03-1.ガラス越しでも何とかなる対策1:意思疎通を「見える化」する

近年、「家事の見える化」なんて言葉が流行している。夫婦共働きが当然の現代で、妻側だけが家事をするのはもう不可能だ。妻の負担が増えすぎてしまい、様々な弊害を引き起こす。

犬も食わない夫婦喧嘩ならまだいい。家庭内別居、仮面夫婦、いわゆる夫婦の「シェアハウス現象」・・・最悪、離婚にまで行き着いてしまう。


ただ、私の場合は逆だった。(現在でも)家計の主を担っているのは夫であり、私だけの稼ぎで生活する事など天地がひっくり返っても不可能だ。ならば、私は家事や義両親、親戚付き合いといった事をしっかり、完璧に、夫にストレスがかからないようにやらなければ、真の対等とは言えない。

自分が社会人、会社員を勤めてきた歴は10年ほど。その苦労を身にしみて理解しているからこそ、給料を貰う苦労を理解しているからこそ、全力で頑張らねばならない。

そう考えた私は、在宅ワークを始める前は、とにかく家事を目一杯日中に突っ込んだ。

掃除洗濯に手抜きはなく、あまり得意じゃないし興味もない料理を作り続けた。親戚が来れば手伝い、話し相手をし、どれだけエネルギーを使っても「まだ足りない、金を稼げない自分はもっともっと動かなくてはならない」と強迫観念どころか神経症のように思い込んでいた。

夫がそれを「望んでいるか」なんて当然だと確信していた。

やって当然、やって当たり前。金を稼げない分それぐらいやるべきだ。


そう、勝手に確信し、勝手に思い込み、勝手に決めつけて、勝手に自分で自分を追い込んでいたのだ。


在宅ワークを始めても、それはほとんど変わりなかった。だって「暮らしていけない」金など焼け石に水。だから、今までのピッチで家事をやりつつ、仕事をして勝手に寝込み、できなければ自分をひたすら責め続けた。


ちなみに、夫は、私が思い込んでいた上記のどれ1つとして、望んでいなかった。


ある事がきっかけで、私達夫婦は「擦り合わせ」を始めた。

毎日の生活で、夫が何を望んでいるのか。私がしたい事は何なのか。

その意思疎通を「見える化」してくれたのが、スマホアプリの「to doリスト」だ。


まず、その日私が「やるべき事」と考えている項目をto doリストに書き並べる。

・床掃除

・洗濯

・風呂掃除

・仕事の書類整理

・仕事を2コマ(働き過ぎ防止のためコマ分けしている)

・犬の散歩

といった具合だ。夫はこのリストをみて「何をして欲しいか」を☆つけしていく。

・床掃除 ☆

・洗濯

・風呂掃除

・仕事の書類整理 ☆

・仕事を2コマ ☆

・犬の散歩 ☆

大体こんな感じで、私が「やるべき事」の3分の1程度には☆がつかない。

床掃除と洗濯は毎日やるべき、風呂掃除は2日に1回、日々整理整頓を心がける。

そんな私の「暴走」(あえて暴走と書く)は、夫から見ると明らかにキャパオーバーなのだろう。夫はそんな暴走を望んではいないし、頑張って欲しいとかもこれっぽっちも思っていない。それが、to doリスト活用でどんどんと見えてきた。

下手をすると仕事と犬の散歩だけしか☆がつかない時もある。

冗談半分で「気が済むまでゲームしたい」と書いたら☆がついていた事もある。

何故なのか。これも段々見えてきた。


夫は私が元気でいる事、ニコニコしている事、楽しそうに暮らしている事。

帰ってきてトコトコと玄関に来て「お帰り」と言ってくれる事。

それ「だけ」しか望んでいなかったのだ。

そんな事は、理解の範疇外だった。2次元の中の夫だけだと思っていたが、リアルにいた。しかもそれが私の夫なのだ。面白いものである。


リストアプリは、終わったものにチェックをつけると、自動的にリストが消去される。全部終わったらその日の業務終了。のんびりお風呂に入って自由時間。

夫とおしゃべりしたり、ゲームをしたり、編み物に読書。柔らかい時間が増えた。

さらに、これを始めてから、体はもちろん、心の余裕も随分できた。夫が何を考えているのかが明確に表示され、私が何をしたいのかも夫が把握できる。その上で「やって欲しい事」と「やらなくてもいい事」がキレイに浮かび上がり、双方ストレスの軽減となった。

まさに「家事の見える化」ならぬ「意思疎通の見える化」だ。しかも、対人関係の文脈困難な私にとっては記録としても残り、大変に都合がいい。


発達障害は「何をどこまでやっていいのか」がわからない。相手が何を望んでいるかが見えないため、限界まで頑張ってうつ病になる方も増えてきている。

そこからの回復は年単位だ。完治とまではほぼいかないだろう。


「私はこうしたい」

「貴方はどう思う?」


こんなやり取りを夫婦でやるのは滑稽なのかもしれない。でも、何もわからずすれ違いになって、お互い苦しむ結末よりはずっといい。

アプリにチェックをつけ、新しく☆マークがつく度に、何故か微笑んでしまう今日この頃である。

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