割引シール

ここみさん

第1話

「割引のシールを貼られるお総菜やお弁当って、どんな気持ちなのかな」

夜のコンビニで、賞味期限の近い商品に割引シールを張っている僕の隣で、同い年の少女がその作業を眺めながら、そんなことを口にした

「さぁね、貼られている側の気持ちは分からないけど、貼っている側からしてみれば、廃棄されるのは嫌だから早く売れてくれないかなって感じだね、参考になったかな」

彼女は黙ったまま、神妙に首を横に振った。お気に召さなかったようだ

「だってさ、お前はもうちょっと価値があるものだと思っていたけど期待外れだったよ、みたいなことを言われているんだよ。なんかやるせないよね、勝手に期待したのはそっちじゃん」

「まぁ冷たいことを言うけど、売れない品物に価値はないからね。半額だろうと二割引だろうと、こいつらは金と交換することで初めて価値となるんだから。むしろ僕は、無価値なゴミとして捨てられる方が如何なものかと思うよ」

「それはそうだけど、でも私は勝手に期待されて勝手に失望されるよりも、自分の価値は自分で決めて、自分の価値に誇りを持っていたいな。それで無価値の烙印を押されるなら、文句はないよ。私はそこまでの女だったってことなんだから」

誰かに価値を押し付けられて、あまつさえ失望されるのは、嫌。僕に体重を預けて、そう呟いた

そろそろ日付が変わる時間だ、深夜のテンションってやつで不安定になっているのかな

「まぁ今僕がシールを貼っているお弁当たちは、僕の価値はこれくらいです、この値段で売ってくださいね、なんて頼まないけどね」

「むぅ、はくじょーもの。いいですよーだ」

拗ねた子供のように頬を膨らませ、僕が張っているシールを一枚掠め取った

「どうせ私は期待外れの出来損ないですよぉ」

酔っているのか深夜のテンションなのか、将又嫌なことでもあったのか、変な勢いで僕から取った半額シールを自分の胸に貼った

「どうせ私は税込み価格298のお手頃価格ですよ」

「何か嫌なことでもあったの」

「別にありませんよー」

「はぁ、何があったか知らないけど、僕はそろそろ上がりだからちょっと待ってて。この後、気が済むまで愚痴を聞くから」

僕の自慢の、情緒不安定な彼女は半額シールを張ったまま満足気に頷いた

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割引シール ここみさん @kokomi3

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