


『むぎちゃ~ん。』


べそべそと男らしくなく泣きそうになっているのんを私は小さい頃から大好きだ。

それは恋愛感情の好きかと問われたら、答えはNOだ。

はっきりと答えられるし、迷ったりもしない。

彼の恋愛はそれなりにみてきているし、私だって1,2人くらいは彼氏がいたし、それは間違いなく恋だった。

だからこそ彼へのこの思いが恋愛感情でないことが自分の中で明確だった。


『麦ちゃん、着替え終わったからとりあえず学校行ってきます!』


「気をつけていってらっしゃい。」


へらりと夏の暑さに溶けてしまいそうなのんの笑顔がたまらなく愛おしい。

これは恋ではない。

きっと愛なのだ。


のんが玄関を飛び出していくのを眺めた後、私は一人ため息をつく。


「のん、時間って止められたらどれだけ楽なんだろうね。」


時間が止まってしまえば、のんが遅刻することもないだろう。

独り言をぽつりと呟いた私は、世界からみたらちっぽけで、どれ程惨めに映っているのだろう。

なんて、そんなことは、彼は知らなくてもいい。

私の汚い部分をみたら、優しい彼は一緒に汚くなってくれるだろうから。


「の~ん、はやく帰ってこ~い。」


淋しさが急にこみ上げてくる。

のんの部屋からは、のんが止め忘れたのであろう曲名も知らないのんのお気に入りの曲が流れていた。

その曲が、一人家に残された私を、一層寂しくしてくれた。


to be continued...





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