終わり

そして次の未来へ

 それが起きたのは本当に急だった。

 僕と有夏がいつものようにその日の講義を終えて、構内をのんびりと過ごしていた時だった。本当に突然、大きな音が聞こえ、地面が揺れた。僕はとっさに彼女の手を取って、逃げられるように立ち上がる。


「壮一君、別のそんなパニックにならなくても」

「う、うんそうだけど、でもほら、至上主義のニュースを見ているとまさかって思っちゃって」


 どこで何がどうなったのか分からないが、ひとまず八木原先生の所へと行こうと外へ出た瞬間、僕は強い力によってある男性二人の方へと引き寄せられた。同時に頭にも強い力を感じて、次第にそれは首を絞めていき、僕の意識はそこで暗転した。


――夢も見ずに目を覚ます。そこは暗い部屋で、汚かった。ゆっくりと顔を上げて立ち上がろうとしたが、立つことが出来ない。手には手錠の感触、そして体のあちこちにはチェーンで椅子に縛られていた。


「気づいたか」


 ふと男性の低い声が響く。そちらの方へと顔を見やる。そこには、標準的なやせ型の男性が二人、僕の方を見ていた。彼らの目つきは明らかに敵意を向けている。そんな目だった。


「なぜお前がこうなっているのか分かるか」

「……思い当たるようなことは、特に……」

「そうなのか。そんな認識でいたからこんなことになるんだぞ」


 正直、彼らの言っていることは分からない。僕がこんな目にあうに値するほどの出来事があったなら、僕にだって気づくはずだが、それがないのだ。


「気づかないと話も進まないし、別に俺たちもそこまで悪じゃない。話してやるさ。お前たちの存在がどれほど危険なのか」

「君は、超力者と付き合っているだろう。その事実がもはや危険なんだよ。殊力者と超力者がそうやって近くなりすぎるのは、これからの未来、とても危険になる。超力至上主義においては、劣等人種との共存はいずれ種を滅ぼす。高みにいる人種は高みの人種と関わっていかなければ堕落する。殊力至上主義から見れば、自分たちも超力者と同等の存在なのだと勘違いし、それを主張して行動してくるだろう。そうなるのは今の情勢において最もやってはいけないことなんだ」


 どうやら、彼らは正真正銘、超力至上主義の人間のようだ。ということは、あの時の強い力は、サイコキネシスによるものだったのだろう。しかも二人分の力だった。


「そんなこと、僕たちには関係ないじゃない? っていっても、君たちはそんなことないって言うんだろうね。関係ないと知っているなら、僕を拉致することもないから。それで、君たちは僕をどうしたいの?」

「俺たちの説得に応じてほしいだけだ。彼女と別れるっていうな」


 (やっぱり、そう来るよね)


「別れたら君たちにとってメリットになることがあるの?」

「こちら側じゃなくて、向こう側、殊力至上主義の方にデメリットがある。彼らは君たちを遠目から監視しているのさ。それで、時が来たら奴らは君たちを看板に殊力者たちに訴える。「殊力者でも対等に超力者と関われるんだ」とね。それで、多くの同志を至上主義に賛同させ、そして超力者たちと全面戦争を仕掛けるつもりなんだ。あくまで、至上主義の目的は、俺たち超力者の排除だからな」

「それは大変なことになるね。そんなことにでもなったら、僕たちもただじゃすまないだろうし」

「そう、だから彼女と別れるのは、君たちのメリットになるんだ。俺たちはそこまで過激的な活動はしたくない。だから、穏便にすまそうじゃないか」

「君たちの様子は見ていた。どんな関係性なのか知らないけど、でも、彼女が君に送る態度はどうやら冷たいもののようだ。君も、そろそろ辛いとは思わないのかい?」


 確かに、彼女は“僕”に対しては興味はないのだろう。そして、その態度は当然、他者からみたら冷たい態度ということとして映るだろう。迷うことはないはずなのに、他者から言われるとしみじみと改めて彼女とのやり取りを思い返してしまった。

 そんな時、部屋のドアが開いた。見ると、有夏がそこにはいた。表情は変わっていないようすだが、着ている服は動きやすい服で、明らかに攻略のための装備だった。


 「わたしは確かに冷たいような態度をしているかもしれないけれど、だからと言って壮一くんが嫌いという証明にもならない。そんなの、結局他人の尺度で他人が望む形を勝手に言葉に出しているだけ。――だから、わたしは壮一くんを助けるの」


 その言葉が出た瞬間、僕は強く引き付けられる感覚に襲われた。周りを見ると、テレポートの際に入るあの世界に入っており、周りの人たちは止まっているように見えるほどゆっくりした時間を流れる。僕が鉄のロープで縛られていた椅子には僕がいなくなって情けなく垂れる鉄のロープがあった。目線を有夏ちゃんの方へとやると、向こうの方からは彼女が持っていたハイパーボールが僕と交換するような形ですれ違い、椅子の方へと飛んで行った。それを見送り、そして僕は彼女の腕の中に止まっていた。


「何! あいつの超力はここまで強くなかったはずだろ!」

「それに、このハイパーボール。ここにはなかったはず。まさか、物体を取り寄せるだけじゃなくて、物体と物体を交換するようなことも出来るのか!?」


 超力至上主義の奴らは驚きの声をそろえてあげる。当然、僕たちはそんな言葉に耳を貸さず、そそくさと部屋を駆けて出ていった。


「有夏ちゃん……ごめん」

「あなたは決して悪くないけど、まあ一応受け取っておくわ。さあ、太一と伸一たちが道を開けてるはずだから、早く帰ろう」


 表情一つ変えずに淡々と状況を説明する彼女は、こんな争いの状況には慣れっこだと言わんばかりだ。とても心強くて、そして僕は彼女の顔を見ることが出来ずにただただ申し訳なさを抱えて彼女について走った。


「よっしゃ! これで3人目だ! どうだ南」

「残念! わたしは5人張り倒したし! そんで、二人とも戻ってきたからこれで勝負は終わり! また勝っちゃったね!」

「くそ! まあ、壮一が無事なら勝負の敗北なんて認めてやるさ!」


 廊下を走っていると、足元に数人人を倒して言い合っている津南太一と湯沢南がいた。彼らはテニスラケットとテニスボールを手に僕たちを待っていたようだ。


「太一に南……」

「なにそんな弱気な声出してんだよ! ほら、さっさと出るぞ! 舟木と川嶋は出口で待ってんだからさ!」

「舟木たちもいるんだ……ほんと、ごめ――」


 ごめんの一言を言おうとしたとき、僕のほっぺは両手で挟まれ、言葉が出せなかった。


「とりあえず、ここから出るまでは謝るの無し」

「……うん、分かったよ。でも、ありがとう」


 僕は代わりに感謝の言葉を出した。彼女の表情は変わらなったが、顔を挟んでいた両手が、微かにほっぺを撫でてくれた気がした。


 太一たちと合流した僕たちは再び出口の方へと駆けだした。この廃棄された倉庫はそんな複雑な構造はしていないが、敷地が広いためにすぐには出られそうにはない。窓も封鎖されているため、窓から無理やり出ることも現実的じゃないから、どうしても出口まで向かわないといけないようだ。


「にがさねぇぜ! 超力者のくせに殊力者と仲良くやりやがって!」

「至上主義に従わない超力者は等しく裁きを!」


 先回りをしていたのか、僕を拘束して拷問をかけていた二人組が進行方向を塞ぐ。二人の超力は等しくサイコキネシス系統の力だ。人を直接扱うほどの力はないが、空気中の水分や疑似的な摩擦熱を発生させることが出来るようだし、なにより本人たちは人を痛めつける道具を持っている。


「まずは挨拶のサーブからだな!」

「ダメ元ってやつ!」


 太一たち二人はすぐさまテニスボールを天井ギリギリまであげ、そしてフラットサービスを超力至上主義の二人放った。目で追うのがやっとの速球は二人の顔面に目掛けて飛んだが、息をするように二人のサイコキネシスで減速し、軌道も大きくずらされた。


「二人は左をお願い。わたしは右をやるから」


 有夏は二人にそう告げ、ハイパーボールを投げつけた。それは当然サイコキネシスで軌道をずらされて外れたが、彼女のレベルの上がったアポートの力でハイパーボールと彼女の位置を取り換えた。一瞬の出来事で怯む男を気にせず、そのまま体当たりをして壁を使って抑えた。そして、右手を彼の心臓にある位置に固定した。


「わたしの能力はもう分かったでしょ。このままあんたの心臓をわたしの手に吸い寄せる。心臓のないあんたは、そのまま生きていけるのかしら」

「くっそ……」

「まあ、どちらにしても心臓を取らせてもらうけど」


 いつも見ている僕は、すぐに気づいた。有夏は能力を使うつもりだ。しかも、使おうとしてる位置的に、心臓だろう。それをすれば恐らく彼は死んでしまう。そんなこと、彼女にさせてはいけない。僕は声を張って彼女に呼びかけた。


「有夏ちゃん! やっちゃだめだ!」

「ええ、本来はやっちゃだめなことくらい分かってる。でも、壮一君を苦しめた事実は変わらない。だから、相応の罰と、わたしの怒りを与えたい。こいつの心臓がどれだけ腐ったものか、実際に確かめてやりたい」

「僕はなにも痛みはなかったよ! 本格的にやられる前に有夏ちゃんが助けてくれたんだよ! だから、もうそれ以上は……やめて……」

 

 途中で涙声になってしまい、徐々に声が弱っていく。彼女が怖かったわけじゃない。色んな感情が混ざって正直なんで涙声になったのか分からない。でも、これだけは言える。彼女は、僕の臓器をそこまで愛してくれていたんだと。僕は、嬉しかったんだと思う。だから、嬉しいと感動して、勢い余って涙を出したんだろう。


「有夏ちゃん……もう、帰ろう。僕はこうして有夏ちゃんのところに帰ってこれたんだからさ。またいつも通りの日常に帰ろうよ」

「――壮一君は、お人好しすぎる。でも、わたしはそんなところも」


 有夏は言葉を途中で区切ると、心臓に置いていた右手を床に移し、そしてその男と床の一部の位置を取り換えた。男は床に挟まれて半分出ている状態となり、力づくでも出られない状態にされた。


「二人とも! さっさと行こうぜ!」

「こっちこっち!」


 気づくと、太一たちが相手していた男も二人によって気絶させられており、すでに帰り道の方へと移動を始めていた。


「じゃあ、行こうか。なんの主義もない、僕たちの日常へ」


 僕は静かに彼女の手を握ると、彼女は力強く握り返してくれた。僕は心が熱く脈打つ鼓動がはっきりと感じながら、僕たちは太一たちを追って行った。


 

「お、やっときたかよ。全く、待機給でもくれよな全く」

「ま、まあそういわないで舟木君。狭間君が無事に帰って来たんだからね?」

「分かってるって。本気で言ってないからよ」


 出口には舟木伸一と川嶋玲奈が今か今かと待っていた。見張りの人たちは二人の能力によって水分を与えられすぎて動けなくなっていたり、熱線で縛られていた。


「舟木君に川嶋さん。二人も、ありがとう」

「お礼を言うならまたあのダイニングバーをお前の奢りで行かせてくれよな」

「お、奢りじゃなくても良いから、わたしも行きたいな」


 舟木たちも特に嫌がることなく、そんな日常的なことを言ってくれた。そのおかげで、僕はまたいつもの日常に戻れると思った。でも、最後にそれを遮ろうとする人が、現れたのだった。


「やあ、こんばんは、皆さん」


 聞き覚えのある通りの良い声。見ると、女性と見間違うほどの美麗な青年だった。その短髪の髪が夜の風に揺られて、マフラーとともになびく。そんな風に当てられているにも関わらず、僕の心は苦く熱い。


「まあ、皆さんにとってはこの程度の出来事は苦でもなかったみたいですね。ま、3人は超力者でしたし、当然ですかね」

「まさか、僕の拉致を考えたのって、君なの?」

「さあ、どうでしょうか。ただ、まあこれで分かったでしょう。この辺では特に、君と彼女のような異種カップルは、どちらの至上主義者にとっても面白くない。それを認めてしまう懐も余裕がないんですよ。悲しいことにね」


 てっきり僕たちの存在が気に食わないだけかと思っていたが、話を聞いている限りそれだけではないようだった。まるで、今の至上主義者の余裕のなさを嘆いているような。


「それぞれの存在だって使いようがあるんです。当然、超力者が一番ですけど、健力者も殊力者も利用価値くらいある。なのに、今の至上主義は利用することも考えていない。全く勿体ないことなんです」

「それじゃあ、あなたの野望は、殊力者と健力者を何かしらで利用してやろうと画策してるってことね。あなたのそういうところが時代に追いついていないのが分からないんじゃ、いつまでたってもこの問題は続くわ」

「そうですね。それがまさに問題なんです。考えが古いと否定したって、似たような考え、その考えに共感する人が出てくる以上、この至上主義の世界は終わらないんです。――そして、それを終わらせるためには、少なくともそれを終わらせられそうな素敵な考え、そして体現している人が声を上げ活動していかなければ、いつまでも泥沼化します」


 

 ここまでの話しの流れを聞いて、僕は少しわかった気がした。この青年がどんな話へ持っていこうとしているのかを。そしてそれを恐らく僕の口から引き出そうとしている。恐らく僕だけに話しはしていないだろうけど、だけど、まさに彼が言ったことを、僕たちにも体現してみろということなのだろう。


「君の言いたいこと、多分だけど分かったよ。そして僕は、その話の流れに乗ってやろうって思う」

「――壮一君」

「僕は、有夏ちゃんと出会って、別に超力者とか、殊力者とか、健力者とか関係ない、みんながそれぞれの日常を過ごせるようになればいいのにって思ってる。だから、僕は “共存”の道を模索する。似たような思想を持っている人たちと一緒になって、活動して、この二極化した世界の思想に介入していくよ」


 僕の言葉は多分今はまだ宙に浮いてすぐに飛ばされてしまうだろう。でも、今回のように、全く争いを望んでいない人たちが無作為に巻き込まれる世界は正しいとも思わないし、良いとは思っていない。今回は極端に死ににくい僕が選ばれたけど、僕のような人がたくさんいるわけじゃない。もしかしたら、僕の知らない情勢でこういう事件がたくさん起こっているのかもしれない。この事件によって、否が応でもこの至上主義の情勢に興味を持たざる負えなくなったのだ。そして、このように仕向けたのも、恐らくこの青年だろう。僕をこの情勢に介入させることに何の意味を見出しているのが知らないが、それに関しては、こちらも流れに乗ってみることにした。


「壮一君の決意でわたしも決めた。わたしも、乗ってやってみる。確かに、このままだとわたしたちが一緒に生きるのは中々大変そうだし。

「もちろん俺たちも協力するぜ! こんなすぐに結果が出ない勝負事、楽しいに決まってるしな!」

「有夏たちのことを応援したいしね!」

「ま、俺たちはメリットがあるなら、参加しても良いかな」

「伸一君、さっきは「無償でも協力してやろうかな」って言ってたよ?」

「……今のは冗談さ。分かってるだろ玲奈」

「ふふ、はいはい」


 舟木や太一たちももはや僕の気持ちに賛同しており反論の余地もなさそうだった。また次の機会にでも話しはするとして、今は青年と向き合うことにした。


「君は、こうなることを予測していたんでしょ。というか、こうなるように仕向けたんでしょ。今回は確かに自分にも想うことがあったからこうなったけどさ。君の目的は一体何?」

「僕の目的なんて関係ないでしょう。でもま、確かにこうなることを予測して動いていたのも事実ですよ。だから、君には至上主義に染まった野蛮な人たちにはならないでほしかった。そこに野蛮な人たちもいますが、でもまあその人たちもまだましな方ですし。これでこの拉致事件も終わりです。――また、会いましょう」


 青年はそう言い残し、そしてテレポートでその場から消えていった。そして、残された僕たちはお互いの顔を見合い、ひとまずこの場から出ることにした。湯沢と舟木が親の自家用車を持ってきており、僕たちはそれぞれに乗り込んでひとまずは近くの複合施設へと向かい、そこのフードコートでお互いの無事を確認しあった後、それぞれの帰路についた。


 都市開発され整備された歩道を有夏と共に歩く。未来世界の季節は秋と冬しかなく、ちょうど今は秋の終わりを感じるくらいの冷たい風が頬とつないだ手を冷やす。


「なにはともあれ、無事でよかった。てっきりあなたの頭を抱きかかえて帰ってくることを想定していたわ。それを入れる箱も一応用意していたけれど、まあ、いつか別の機会に使うことにする」

「それはそれは用意周到なことだね。でも、有夏ちゃんたちのおかげで助かったよ。拷問される前に来てくれたからね。――ねえ、有夏ちゃん」


 僕は、今思っている気持ちを素直に聞いてみることにした。今まで僕が想っていたことで、そしてこれからの僕たちに必要なことだと思った。


「何で僕を助けに来てくれたの? その、君が愛しているのは、僕の臓器だけだと思っていたからさ。今回のことも、危険に飛び込むほどのことはしないんじゃないかって思っていたんだ」


 正直な考えを彼女に伝えた。普段だったら絶対に聞けないようなことも、今のこの状況と流れであれば不思議と聞けてしまった。彼女は少し静かにしていたが、この言葉を紡いでくれた。


「壮一君は今までそういう気持ちでいたんだ。そっか。……正直、ちょっと悲しいな。まあでも、それくらいにわたしが曖昧にしすぎたっていうのもあるから、仕方ないのかもね」

「有夏ちゃん?」

「――あのね。確かに最初の頃はあなたの臓器にすごく魅力を感じて、そして付き合っていた。けれどね。そんなにわたしも非情な女じゃないんだ。ちゃんとあなたという人格に触れて、あなたという人間にも惹かれていった。だから、今のわたしは、あなたの臓器も含めて、壮一君という存在が愛おしいって思ってる。だから、今回も助けに行ったの。危険だというのも分かっていたけど、それ以上に壮一君を助けたかった。だから、そんなこと言わないでよ。心臓愛でるよ」


 彼女らしいブラックジョークについ笑みを誘われ、そして彼女の伝えてくれた気持ちが嬉しくて目から季節に似合わない粉雪が滴り落ちる。僕はその粉雪を空いた手でふき取り、彼女に向き合う。


「ありがとう。おかげで僕は大きな勘違いに気づけたよ。僕は、もっと自分に自信を持つべきだったんだ。ごめんね」

「これで、これからは、お互い、同じ気持ちでいれるのかもね」


 今までの僕たちの気持ちの向き方は、すれ違っていた。僕は彼女を愛して、彼女は僕の臓器だけを愛しているのだと思っていた。僕は彼女を、彼女は僕たちを愛していると思っていた。でも、もうこれからはそんなずれのある愛でなくていい。僕は彼女を、そして彼女は僕を含めた僕たちを愛してくれている。そんな関係になって、僕たちもこれからを過ごしていくんだ。


 有夏を家まで送った後、僕も自分の家に戻った。夜も深まりつつあるなか、僕はココアを入れてベランダへと出た。ここからの景色はいつも僕の心を落ち着かせてくれる。ここで僕はここ最近で起きていた出来事を思い返していた。太一たちのテニス勝負に舟木たちのダブルデート、そして昨日今日の拉致の件。異常な世界で起きた、些細な出来事。でも、体験をした僕にとっては改めてこの世界が異常なんだと再認識した出来事だった。そして、もう後戻りも出来ないことを、僕は進めようとしている。どちらの至上主義にも属さない、第三勢力。共存を抱える勢力として僕はそれとなく活動をしていくことを、決意したんだ。


 外ではまたテレポーターが散歩の休憩がてら屋根に座っている姿が見える。今見える彼は太一たちの出来事があった時にもいた子だ。どこかの高校生らしい制服で飛んでいるので結構目立つし覚えていた。彼は一瞬僕の方を向いたが、その後に屋根から落ちるようにまたテレポートを始めて消えた。彼を見送った僕も、ココアを飲み干し、そして部屋へと戻った。


 これが僕たちが活動を始めたきっかけだった。超力至上主義の彼に導かれるような形で始まったこの戦いが、まさかこの星全体を飲み込む出来事まで発展するとは、誰もこの時には予想もしていなかった。でも、そのおかげで出会えた人たちもいた。こうしてこの星の物語は語り続いていくんだろう。数多の物語は僕の知るところ、知らないところで、これからも綴られていく。

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未来世界物語 僕は君を、君は僕たちを 後藤 悠慈 @yuji4633

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