03-2.ガラス越しでも何とかなる対策2:「理解者」を探す
精神病の世界では、暗喩のような言葉が広がっている。「オープン」と「クローズ」という単語だ。
端的に言えば、「オープン」はそのまま「自分の障害を【公開】にする」。「クローズ」は「自分の障害を【非公開】にする」。
この言葉は、特に発達障害の就活サイトや応援サイト、現在就活中の方のブログ等でよく見かける。社会に馴染み、会社に勤めるにあたり、この「オープン」か「クローズ」かは大きな問題だ。これにより、結局仕事が続かなかったり、人間関係が悪化して辞める原因になる。下手をすれば、私のように鬱病や統合失調症のような二次障害も引き起こす。最悪、自殺の要因にすらなり得る。
どれだけ発達障害に理解があったとしても、企業が障害者を数パーセント雇用しなければならない義務があったとしても、公的機関が支援したとしても、この問題はおそらく未来永劫つきまとい、終わらない社会問題として残り続けるだろう。
メディアや支援団体、精神医学界がどれだけ声を上げても、私達発達障害者が健常者(定型発達者)の能力に遠く及ばないのは変わらない。
足手まといになっているのも、変わらない。
そして健常者のサポートを受けて、やっと「生かされている」ことも、変わらない。
「池沼」
「発」
「アスペ」
「障害者様」
「社会のお荷物」
「なんで生きてるの?」
ネットスラングのように飛び交う言葉。これが健常者の本音だ、本心だ。
当然だろう。自分達が苦労し、文字通り血と涙と汗を流して納めた税金が、私達のような「社会の役に立たない」人間に使われている。
あまつさえ、自分達より楽をし、安易に収入を獲得し、生活している(ように見える)のだとしたら?
逆の観点から一般的に考えてみれば、匿名の世界でなじりたくもなるだろう予測はつく。
だからこそ、だからこそなのだが。
私達には「理解者」が必要だ。
発達障害・自閉スペクトラム障害同士だけではなく、「健常者の理解」が必要だ。
まずはそれを探してみることがスタートだと、私は感じた。
ほぼ同時に私の告知を聞いた夫は幸い健常者だ。「よくわからん」と言いながら、マイペースで支援をしてくれている。彼なりに調べ、考え、どうしたらお互いが元気に暮らせるのかを模索してくれている。
私は次に、友人達に「オープン」にしてみた。全員が高校の同級生で、もちろん健常者。めでたく今年で20年の付き合いになる友人達に話してみた。
「あ、そうなの」
以上。あっけらかんとした回答に、拍子抜けした。
だが、その後のネットワークと連携は私の知らないところで広がっていた。
発達障害をほぼ全員が調べ、私の「困り事」を聞き、理解し、把握し、ストレスや負荷がかからないようにどんどんと対応していってくれるようになった。
時々、友人の自宅で開かれるお茶会や、飲み会に参加すると、さりげなくこんな事を聞いてくれる。
「予定は一週間前ぐらいから決まっていた方がいいんだよね?」
「行きたいところだけ教えて。地図は私が読むよ」
「ここの店、ちょっとうるさいね。この先のお店の方が個人経営だから、人が少ないよ」
彼女達は独自に情報交換をするだけではなく、今では発達障害の番組があると総出でかぶりつき、LINEのグループトークで深夜まで話し合うほど、理解を深めようとしてくれている。
なんでそんなにやってくれるの?の問いの解答は、まだ理解できていない。
「だってさ、やれる方がやれればいいし、あんたがあんたであるのは変わらないし。そもそも、あんた高校からそんなんで、全然何にも変わってないよ。まぁ、原因がわかっただけ、ありがたい事だよねぇ」
「なんだそりゃ。そういうもん?」
「そうよ。でも、あんたの今までの頑張りを見ているから、ってのはあるかもね。ただなーんにもしないで、ニートで、我が儘で、みんなをイヤな思いにさせているなら、この機会に縁を切ったかもしれない。あんたは、私達に必要な存在なのよ」
「・・・・・・そう」
私は、「お茶会」と称して集まる友人達の顔を眺める。「カフェオレ好きだったよね。しかも甘いの」と、ハチミツとシナモンをてんこ盛りにして渡してくれるその手が、やけに暖かい気がした。
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