03-3.ガラス越しでも何とかなる対策3:常に思考を「整理」する
読者の方は先週の金曜日に何があったか、覚えているだろうか。
その日の出来事はもちろん、食事の内容、仕事や家事、果ては家族の会話まで。
一般的=健常者の方の場合なら、印象的な事や記憶しなければならない事だけを抜き出して覚えていられるらしい。食事の内容や家事、家族の雑談なんか、ぶっちゃけどうでもいいはずだ。それは、脳の記憶から自動的に消去される。そうじゃなければ、脳のワーキングメモリーはあっという間にいっぱいになってしまうはずだ。
だが、私達発達障害者は、全部覚えている。全部?と首を傾げられそうだが、文字通り、全部である。食事の内容、やった家事、家族の会話、電車に乗っている時に聞こえてきた車掌が言い間違えた停車駅の名称、入浴時に聞こえてきた外の音、寝る前にやった事。
朝から寝るまでやった事を全部書け(言え)と指示されればできてしまう。さすがにそれをこのページに書き連ねるのは飽きられると思うので控えるが、これが「情報の取捨選択ができない」特徴でもある。必要な情報は何か、不要な情報はどれなのかの判別が全くつかないのだ。そもそも、脳にその機能が備わっていないのではという見解もある。
そして厄介なのが、これらの情報を何らかの形で「紐付け」してしまう事象だ。きっかけは何でもいい。ちょっとした「関連付け」だけで、その情報が一気に脳内から引き出されてしまう。
これが、私の人生を苦しめる一因となっていた。祖母の行動や言動が、少しでも夫と似通ってしまうとパニックになってしまう。
祖母の「攻撃」の1つに物の紛失があった。前章でチラリと書いたが、小学生時代はハサミや定規、鉛筆、消しゴム、絵の具、筆、連絡帳、プリント・・・何か1つでも見つからないものがあると、それは「嘘つきの売女の子供だか無くしても何も思わないんだ」と難癖をつけられる。そして執拗に探すのだ。長いときでその日の夕方から翌日の夜まで延々とそれだけを探し続けられた事がある。
その関係上、夫に「○○、無い?」と聞かれてそれが見つからないと、祖母の「攻撃」と今の状況が瞬時に紐付けされる。パニックになり、自傷に走る。壁に頭をぶつけ、包丁を持ち出そうとする。
許して下さい許して下さい、すぐに死にますので許して下さい。
小学校の頃に思っていた情動がそのままリプレイされてしまうのだ。
ちなみに、○○は何でもいい。夫がふと思った事だから聞いただけで、それが無くても別にいい物だったとしても、私にとっては「紐付け」されている内容に変わりはない。夫からすれば意味不明な事この上ないだろう。夫が気軽に聞いた事が、私からすれば死に等しい事だったとしても、それが伝わる訳ではない。当然だ。
主治医に相談した。すると、面白い「対策」が返ってきた。
その日に起こった事ややった事、印象に残っている事。1日の全てを、手帳や日記という形で書いてごらん、というのだ。
人の脳は書く、または人に話すというアウトプット(特に形に残るものがベスト)をすると、「そこを見れば全ての記録が残っている」と判断して、書いた事象を消去し、ワーキングメモリーの容量を空ける習性がある。すると、他の情報が入りやすくなり、自分の置かれている状況や環境、相手が意図している事が読み取りやすくなっていく。
パニックも減るし、何より脳の負担が減るため、過度のストレスや不眠もある程度の改善が見込めるらしい。
そんな訳で、私は現在、手帳と日記を併用して毎日の出来事を記録している。
手帳にはその日やった事の一覧と、仕事や主治医から言われた内容のメモ、もう一つの日記には、印象に残った人の言動や行動、不愉快だと感じた事、逆に面白かった事。とにかく全てを記録している。眠かったり疲れている時でも、手帳の方だけは欠かさない。時間としては15分程度だが、とにかく頭がスッキリするのだ。
最近ではアイディアや読んだ本の内容もメモしておきたくて、もう一つノートを購入した。合計3冊、毎日何かしらを記録し、整理し、書き留めていることになる。
こう書くと割とやってる事はドン引きされる内容だな、とは思うが(デスクに常に3冊ノートと万年筆がある)投薬と共にかなり有効な方法だ。
情報を溜め込むだけではいっぱいになってしまう。脳の容量はPCと同じく限界があるからだ。そしてそれを過去の事象と紐付けしてしまうのは、発達障害独特の症状でもあるらしい。また、そういった虐待やネガティブな内容の「過去」はもう消すことはできないらしい。
ならば、紐付けする「前」に消してしまえばいいんじゃね?
そんな訳で、毎日夫に怪訝な顔をされながら、毎日3冊、せっせと「記録」と「整理」を繰り返している。時々ページを戻って読み返すと、ああ、そういえばこんな事あったあった、とは思うものの、それがまた脳の中に戻ってくることはない。
最近では書きすぎてボールペンやシャープペンシルだと手が痛くなってしまったため、安価な万年筆を購入し、それで毎日せっせとカリカリ書いている。手の負担は激減したものの、インクカートリッジは一ヶ月で1本ほど消費している状態だ。
それでも、パニックを起こして死のうとし、夫に哀しい思いをさせるよりはいいだろう。
記憶の「記録」と「整理」。仕事以上に大切な、私のライフワーク兼、生きる上での必要な作業となっている。
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