第19話「激突!神剣VS聖剣!」
アーサー01、カリバーン一号機のエディン・ハライソは落ち着いていた。後部座席の姉、エリシュ・ハライソにいたっては
鋭い殺気が
高高度からの
そして、敵の
これを同数、
「姉さん、少し振り回すけど……いいかな?」
「いいわよ、フルサポートしたげる。えっと、敵は……ありゃ? 識別コードがある。登録されてんだ……ええと、なになに……"ハバキリ"だって」
「
「あら、そう。こっちだって騎士王の聖剣よ? 名前だけなら負けないわ」
「名前だけなら、ね」
――エンゲージ。
一瞬でエディンの知覚する空域全てが戦場になる。
背後では今、量産機の"カラドボルグ"で雇った傭兵達が
傭兵を渡り鳥に例えるのは、古来より変わらない。
彼等は金だけで命を賭ける。
金がある限り、決して裏切らない。
そしてエディンは知っていた……このウルスラ王国を守ると決めた人は、もしかしたらウルスラの最初で最後の女王になるかもしれない人。この
彼女は、金と一緒に傭兵達に宝物を握らせた。
それは勇気と名誉、そして
「エディン、敵機に高出力反応! 変形したっ!」
「やれやれ、アウトレンジで一方的に撃たれるのは……嫌なもの、だねっ!」
機体を
ビリビリと空気の
苛烈なGの中で、エディンは
高出力のビームが空を裂く。
問答無用で対象を消し去る、まさしく一撃必殺の光だ。
だが、その輝きに照らされる"カリバーン"が加速した。
「姉さん」
「あいよー、チャージまでの時間は計ってるから。おもいっきりやんなさいよ、エディン!」
夜明け前の空を
その発生源を
"カリバーン"の背には今、追加装備であるシールドブースターが備え付けられている。その推力を合わせて、ラムジェットエンジンが
相手も即座に、射撃を終えるや変形して離脱を試みた。
デルタ翼の黒い機影が、雲を引いて宙を舞う。
「ねえ! エディン! あのさ!」
「何? 姉さん。今、少し忙しいんだ」
「八岐大蛇ってさ、首が8本あるのよね? 日本のアレ」
「そうだよ」
「首が8本、尻尾が1本。じゃあ、マタは9個じゃない? クマタノオロチじゃない?」
「ん、まあ……舌を
上昇で逃げる"ハバキリ"を追って、"カリバーン"が天を駆け上がる。
恐らく、スペックは互角か、それ以上に相手が強い。それを知る相手だからこそ、パワーに物を言わせて上昇で振り切ろうとしているのだ。パワー差を補うためなら、重力を使って降下で逃げる。
つまり、あの"ハバキリ"を使っている人間は、"カリバーン"のスペックを知っている。その上で、ラムジェットエンジンや
「エディン! 敵機から通信!」
「
"カリバーン"のフルスピードが、じりじりと離されてゆく。
あらゆる戦術オプションが無効化される距離へと逃げて、敵の"ハバキリ"が再上昇。完全に振り切られる形で仕切り直しになった。
だが、エディンは姉が繋いでくれた回線の向こうへと問いかける。
「
何の
その間も、エディンは繊細な操縦で敵を追っていた。
シールドブースターを得てフル装備になった"カリバーン"でも、"ハバキリ"にはついていくのがやっとだ。その力の差が、最悪の解答をエディンの脳裏に浮かべる。
恐らく、"ハバキリ"は"カリバーン"の製造と運用のデータを元に建造されている。量産型として取り回しと整備性を重視した"カラドボルグ"と同時期に……更なるハイスペックと新兵装の装備を試みた実験機というところだろう。
それを作った連中のことは、今は頭の中から追い出す。
そして、向こうからは思いもよらない言葉が返ってきた。
『ヒャハハッ! 眠いこと言ってんじゃねえよ……
「繰り返す、貴官はウルスラ王国の領空を侵犯している。至急、離脱されたし」
『……つまんねえ奴だぜ。ハッ! 手始めに手前ぇを
背後でエリシュが「あ」と声を発したのが聴こえた。
それを最後に、エディンの周囲から雑音が消えてゆく。
普段から温厚で冷静、冷徹とさえ言える鋼のメンタリティを持っているのがエディンだ。
そんな彼のフラットな感情が、更なる冷たさに凍ってゆく。
禁断の言葉を聴いてしまった時、彼の理性は薄れていった。
「……馬鹿姫……
「ちょっとエディン! 背後を取られたわ! あいつ、速いっ!」
「騎士気取り? やだなあ……姉さん、笑えないよね。僕は騎士気取りじゃない。僕が、僕達が……オーレリア陛下の騎士だ!」
殺意の
磁力炉の力でジャマーを展開したが、撹乱されないミサイルもある。
その追手を振り切るどころか……エディンは突然、急反転した。
立てた機体を空気に預けて、その抵抗で急減速したのだ。
突然、ターゲットが急激に接近したことで、ミサイルの近接信管が作動する。
だが……爆発のその内側へと、
そのまま逆さまに飛びながら、瞬時に変形する。
「エディン! クロスレンジ! ブッ叩いて!」
エリシュの声が走る。
背面飛行のまま変形する"カリバーン"の前で、"ハバキリ"もまた
"ハバキリ"が手にしたのは、前腕部から飛び出てきたナイフだ。
だが、エディンが"カリバーン"に握らせたのは、
『楽しいなあ! 騎士気取り! ハハッ、そのダンビラで相手をしてくれるのかい!?』
「気取ってる訳じゃないよ。僕はオーレリア陛下の騎士そのものだ」
『抜かせっ、オラァ!』
シールドブースターは機兵形態の時は、左腕にマウントされて文字通り
有効だと今、エディンが証明してみせた。
"ハバキリ"の繰り出したナイフの
同時に、"カリバーン"のツインアイに光が走る。
手にした剣が、空気が渦巻く一瞬の擦れ違いの中で振るわれた。
僅かに胴体をそれて、"ハバキリ"の脚部を
そして、異変に敵の声が跳ね上がった。
『な、何っ! マグネイト・ジョイントが!』
エディンが繰り出した斬撃が、"ハバキリ"の脚部を
『クソッ、左のエンジンを持ってかれた! 左脚が!』
これが、エディンの発案で
高度を取って再び
研ぎ澄まされた意志は冷酷な程に澄み渡り、全く
ウルスラ王国に攻め入る敵、あのオーレリアを
だが、ロックオン寸前で姉のエリシュが叫ぶ。
「待ってエディン! 戦略爆撃機の七割を撃墜、敵が撤退する!」
「……了解。
「その、えと……やめてくれる? やめよーよ。今ならあれ、叩き落とせるけど」
「撤退を始めた敵は攻撃できないよ。オーレリア陛下が望まない限りはね」
"ハバキリ"の脚部は今、片方の
その威力を確かめ、エディンは撤退する敵を見送る。
だが、この勝利は戦略的な意味もなく、抜本的な解決に何ら作用しない。
それでも世界は知った……故国を守るオーレリアの決意と、それを体現する騎士達の戦いを。
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