出会い1

ⅰ 熱き運動系カップル

 僕は、ベランダで風に当たっていた。今日も彼女に提供したため、疲れた体を、夜景を見て癒す。僕のアパートは、大きな駅の近くなため、人が遅くまで多い。それだけ、喧嘩も絶えない。特に、殊力者と超力者が鉢合わせたら、それこそ死者が出るほどに、激しく。


(最近、そういうニュースが多いから、気を付けないと)


 なんせ、殊力者と超力者のカップルは、過激派にとって嬉しくない関係だ。だから、今日も、彼女を家まで送った。まあ、僕は非力だから、何か起きても、結局彼女が勝手に動くだろうが。

 外を眺めていると、ふと、向かいの建物の上に、制服を着た少年が急に現れた。テレポーターの超力者だ。夜の散歩だろうか、でも、それにしてはきょろきょろと頭が動いている。誰か探しているのだろうか?と、考えていると、また飛んでしまった。まあ、こういう人は、この未来世界では珍しくない。


「おら、格下人種は黙ってろ!」

「なんだと!お前ら何様のつもりだこのやろう!」


 始まった。格下と罵った方が超力者で、反論したのが殊力者だろう。全く、よくもまあ、飽きもせずに喧嘩をするな。静かな夜はここまでなので、僕は部屋に入って、布団を敷いて横になる。明日は3つも講義があるので、気合を入れなければならない。彼女と一緒に受けるので、寝てしまっては楽しみが減ってしまう。少しでも彼女を見ていたい僕は、明日に備えて眠りについた。

 

 ――朝は得意だ。この体質上、時間には厳しくしているため、大学の講義が始まる3時間前には起きている。今日も家事をさっさと進め、朝食をとる。大体いつもはご飯に味噌汁、そして、目玉焼きか卵焼き、野菜とベーコンを添えている。僕はお米が好きだ。今の目標は、彼女の姿を見ながら朝食をとること。

 さて、時間はまだあるが、そろそろ出よう。通勤ラッシュに当たるのは絶対に避けなければならない。押しつぶされてそのまま気絶なんてのは、もう嫌だ。大学の準備を済ませ、家の鍵を閉めて出る。しかし、未来世界なんて名前のくせに、まだ鍵を使う物件があるなんて、思いもよらなかったな。その分、とても安いが、今のご時世、何が起きるか分からないため、結構怖いときもある。まあ一番怖いのは、彼女が合い鍵を持っていることだが。さあ、気合を入れていこう。今日こそ無気絶登校だ。




 …………はあ。彼女のまえだというのに、暗い顔をしてしまう。

「どうしたの? 顔がきもいよ?」

「……あのね、それはとてもひどいと思うよ」

「それで、何があったの?」

「……また、気絶してしまった。今度は大学の構内で、たまたまぶつかった美青年によってね。はあ、あと少しで無気絶登校出来たのにな……」

「そ。まあ、大学構内まで来れたなら良いじゃない。早く学食に行きましょ」


 彼女は相変わらず、“僕”には厳しい。まあ、そこも彼女の魅力の一つなのだが。そんなことを考えていると突然、後ろから走る音が聞こえてくる。なんだろう、嫌な予感がする。


「はああああ! 学食に先に着いた方が勝ちだからな! 南!」

「ええ! 分かってるわ、太一! 負けたら驕りね!」

「なに!?初耳だ!」

「今追加した!」

「ようし! 受けてたぁぁつ!」


 彼等だ。津南太一つなん たいち湯沢南ゆざわ みなみカップル。太一は動体視力の、南は身体能力の殊力者だ。テニスサークルに入っているバリバリの運動系だが、あんななりして、所属学科は心理学という訳の分からない組み合わせ。そして、いつも二人で勝負事をしている情熱。それらもあって、学科内ではとても有名な学生カップルだ。二人とも運動神経が良いので、勝手に避けてくれるだろうと思っていたが、今日ばかりは運が悪かった。二人とも何かにつまずき、一直線に僕の方へ突っ込んできたのだ。


「ごめぇぇん!」

「あぶねぇぇ!」

「ごふっ!」


 僕は背中に二つの人間弾丸を食らい、下敷きにされる。当然、即気絶した。今日は特に運がないみたいだ。これ以外に何も起きないでほしい。




 ――目が覚めたそこは、医務室だった。もう慣れた光景だが、先生にはいつになっても慣れない。


「おはよう、狭間くん。あなた、骨折れてたわ。勝手に治ったけどね」

「八木原先生。すみません、ご迷惑をおかけして」

「いえ、むしろ観察が出来るから大歓迎よ。今ここでもう一回骨を折って観察したいくらいにね」

「……やらないですよね?」

「気分次第ね」


 こういう時は早く出てけと言っていると解釈している。なので、荷物を持って医務室をでる。外には、あの二人と、彼女がオルメアを操作しながら待っていた。


「狭間! 本当にすまない! 俺としたことが、何かにつまずいちまうなんて……」

「本当にごめんなさい! 私としたことが、何かを避けられないなんて……」

「いや、大丈夫だよ。回復力が僕の取り柄だし、ほら、もう何ともないよ」


 僕は二人に元気な姿を見せる。二人は安堵の表情を浮かべ、肩を下す。とても心配していたみたいだ。二人にとって、人にぶつかるなんて滅多にないだろう。今回のことがトラウマにならなければいいが。


「じゃあ、俺たちは次の講義があるから、もう行くな! 本当に悪かった!」

「ごめんなさい! さあ、太一! 次の教室まで勝負よ! 勝ったら寝る! 負けたら寝ずに内容を覚えて教える! Ok?」

「良いぜ! 用意、ドン!」


 早速勝負を始めて行ってしまった。心配することはなかったみたいで、ひとまず安心する。しかし、いつもあんな勝負事をしているのだろうか。楽しそうではあるが、僕なら絶対何回か気絶してしまうだろう。少し羨ましい。


「私たちも早く行かないと遅刻よ。それとも、私たちも勝負する?」

「そんなことしたらまた気絶しちゃうから、普通に行こう」

「そう。つまらないの」


 そうして、僕たちも教室へ向かった。これ以降、他には何も起きずに一日が終わった

 今日も彼女が家に来る。掃除はしたし、見られて困るものもない。そもそも、あまり部屋にはものがない。そのことを彼女に指摘されるが、そういう時は必ずこう答えている。


「君のために何もないんだよ」


 我ながら臭いセリフだが、実際そうだから仕方ない。彼女が彼女の世界に入ったときに、物が多いと邪魔してしまうかもしれない。そんなことは防がなければならない。この世で一番美しいものを、汚してはならない。そして、今日も、彼女に臓器を提供する。


「はぁぁ……このきれいな肝臓……とても美しいわ……本当に、壮一くんの臓器はすべてが美しい……あなたの臓器が見られて、私は幸せよ……」


 今日はすぐには気絶出来なかった。なので、彼女が発する言葉を聞くことが出来た。そう言ってもらえて、僕もうれしい。君のその表情と感情が、僕の幸せだ。君に会ったあの日から、僕の臓器は君を喜ばせるために存在しているようなものだ。僕はこの時間が、最高に愛おしい。だから、明日からしばらく出来ないのはとても悲しい。とにかく、今はこの時間を長く感じていたい。そう願いながら、限界を超えた体は意識を飛ばしていった。

 ――翌日、大学に来ると、ある張り紙が張ってあることに気づく。それにはこう書いてあった。

『挑戦者求む! テニス勝負に勝った男性は1週間、湯沢南を好きにできる権利を与える!』

 なんだこれは。最初はそう思った。しかし、その張り紙は彼女にとってとても重要だった。そして、張り紙の意味を知ったとき、彼らがいつも勝負事をしていた意味を知ることになった。それは、僕たちには理解できない、彼らだけの愛の形だったのだ。


・あとがき

 運動系はだいたい日焼けしている。

 読んでいただきありがとうございます。未来世界です。皆さんは、超能力を持つとしたら何を持ちたいですか?自分はテレポートですね。やはり、どこにでも行けるというのは素敵ですよね。そんな世界は、今後来るのでしょうか?

 ご意見、批評をどうぞお願いします。『この未来世界に夢と希望を。この星に賛美を。読者のあなたに感謝を』

https://kakuyomu.jp/users/yuji4633/news/1177354054883185816



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