第18話 星王
ふつと沸いた起点は分岐を呼んだ。
トゥエルヴ家や、アーベルハイト家がその岐路に立たされたように。
突如巻き起こった嵐は、天高くの頭上で火花を散らしながら激突もした。
「今しばらくは、世界情勢も落ち着かないだろうけど」
レイリアが語らずとも、後は歴史が語ってくれる。
「そう言えば、星王陛下は?」
その後を問われたアニーは、「あぁ」と唸ってから肩を竦めた。
「鋼鉄の魔女の、どてっ腹に頭突きをかまして以来。残党も追いかけての、相変わらずのようだよ?」
それを聞いて、レイリアは「ふふふ!」と声を上げて笑った。
「あの人らしいね」
星王は、政治などの一切を妻の法王や、相棒の執政らに丸投げしていて。自らは、悪道を決して許さない信念を御旗に掲げたファージアの旗艦を乗り回し、ファージア星団中を飛び回っていて滅多に母星へは帰還しない御仁であった。
その性格は一言で表わせば爽快にして豪快。時に暴走もする冒険家気取りについたあだ名は、予定通りにいかない男、である。
星々の代表首長会議でさえ遅刻するというのだから。それでも最後に登場しては、根こそぎ話題を掻っ攫う男、としても有名で。せっかちだけれど憎めない男が、これまでに上げた功績や偉業を評価している星団民の平均支持率は、常に八割越えという驚異的な数字に人気振りも表れている。
先の凶弾騒動の際も、星王はファージア星を留守にしていた。なれど聖なる祈りの魂が、ヴルヴ家の画策によって撃ち倒れたと聞き及べば。怒りの導火線に火が点いた。
同刻。鋼鉄の魔女も、旗艦とする巨大戦艦の進路をファージア星へと向けていた。
あわよくばそのまま、混乱に乗じた総攻撃でもかけんが勢いの、星間ワープを終えた直後。ファージア星を目前にして。機械仕掛けの大艦の横腹に突っ込んで来たのは――。
「鋼鉄のおおおーっ!」
「穢れし一族など滅ぶべし!」
星間ワープ法もすれすれで飛び込んだ星王旗艦と、迎え撃つ砲門を全開にした鋼鉄陣営は、真っ先に首脳同士が衝突していた。
互いに許すまじ、とした砲火も乱れ弾け。どてっ腹に盛大な頭突きを食らった鋼鉄の戦艦は、複雑に絡み合う銅管や、蒸気のスチームを華々しく撒き散らしながら真っ二つに砕け裂けた。
しかしながら、それでくたばる魔女ではなかった。
これで終わりと思うな、なる咆哮を残し、ひとまずの退散となった事変は。星団中に生放送もされていて、その視聴率は九十パーセントを越える史上最高値を叩き出してもいた。
先陣の切っ先となった星王旗艦は、頭頂部と言うべき艦の先端を大きくへ込ませた、ズタボロの姿をファージアに晒した。けれども、それを批難する者は少なく。称賛を打ち鳴らす万雷の拍手で出迎えられた。
後から法王、
アーベルハイト家の見舞いを昼間に受けたその夕刻に、レイリアは。今や最も世間の話題をさらう御仁の来訪も受けていた。
「黎明の!」
「これは星王陛下」
突然の訪問を受けて、レイリアが横にしていた体を起こそうとするものを。ファージア星王、エディット・マシュトロンは大げさな手振りをもってしてベッドへと縫い止めた。
「あぁいい。そのまま、そのまま――」
すっかり傍付き従者の動きが様になってきたアニーが、ベッドの上半身部分を起こすスイッチに手をかざせば。スムーズな起き上がりに合わせて、エディットも。レイリアと目線を合わせたベッドサイドの椅子に腰を下ろした。
「調子はどうだ?」
「お蔭さまで――」この通り、なる動きをレイリアは見せた。「なかなか退院させてくれなくて。退屈です」と続けながら。その薄っぺらい両肩に、そっとブランケットをかけたアニーに礼も述べた。
誰の目にも、退院などまだ無理であろうことが見て取れる。
平常を装うレイリアとて、内から突き上げてくる根深い痛みには、一瞬のこととはいえ「つっ!」と顔を歪めては耐えるしか手立てがない。
「無茶をしてくれるな」
横たう者を見る目は、友であるものとは違い。我が子を見守るかの、優しい眼差しでもあった。
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