もしもし?こちら王立海軍要撃隊です!
ながやん
第1話「プロローグ」
とある式典の場で、ソ連大使がオーストリア大使にこう言いました。
「オーストリアにも海軍省があるんですか」
オーストリアは海のない、内陸部の小さな国です。
大国意識を丸出しにしたこの皮肉に、オーストリア大使は
「おたくにも文化省があるでしょう?」
まさしく、会議は踊るとはこのことだ。
だが、第二次世界大戦終戦から百年の節目を迎えた今、
そして、目の前では相変わらず
「だから! 我がウルスラを守るべく、最も大事なのは陸軍! 陸軍である!」
「
「貴様ぁ、わかっとらんな!? 最後は全て、
「わかってないのはそっちでしょう!
だが、この場には残念ながら……軍事の専門家が一人もいない。
オーレリアは本日何度目かの溜息と共に、冷めた紅茶で唇を濡らした。
そんな時、側に控えて立つ男が
「どうなさいますか?
「よい。まずは双方、言いたいことを全て吐き出さねばならぬ。これは、ウルスラ王国が次の百年、次の次の百年を平和に生き残るための大事な話なのだから」
男の名は、シヴァンツ。この国の
だが、秀才の
オーレリアは、シヴァンツを用いて頼るが、信用していない。
亡き父の
そうと知ってか知らずか、シヴァンツが言葉を続ける。
「いっそ、どうでしょうか……殿下。
「シヴァンツ、それはできぬ話だ」
「平和な王国に軍隊などは、という声は、
「それでもだ。スイスを見るがいい……
あの有名な永世中立国、スイス……この国が実は、小さな
スイスでは一家に一丁、軍用ライフルの常備が義務付けられている。
家族を持つ家長、
スイスの全ての学校は、地下に核シェルターがある。
核攻撃にも屈せず抵抗し、国民を守る
古くはスイスは、
だが、ウルスラ王国は違う。
ウルスラ王国はその特異な立場と立地故に、スイスとは違った形で永世中立を保ってこられた。そしてそれは、終わってしまったのである。
「シヴァンツ、EU各国やロシアとの相互不可侵条約……これの
「はっ、残念ながら……先の終戦に際して、各国と結んだ一時的な相互不可侵条約。これは来年で
「近隣の全ての国との不戦を確約させ、破った国を他の全ての国が迎え撃つことを約束させた……その約定がもたらす
「
ウルスラ王国は、国境を接する国、およびその周辺国と相互の不可侵条約を結んでいた。それは、先の大戦でこの土地が、欧州で一番の悲劇に見舞われたからである。
世界は、ウルスラ王国に百年の平和を約束した。
百年間、全く軍事予算を使わずにこの国は復興してきたのだ。
そして、その平和が終わろうとしている。
条約の失効と前後し、ウルスラ王国は百年ぶりに軍事力を持つこととなったのだ。
だが、重鎮たちの意見は真っ二つに割れている。
すなわち、陸軍を重視するべきか、空軍を重視するべきかである。
オーレリアは形良いおとがいに手を当て、考え込む。
「ふむ……なにかよい考えはないものか」
「姫殿下、いっそこれを機に民主化などはいかがでしょう? 国を開き臣民……いえ、国民主権の新たな
「それはならぬ、ならぬのだ」
「失言でした……
騒がしい会議が、一瞬黙ったのはそんな時だった。
声が、走った。
決して大きくはない、叫んだり怒鳴ったりするような声色ではない。
ただ、静かに繰り返しその声は言葉を
「発言を許可していただけないでしょうか」
それは少年の声だ。
誰もが振り返る先で、一人の男子が歩み出る。
彼を射抜いて串刺しにする老人たちが、一斉に
「近衛の小僧が、
「
「
だが、厳しい声を浴びせられて尚、少年は
ただ、
静かにオーレリアが右手をあげると、室内が静かになる。
「よい。発言を許す。なんなりと申せ」
「ありがとうございます、姫殿下」
少年は一歩踏み出し、ぐるりと周囲を見渡した。
そして、とんでもない言葉を言い放ったのだ。
「意見具申します。陸軍派の皆様も、空軍派の皆様も……ここは海軍など如何でしょうか」
誰もが黙った。
重苦しい沈黙が一瞬、部屋の空気を支配した。
そして、あっという間に爆笑が広がる。
オーレリアも思わず
冷静沈着で常に表情を崩さぬシヴァンツも、背後で笑いを噛み殺していた。
だが、
「先の大戦で無数の新型爆弾を落とされ、そのクレーターは全て巨大な
「よいよい! もうよい! ハハッ、笑わせおる! 小僧、下がれ、下がっておれ!」
「聞きましたかかな? ハハハ、山国で海軍など!」
「次は空中戦艦か? それとも潜水艦かね? 三流小説の読み過ぎであるな!」
これが、オーレリアと少年の出会いだった。
親衛隊の近衛でも、変わり者と評判の若き男児……王宮務めの
名は、エディン。
これより始まる、ウルスラ王国の存亡を賭けた戦い……
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