第49話 襲撃ですか?勇者さま。








快適な馬車の旅、、、一緒なのがお兄様ならどんなに、、、



なんて、、考えても仕方が無い事だが、ついつい考えてしまう。



目的地で、もしかしたら逢えるかも?という情報も有る。



到着はまだ先だが、無意識に手櫛てぐしで髪をかす。




『ルチア、綺麗になったね。』、、なんて、、えへへ、、。




主な目的など私に言わせればついでだ。




・・・お兄ちゃん、、、









「うっ!」・・・急な衝撃音と声・・・馬車が止まる。




「大人しく出て来な!」



野盗や盗賊など滅多めったに出ないはずの町外れの主要道でルチア達の乗った馬車が止まる。



わらわらと、何処どこからか男達が現れ、馬車の周りを取り囲んだのだ。




「何者だ!」



聞いた男達から笑いがあがる。




「『何者だ?』だってよ?」




「俺達が普通の村人か? 流しの商人にでも見えるのか?」




「俺達が盗賊以外に見えるとしたらお目出度めでたい奴らだぜ。」




「良く聞け!お前達、この馬車はファリス教団の馬車だぞ!」




「へぇ、ファリス教団ね・・・だからどうした?」




「な、なにっ?貴様らファリス様の偉大さを知らぬのかっっ!」



興奮気味こうふんぎみに大司教が叫ぶ。




「大司教様…つば飛ばしながら話さないで下さい。」




「そんな事を気にしている場合かっっ!」




「場合です!」



ルチアは即座そくざに言い切る…広いとは言えない馬車の中での環境は大問題だ。




馬車の中からの言い合う声に盗賊達は思う。



・・・盗賊達にしたがうかどうかで言い争っているのだと。




「あーっ、いや、失礼した。ファリス教団ね、ファリス教団。」



解ってくれたのか…。



と、思ったが、、



「ファリス様に感謝だな!身代金みのしろきんの請求先まで教えてくれるなんてな(笑)」




「な、何を…。」




「これだけの馬車に乗ってるんだ。その教団のおえらいさんなんだろ?」




「この馬車だけでも高値で売れる、、しかも身代金までとは…感謝この上ないぜ!」




「き、貴様ら、この罰当ばちあたりめがっっ!」




大司教様の対応は裏目裏目に出てしまっている。




死角になっていて確認出来ないが、先程の衝撃に音、、、



・・・多分、御者ぎょしゃさんは殺されてしまったのだろう。




このままでは、、、




「大司教様、黙ってて下さい。私が外へ出て話してみます。」




「ル、ルチア、外は危険だ!」




そう、ルチア達は外の状況も分からぬまま、大声を出して外の者達と話していたのだ。



分かっているのは小さなのぞき窓から見える情報が全てなのだ。




誰が交渉相手なのかも分からないままではまとまる話もまとまらないだろう。



特に今回の様に相手が優位に在るのなら尚更なおさらだ。



まあ、大司教の言っている事も解らなくは無い。



この馬車は丈夫じょうぶ頑丈がんじょうなのだ。



外見は少し大きいだけの普通の木製の馬車だが、幾重いくえにも鉄の板を織り込んだ車体をしている。



剣や槍、斧で壊そうとしても丸一日掛かっても難しいだろう。



ここは主要道なのだ。交通量も少なくはない。



その内、誰かに発見されて助けも来るだろう。



襲われているのがファリス教団の馬車となれば何を置いても助けを呼んでくれるのは確実だ。




だけど、、そんなに上手く行くのかな?…可能性は低いとルチアは思う。



先程の会話で盗賊達は『この馬車』自体も高く売れると獲物の一つに数えているらしい。



馬車に傷を付けたくないと盗賊が考えたなら、助けを待つのも得策に思えるが…



多分、こもる作戦は上手く行かないだろう。



私でも思い付く。



こんな所で何もせずに、誰かに目撃されたり、運悪く正義の味方気取りの冒険者が現れたりした日には…



盗賊達もそんな危険はおかしたりしない。



ルチア達を殺すつもりなら…



中にるはずの金品に期待して馬車をあきらめれば良い。



・・・火をけて中の人間ごと焼き払ってから金品をあさればいい。



どうしても馬車ごと手に入れたいなら…例えば、一旦、川に沈めてしまうとか…。



少なくとも、この場にはとどまらない。



盗賊達の拠点まで馬車ごと移動して、ルチア達がを上げるのを待つのも良い手だろう。



腹が減り限界になれば誰でも一か八かで逃げようと外へ出る筈だ…そこで捕らえる。



中に居る人間が死を恐れぬ程の強い意思を持っていなければ、馬車も人質も両方手に入る。



うん。・・・いい作戦だ。



と、ルチアでも思い付くのだ。



悪事を日夜考えているプロである盗賊の面々めんめんが思い付かない訳が無い。



・・・駄目だ、、待つのは愚策ぐさくにしかならない。



迷っている内にも、盗賊達は馬車を傷付けない様に扉を開けようと頑張っているらしい。



残念ながらこの扉は中からしか開かない構造になっている。



馬車自体を破壊するか、馬車を製作した職人でも呼ばない限り、外から開けるのは不可能に近い。



その点、盗賊達は失敗したのだ。



こんな馬車だ、と、、ファリス教団の馬車だと分かっていたなら、御者ぎょしゃを殺さず人質にして中の人間に出て来る様に要求すれば良かったのだ。



それをしなかったが為の今の状況なのだ。



「おらっ!!早く出て来いやっ!!」



ルチアは気の毒に思う・・・。



怒鳴どなった所で出て来る訳が無いのが解らないのだろうか?



おどせばおどす程、中に居る人間は怖がって出て来ない事も理解出来ない連中なのだろうか?



だが、今、ルチアは相手の言う通りの行動を選択しようとしている。



自分で選択した事だが盗賊達は『脅しに屈した』と思う事だろう。



結果が同じだからと『屈した』と思われるなんて屈辱くつじょくだ。



「お兄ちゃんなら…こんな時どうするのかな?」



ルチアは困った事が有るとこう考えてみる様になっていた。



あこがれの勇者であり、また、孤独こどくの身だったルチアのお兄ちゃんになってくれた、、




・・・フェンお兄ちゃんなら、こんな時は?、と。



勿論もちろん、ルチアにフェンの様に戦えというのは無理な話しだ。



だが、不思議と『勇者の妹なんだ!』という気持ちが自然と勇気を与えてくれる。



『大丈夫、大丈夫だよ、ルチア。』


お兄ちゃんが言ってくれている気がする。




「うん。大丈夫だよ。お兄ちゃん。」



「大司教様はここに居て下さい。何が有っても外へ出ては駄目ですからね?」



立場が逆の気がするが、大司教は教団には必要な人物だ…私なら、、







・・・急げば追い付けるか?



キッドは町で情報を得て討伐隊とうばつたいを追っていた。



「最近活躍かつやくしているキャスティという冒険者が何処どこに居るか知らないか?」



男は町に着いたと同時に、酒場で聞き込みを開始する。


呆気あっけなく、と言うと見付かったのがまるで悪い事の様に聞こえるが、さいわいな事に情報はすぐに手に入る。



「ああ、あの勇者パーティーの事だろ?」



「今、この町で知らない人間なんて居ないさ。」



「何せパーティーを組んでから、全ての依頼を達成して失敗が無いんだからな。」



「勇者と呼んで差し支えない実力者だと俺は思うね。」



素晴らしい!…とうとうキャスティも勇者パーティーのメンバーになれたのか?



勇者パーティーに入れたなどとは手紙には書いてなかったはずだが、、、。



王都の武祭に出させたのは間違いでは無かった。



手紙には『運命的な出会いが有り…』と書かれていたが、、、



まさか勇者に見初められて恋仲に…子供、、孫もやはり勇者に…なんて想像がふくらむ。



「それで、そのパーティーは何人パーティーだろうか?他のメンバーの名前は分かるだろうか?」



「何人?、、って、それはソラとキャスティの二人組に決まってるだろ?」



・・・二人?、、なぜ二人…まだメンバーを集め始めたばかりなのか?



「で、そのソラという男はどんな男なのか知っているだろうか?」



「男?…馬鹿言うなよ。ソラは女の冒険者だぜ。二人組の女勇者だぜ。」



…分からん…前勇者の誰かのパーティーに入れて貰ったのではないのか?



そもそも『ソラ』とは何者なのだ?



勇者では無いのは確かだ。前勇者パーティーメンバーの名前は全て知っているのだから。



そして、ペア、しかも相方は女だと聞いては、想像した孫は想像のままなのが確定してしまった。



「何処に居るか知りたいんだっけな?」



「今、勇者パーティーは新たな伝説を作りに行ってるんだぜ。」



「それは凄い。一体どんな依頼を受けたのでしょう?」



男は『グイッ』っとジョッキを空ける。



「話し過ぎたせいか今日はのどかわくぜ…。」



聞きたいならおごれとの催促さいそくだ。




「で、一体どこに?…あ、この人に酒おかわりを!」



「ああ、勇者ペアはな今、、、」



そして、、話を聞き終わるが早いか町を飛び出したのだ。





「何をしているんだ!…馬鹿娘がっ!!」



冒険者として実力を見せ、町の人から勇者とはやされた、獣王討伐隊を指揮して出陣したという。



獣王討伐とは名ばかりで、これは『戦争』だ。



獣王のおさめる町を攻めとる為のいくさだ。



勇者が兵士として参戦?・・・有ってはならない事なのだ。



まあ、キャスティの勇者という肩書きなどうわさでしかないのだろうが、だ。



に、しても勇者パーティーに入ろうという者が国の手先になって戦だなんて…



先の武祭への参加も『優勝出来る実力が有る』と知らしめるのが目的だった。



元々、本当に軍へ仕官させる気など無かったのだ。



それが・・・手紙が来て 『 帰れない 』 だの 『 同行して修行を 』 だのと・・・



キャスティの言う 『 修行 』 とは戦をする事なのか?


…なんて事はキャスティに限っては絶対に無い、のは重々分かっているのだが。




戦争・・・しかも相手は獣王と聞く。


兵士数万を壊滅かいめつさせる様な相手だ。


しかも、これもまた万を超える国軍兵士を殺した獣人の女も居るらしい。


容易たやすく殺される様なきたえ方はしてはいないが…一人娘なのだ…心配なのだ。




戦いもそうだが、問題は他にも有る。



そもそも獣王軍からは 『 何もしていない 』 らしいのだ。



王国の発表では獣王軍が攻めて来た、と、なっているが、その実、先に攻めたのは王国軍だという。



何もしていない獣人の町を攻め取るなど 『 侵略しんりゃく 』 でしかない。



その片棒かたぼうかつごうなどと…勇者に有ってはならない行為だ。




それを、あの馬鹿娘は・・・。



突然、前方の視界がゆがむ。・・・敵?・・・モンスターか?



「あなた…見覚えが有るわね…パーティーの露払つゆはらい役に付いて来ていた子ね…違ったかしら?」



「!!…フ、ファリス様?!」



「間違いなさそうね。あなた名前は何て言ったかしら?」



「はい。キャラルド…あの時は皆からキッドと呼ばれていました。」



「ああ、キッド君ね…って、もうキッドって歳じゃないわね?」



「はい、そのキッドです。ファリス様は…その姿は一体?」



「説明したいけど時間が無いの。貴方あなたにお願いが有るの!」



「何なりと!」



「…って、あー、その前に確認しなきゃね…剣の腕は落ちたりしてない?」



勿論もちろんです。まだまだ若い者には負けません!」



「言い方が年より臭いんだけど…いいわ!お願いするわ。」



「私の可愛いルチアちゃん…孫娘がこの先で盗賊に襲われちゃったのよ。」



「助けてあげて欲しいの…頼めるかしら?」



「勿論です。自分の力は人を助ける為に身に付けた力なのですから!」



「良かった。すぐこの先よ、任せたわ。」



キッドは身体の血がたぎるのを感じる。



あの時、、あの頃、魔王討伐の為の勇者パーティーに随行ずいこうし、力の温存の為の露払いをしていた。



勇者パーティーの面々…全てにおいて自分より遥かに上を行く存在だった。



憧れていた、、、いつかは肩を並べて歩ける冒険者になるんだ、と。



今、正にファリス様からの指示を受けた。



あの頃の様に・・・。



全身の血肉が若返っていく感覚・・・何でも出来る気がする。



それも 『 人助け 』 を勇者様から頼まれるなんて。



しかも助ける相手はファリス様の孫娘だと言っていた。



勇者に連なる人物…救出を成功させてキャスティを推挙すいきょ出来るかも…。



キッド、、少年とは言えない歳だが、は馬を走らせる。



「待っていて下さい、御嬢おじょうさん。勇者が今、参ります!」








「お話ししたい事が有ります!、、兵を下げて下さい。」


ルチアは大きな声でハッキリ伝える。




「へへへ。いいぜ。」


盗賊達はあんじょう、自分達のおどしが効いたのだと勘違いしている様だ。



ルチアは覗き窓で外を確認するとドアを開ける。



「私が出たら、またすぐに扉のかぎを、いいですね?」



大司教に言い残すと外へと降り立つ。



まずは周囲を確認する…さほど人数は多くはないが、各人が手練てだれを思わせる装備を装着している。




「リーダー、この盗賊団の首領しゅりょうは誰かしら?」


ルチアはおくさずに声を上げる。



「俺だ!…どういうつもりだ?こんな子供を馬車から降ろすとは?」



「私はルチア。ファリス教、神官ルチアです。」



「こんな子供が神官だと?うそ大概たいがいにしろ。」



「それとも子供だからと俺達が手を出さないとでも思ったのか?」



盗賊達から笑いが起こる。



おどけた様に首領の男が言う。



「お嬢ちゃん、今ならまだ『嘘吐うそついてごめんなさい』って謝るなら許してやるぜ?」



また盗賊達から笑いが起きる。



「拒否します!!」


ルチアの固い意思の表れだった。



「な、、に?」


首領の男も予想しない言葉に理解出来なかった。



普通の子供なら自分達を前にすれば泣いて逃げ出すのが当たり前なのだ。



中には恐怖の余り、漏らしてしまう者も居る位だ。



なのに、、なぜ?


戸惑とまどう盗賊達を他所よそにルチアは言い切る。



「私はファリス教神官。そして勇者フェンの妹!盗賊になど屈したりしません!」



『 勇者の妹 』 というワードに盗賊達がざわめく。



勇者の妹?…まさか、、ヤバい相手に喧嘩けんかを売ったのではないか?という混乱だ。


外見は全然強そうには見えないが、この歳でファリス教の神官って、、



、、、実は相当な力の持ち主なのでは?





ルチアは意外な 『 お兄ちゃん 』 … 『 勇者 』 の肩書かたがきの効果を実感する。



・・・やっぱり、お兄ちゃんって凄いんだ・・・



うれしくもあり、ほこらしくもあった。



ついつい妄想もうそうふけりたくなるが、今は駄目だ。



気持ちを切り換えなきゃ。



でも、、格好いいな・・・。



フェンの事を考えると否応いやおうなく気がゆるんでしまう。





妹として自慢したい、という気持ちが、、油断を誘った。




「貴方達なんか、お兄様がやっつけてくれるんだから!!」









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