第48話 対峙ですか?勇者さま。
「リカ!!」
フェンは
シズの説明では林に入って直ぐかと思われたが、相当奥まで来た頃だった。
突き進むフェン、、当然だが見張り役の冒険者に見付かる。
「誰だ!!!」
わざと大声で叫ぶ事による
通常の人間なら戸惑うであろう冒険者の威嚇にもフェンは
敵襲!…誰かの叫びに
フェンは目の端に紅い鎧を見付けると一直線に突き進む。
「待て!このっっ!留まって私と戦え!」
当然、フェンは後から追って来るキャスティの制止など聞く耳を持たない。
「リカ!!!」
更に近付き呼び掛けるが返事が無い。
嫌な予感が
だが、フェンは見逃さない。
見間違いではない・・・生きている!
ここまで接近すれば見張りの冒険者達も黙ってはいない。
各々が経験から来る判断で行動を開始する。
冒険者達のこの場で最適な行動は・・・
知らない名前を呼び、現れたのだ。
間違いなく捕らえた獣人の誰か、もしくは全員を助けに来たのだろう。
そして討伐隊の一員であるキャスティが追っている事から見ても『敵対者』に違いない。
襲撃者の目的の阻止、それに向けて動く。
まるでフェンから獣人達を守るかの様に円陣を組む。
「どけ!!」
フェンは剣を抜く。
…それは『敵だ』という意思表示と『殺意』が有るという意思表示…
円陣を組んでいない冒険者達が武器を抜きフェンに斬り掛かった。
リカは見る…フェンが操る剣の軌跡を。
隙の無い、、美しくもある剣の軌跡。
リカには判る…フェンのそれは鍛練を重ねた者が操る剣である、と。
「、、あぁ、、やはり美しい…」
その剣は美しさとは裏腹に確実に向かって来た冒険者達を打ち倒して行く。
先程、剣を合わせてすぐに解った…このフェンという男が勇者と言うのは事実だと。
そして、本物の勇者はキャスティにも届かない雲の上の存在ではない事が。
この期に及んでもキャスティは思う。
…勇者フェンが武祭にさえ出場していてくれたら、と。
何の
武祭で戦い面識を持ち、勇者パーティーに…と、仕官の他にも期待していたのだが、、
・・・最悪だ。
敵同士で出逢ってしまってはパーティーになど入れてくれないのは確実だ。
もう、勝って自分が勇者になって自身でパーティーを組むか、負けて死ぬか逃げるかして…勇者パーティーを諦めるかしか選択肢が無いのだ。
…いや!まだ諦めるのは早いよ、キャスティ!
自分に
勇者フェンは冒険者達を倒してはいるが、
捕まった獣人達を助けに来たフェンにとっては障害でしかない相手に峰打ちなんて…。
ソラだったら笑い飛ばすんだろうな…『なに甘い事を言ってるのよ』って。
だけど…勇者らしい。
キャスティの中に在る勇者とはそういう存在なのだ。
キャスティは迷う…いっそ勇者フェンの味方しちゃうって、、どうかな?
ここで味方すれば感謝してくれるかも?…そして『パーティーに入ってくれないか?』とか…
…でも、味方を裏切った事を
悩むキャスティには先程から味方の冒険者からの視線が突き刺さっている。
最近有名な冒険者…勇者とも噂される実力者の二人。
その二人が率いての討伐隊だ。
先頭に立って戦うべき人間が敵を前に固まっていたら、批難されても仕方がないだろう。
迷ったキャスティは素直な気持ちを口にする。
「勇者フェンよ、なぜ獣人達の味方をするのです?」
「貴方は人間を守るべき存在の筈だ!」
「なのに、なぜ?」
キャスティは自分の疑問に疑問を持たない。
「そんな事は分かりきっている。」
フェンは堂々と言い切る。
「僕は僕が守るべきだと思う者を守る!」
「それは誰が決めた者ではなく僕が決める。」
「そして、それを害そうという者達は、、敵だ!」
「それは人間であっても同じ事。…敵は敵だ。」
「そして守るべき者は種族が違っても同じ…守るべき者だ。」
「…そんな!…勇者は人間の希望。人間を守るべき存在であるべきだ!」
キャスティも叫ぶ。
「違う!!…人間だけを守るなんて間違ってる。」
「人間だからと言って他の種族に何をしても許される訳が無いんだ。」
「僕は守る…人間も他の種族も!、、皆が平和で居られるように。」
「人間だけが平和に好き勝手出来る世界を『平和だ』と言うなら、そんなのお断りだ!」
「人間だけの為に世界を守る為の道具だと言うなら、僕は勇者なんか、、、」
「その位にしておけ!…その先は勇者が口にする事ではない。」
・・・この声は・・・
「…だが、良く言った。そうだ、ワシもこの町を守る為なら躊躇せん。」
フェンが邪魔になり乱入者が見えないキャスティ。
ガルンもリウルカの紅い鎧を見付ける。
「…リウルカ!」
「ガ…獣王さん!、リカは生きています!」
獣王は獣王であり、前勇者のガルンさんだという事は秘密にしないと…
「そうか。」
それだけ言うとリカの方へ歩き出す。
「と、止まれ!」
冒険者から警告が飛ぶ。
・・・だが、歩みは止まらない、、止まる訳がなかった。
「我が前から今すぐ消えろ!…さも無くば死体すら残さず消してやろう!!」
歩みを進め、フェンに重なり見えなかった獣王の姿を、キャスティは見る。
「な、、なんだ、、あれは…獣王…なのか?」
捕らえた紅い鎧の獣人も強かったが、これを見てしまっては、まるで子供と大人だ。
巨大な漆黒の鱗に覆われた・・・正に
しかも、これ程の鎧なら動けば『ガシャガシャ』と音が出て当然なのだが、一切しない。
しかも、手にしている武器が
獣王本人も恐ろしいが、装備している武器でさえ恐怖を感じずにはいられない。
『…やばい…獣王は、、、無理だ。…何、あの武器?…
獣王の持つ武器、、、異様だった。
まるで武器自身が意思を持っているかの様に、揺らめきだっているのだ。
一度見た事があるフェンでさえ同じ武器なのか判らない。
・・・あの時とは明らかに
零号神斬斧・・・
リカ達を捕らえている冒険者達も、姿を見せた獣王を見、また手にした武器を見ては恐怖する他無かった。
フェンと対峙しているキャスティでさえ、駄目だと解りながらも、ついつい獣王を目で追ってしまう。
もし、ここでキャスティが逃げろと命令し、冒険者達が素直に従ったなら彼等は助かったかもしれない。
だが、キャスティの声は無く、冒険者達は最悪な決断をしてしまう。
「と、止まれ!人質がどうなってもいいのか!!」
紅い鎧…人質の中で一番位の高そうなリカを引き合いに出し、脅しを掛けたのだ。
「それ以上近付くな!!従わなければ人質がどうなると思う!」
実際、リカの鎧には冒険者達の装備している程度の武器では傷一つ付けられないだろう。
だが、冒険者の知識が悪い方向に役立ってしまう。
何事も無い様に歩みを進める獣王。
「止まれ!我々の武器では傷一つ付かないが、ダメージを与える方法なら幾らでもあるぞ!、、やれ!」
『ふっ』、っとリカを掴んでいた冒険者がリカを離す。
「よ、よせ!お前達!!」
何をするのか察したキャスティが叫ぶが、、遅かった。
・・・攻撃魔法が飛ぶ。
「ファイアーボール!」
動けない紅い鎧がファイアーボールで燃え上がる。
「っーーーっっ!!」
意識が有るのか判らないが痛みを耐えたかの様なリカの声が聞こえた気がした。
「リカっ!」
「・・・お前達・・・焼いたの、か?リカをっっ!」
物理的な攻撃が効かないなら魔法攻撃する…冒険者なら当たり前な判断だが…
動けない相手を?・・・魔法で焼く、だと!?
動けないリカの姿がミヤの姿に重なる…
「許せない…許される訳が無い…」
「貴様ら…」
キャスティはフェンの気配が別人になったかの様に錯覚する。
先程までの勇者らしい気配が深く沈み、代わりに冷たい物体が、、
、、、『物』がそこに置かれている様に思えた。
「ほう。…フェン、お前…」
何をしても止まらなかった獣王が立ち止まる。
フェンが跳ねる。
『ガガガキンッ』 何かを削り取られそうな音が響く。
「いい撃ち込みだ。」
キャスティは思う。
獣王に斬り掛かれるだけでも驚きなのに、剣で撃ち合うなんて…
「だが、まだ甘い!!」
獣王が吼え、フェンが吹き飛ぶ・・・距離を取ったのか?
「今のお前なら
「ワシは町へ向かう。」
言い終えると獣王は
『 待て!! 』 との声は・・・誰からも上がらない。
この場に居る誰もが獣王を前にして 『 死 』 を覚悟していた。
だが、その当人が自ら居なくなると言うのだ、、止める者は居ない。
止めなきゃ…キャスティは思うが声に出ない。
このまま町へ行かせたらソラが獣王に…殺される。
だが、止めた所で、、、無駄だろう。
ここの敵を
・・・声が出ない・・・出したいのに声が出ないのだ。
これでは、、、以前 『 違う! 』 と否定した、、
『 私は危なくなったら逃げるからね 』 と言っていたソラと一緒ではないか!
ソラの考えを聞いた時は 『 勇者は他人を守る為の盾になる 』 なんて思っていたが、、、
現状、自分より強いであろう敵は二人、居るのだ。
獣王だけでなく、雰囲気が一変した勇者フェンも目が離せない状態なのだ。
殺気を消して町へ向かう獣王から捕虜を囲む冒険者へ標的を変えたフェン。
何とか勇者フェンを倒し、ソラの応援に…
獣王は私達ごときでは、今回同行した冒険者全員と協力しても倒すのは不可能だろう。
…ならば行動は一つしかない、、撤退だ。
何とかソラの所へ行き一緒に、、、
考えている内にもフェンは捕虜達の方へと歩みを進める。
・・・迷っている時間はない。
「行かせない、覚悟!!」
後からフェンに斬り掛かる…技、、強撃を使った全力攻撃だ。
斬り掛かるキャスティ。
だが勇者は信じられない動きをする。
先に斬り掛かった筈なのに逆にキャスティが斬り掛かられている。
「そんな!!」
『ガキンッ』激しい激突音が鳴る。
強撃を使った全力攻撃だ。技を使わない刀で受けきれる訳が無い!!
キャスティは信じ、剣を振り切る。
…筈だった。
刀が余程の名刀なのか?勇者フェンの技量が高いのか?
技も使わず受けきれる訳が…有ったのだ。
技を使った強撃でさえ、勇者フェンの刀を
まるで鋼鉄の壁にでも斬りつけたかの様に剣が止まる。
思い切った攻撃だった為、勢いが殺せず、自分の剣の背に自身がぶつかる形になった。
『うっっ、、』
顔面への衝突は避けたものの、鎖骨に自身の剣を受け、痛みのあまり息が詰まる。
な、何が…こんな事が有る訳が無い。
遭遇してすぐの手合わせでは互角と見たのだが、、
何かキャスティの知らない技を使ったのだろうか?
そう思いたかったのだ。
…技でもなく、身体能力で私の技を受けた、、弾き返した、とは思いたくなかった。
斬り掛かられてさえなお、フェンの関心はキャスティには向かない。
何事も無かったかの様に捕虜達へと歩を進める。
キャスティの攻撃も効かないのを認識し、捕虜の周囲に居る冒険者も攻撃を開始する。
一気に円陣まで接近すると刀を振るう。
「うっ。」
一瞬の出来事だが、
「そ、、そん…な…。」
キャスティの心臓が跳ねる。
人間を攻撃、、殺した?…勇者が?…私の目標だった勇者が?
人間を守るべき勇者が人を斬るのを直に見たのだ…ショックだった。
初見で敵である討伐隊の冒険者を峰打ちするフェンの姿を見ていた為、
勇者=人間を殺したりしない、と勝手に決め付けてしまっていたのだ。
この時、既に冒険者達の目的は違う物となっていた。
捕虜を奪い返されるのを阻止しよう、などという気持ちは一切無かった。
ただ、自分の命を守る為に戦っていた。
、、止めて!、、これ以上、人間を殺さないでっ!!
キャスティの願いが届く事は無く、斬り掛かる冒険者からフェンは躊躇い無く斬り伏せて行く。
キャスティが結論を出す時間も待つ事なく、とうとう最後の一人が斬り伏せられる。
「リカっっ!」
勇者フェンは目的らしい、紅い鎧を抱き起こし名を呼ぶ。
キャスティも気になっていた事もあり、ただ呆然と見守っているが、、
、、、、
返事、、、が無い?・・・そんな・・・
まさか、、あの魔法で?…身動き出来ない紅い鎧の獣人を焼き殺してしまったの?
キャスティが望んだ事ではないが、事実は事実だ。
『私は…私は止めようとしたのよ…なのに、、』
…なんて言い訳が通る訳がない。
…後の人々は私の事をどう思うのだろう?
勇者に敵対し、身動き出来ない獣人を焼き殺す様な残忍な集団に身を置いた人物と思うのだろうか?
勇者パーティーの一員になり名を残すどころか、人々から
…決してキャスティは良心に反する事をしているつもりはない。
未だにキャスティの中には 『 憧れた勇者の姿 』 が鮮明に在るのだから。
なぜ私は、望めば望む程に理想の勇者とかけ離れた存在になってしまうのだろうか?
今、正に勇者フェンから感じられる怒り。
そして、その怒りが向けられる先は自分なのだ。
なぜ、、どうして?、、、嫌よ!!
私は勇者に倒される為に…悪人になる為に鍛練して来たんじゃない!
勇者になって人々の幸せを守る為に頑張って来たのだ。
「それをっ!、こんなっ!こんなっ!絶対に嫌よ!」
声に反応したかの様にフェンが紅い鎧から離れ、キャスティの方を向く。
その瞳にはキャスティという個人は写ってはいない。
ただ一人の 『 敵 』 としか写っていないのであろう。
町で
私・・・私は勇者になっちゃいけない人間だったの?
こんな出会いでさえなければ・・・
・・・なければ?
なければ、どうだと言うのだろうか?
もっと良い出会いが出来たはず!
嘘だ…な。
違う機会で出会ったとしても良い出会いにはならなかった事だろう。
根本的な信念に違いが在るのだ・・・守るべき者達の事だ。
違いは衝突して意見を戦わせ折り合いをつけられるかどうかだ。
だがもう遅い。
…殺すか殺されるか、の所まで来て何を甘い事を考えているのだろうか。
勇者フェンは既に多くの冒険者を斬り、次は私の番だと言うのに…
彼は言った 『 守る者の為には躊躇はしない 』 と。
その守る者…身動き出来ない獣人を焼いた、、先に傷付けたのは私達なのだから。
もう後戻り出来ない事が、こんなに辛い、、苦しい事だなんて…
キャスティに目標を定めてフェンが動き出す。
…と、フェンの動きが止まる。
どうして?…理由はすぐに分かった。
死んでしまったと思った筈の紅い鎧の手がフェンの服を掴んだのだ。
…生き、、てるの?
…良かった…キャスティは素直に思った。
相手は討伐しに来た獣人のはずなのに生きていてホッとしている自分が居たのだ。
「リカ…すぐに終わらせて治療してあげるからね。もう少しの辛抱だよ。」
自分を掴んだ手に手を添えて優しく下ろす。
またフェンの雰囲気が変わる。
先程までの感情の無い勇者では無くなっていた。
代わりに瞳が燃えている…それは、怒りの感情だ。
「…お前で…最後だ。」
フェンが討伐隊の女を睨む。
…これで、いいの?
キャスティの心が叫ぶ。
勇者フェンは純粋に、守りたい者を守っている。
対して私は・・・
何て薄っぺらい信念なのだろうか?
信念など無いのだ。
… 『 依頼だから 』 という事を言い訳にして、獣人達を害そうというだけなのだ。
戦う前から勇者として正しいのはどちらか?…なんて、既に判りきっている事だったのだ。
戦うしかない、のも、
だが…それが、無性に悲しく、
「戦う、、しかないんだ…」
キャスティも心を決める。
どうせ死ぬなら、今の私の全てを勇者にぶつけて死のう。
もし勇者フェンの記憶に 『 あんな女剣士も居たな 』 と
そう言えば、死ぬのを覚悟したのは二度目だな、、
武祭の後でソラに決着を求め、負けたのだ。
「そう言えば、ソラに 『 負けました 』 って言わせるんだっけ?」
「・・・ソラ・・・ごめん・・・もう会えそうに、、ないや・・・」
私は無理だけど、、ソラなら、あの獣王からでも逃げ切れるかも。
だとすると逢うのは相当先になっちゃうな、、
いいさ!、、あの世で鍛練して強くなって待ってるまでだ!
キャスティの中では何の根拠も無いのにソラは助かる予定になっている。
あと、、もう一つ心残りが有る。
・・・名乗っておくべきかな?
負けるにしても、ただの 『 討伐隊の女 』 で終わるのは何か
私も勇者を目指して鍛練して来た者として、、
いや、・・・笑われるだけか、、
勇者を目指す者が、一体何をしているのか、…今まで一体何を学んで来たのか、と。
私だけでなく、師匠である父まで笑われるのは許せない。
やはりこのまま・・・
隣に、、とはいかなかったが、私の全力、、受け止めて下さい。
そして、身体で、頭で感じ、覚えて下さい。
私、、、キャスティという勇者を目指した者が居た事を、、。
キャスティは剣に力を
「・・・行きます!!」
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