1-6 だいたい間違ってない(LU3004年154の日)
死体の惨状はとても見れたものでなかった。
1つ目の死体は右肩から左腰までを真っ二つに切断されおり、糞尿と血が混じった匂い放っている。
2つ目の死体は五体満足であるが首筋の頸動脈を斬られており、辺りの草花に血をまき散らしてた。
凶器になったのは刃物である事は疑いようが無い。
形状はわからないが胴体を切断しうるという事実から推察するに長めの得物だろう。
「勘弁してくれよ……。」
予想だにしていなかった事態に直面し、アークライは嘆く。
まだ、死体の血は固まっておらず、死後間もない事を感じさせた。
それは、あまり離れていない時間帯で、この惨状を起こした犯人は裏口から中に入ったという事を意味する。
「これって……マナ達以外にも侵入者がいるってこと?」
「そう考えるのが妥当だろうな。」
競売品目的の泥棒だろうか?
確かに、これは上層の貴族階級が主催する非合法競売会であり、その為、そこで競売にかけられる品物も高価なものばかりだそうだ。
希少価値の高い宝石を贅沢に使った装飾品、高名な陶芸家が作り上げた陶器、既に失われたとされていた高名な画家による絵画、200年間貯蔵された名酒。
そういったものが出品されるというのだ。
どれもが恐らくはアークライが一生遊んでくらせるような金を出さなければ買えない代物である。
確かに狙うには十分な理由がある。
しかし、一体どうやってその泥棒はここへと侵入したのだろうか?
まず結界を抜けなければならない。
普通に考えればこの時点で相当な難度を誇る筈だ。
となると、招待客の中の人間が盗みに入った?
「アーちん…ちょっといい?」
思案にふけっていたアークライにマナが聞く。
「なんだ。」
「今、その侵入者と鉢合わせになるのは不味いよね?」
確かにとアークライは頷く。
この侵入者はおそらくは既にこの中にいる。
それと鉢合わせになるのは勘弁願いたい所であった。
結果的に大騒ぎになるとしてもできる限り抑えていきたいのが現状である。
それに、この侵入者は相当な手練なのだとアークライは踏んでいた。
人を輪切りにするという、その所業、尋常ではない。
恐らくはこの侵入者は、その過程において魔法を一切使用していないのだ。
通常このような事をする場合は武器にエンチャント、つまりは付加魔法をかけるか、地の2層『強化階層』にて自身の筋力を増強する必要がある。
しかし、前者ならば、何かしら傷口に魔法の痕跡が残るはずであるし、後者ならばもっと力任せに体が引き裂かれたといったような死体になっている可能性が高い。
とするならば、それは魔法を使わずその技だけで人を斬り捨てたという事なのだ。
アークライはそんな無駄な事をする人間がいることに戦慄を覚えた。
そして、それと鉢合わせれば己が無事では済まない事に確信めいた予感を持つ。
おそらくこの死体を作った人間は自分よりも強い。
「マナ、計画の修正だ、こっちは後回しにして目的のものの奪取に動く。」
「ほいさ、了解~。」
その時、扉の奥から悲鳴が聞こえる。
中に入った侵入者が何かを起こしたのだろう。
時間を待たずして大騒ぎになる。
ここにいる事、それ自体がもはや危険だ。
「騒ぎになる、急ぐぞ。」
「うん。」
アークライは駆けた。
……………その5分後。
「いたぞ!!」
「賊がいたぞ!!」
まあ、すぐ見つかってしまっていた訳で
「誰が賊だ!!俺はまだ何もしてないっつーのに!!!」
屋根を登り、はずれの別宅に向けて駆けていたアークライに光が当たる。
騒ぎが起こってすぐにそこから離れようとしたアークライだが、素早く駆けつけてきた警備の人間に見つかったのである。
距離が離れていたのもあって、すぐさま攻撃して無力化する事も敵わなかった。
「2人既に気絶させてるから言い訳無理だよ。」
「ああ、ちくしょう、そうだったな!!」
マナの冷静なツッコミにアークライは下唇をかみながら、ポーチから2つ小さな球を取り出す。
そして、それから出ている線に火を付け、灯を照射している警備に向けて投げた。
それは地に付くと同時に中の特殊な火薬を燃焼し煙を発生させ警備の人間を包んだ。
「とりあえず、今のうちに…。」
「アーちん、前!前!」
再び走ろうとするその目先に屋根を登ってきた警備の男が一人腰にかけていた杖を取り出す。
『我、蛍火を灯す。』
それと同時に紡がれる詠唱。
男の周りにボール状の小さな火球が3つ現れる。
『放て。』
終句と共に放たれる火球。
火球は火弾となって、アークライに向けて疾走する。
「こなくそ!!」
アークライは屋根の端まで走りすぐに跳躍し別の建物に乗り移る事で火弾を回避した。
そして敵がいた位置へ玉を投げた。
玉は着地と共に爆発。
辺りは煙だらけになっており、このまま夜に紛れ込めば一時的に隠れることは可能だろう。
アークライはそのまま屋根から降りた。
その後、すぐにあたりを見渡すがとりあえず付いてきている人間はいないようだ。
とりあえず逃げ切れたようだ。
「ひぃーふぅー、死ぬかと思った。」
窮地を脱した事で大きく息を吐く。
「アーちん、どうする?目的の子奪取とか以前の問題になっちゃったけど・・・。」
マナがそう聞く。
ある意味、この問いは当たり前の問いだった。
見つかってしまった、この時点で目的の女性を奪取することはほとんど無理になったそう考えるのは自然な話だ。
光が目の前に写った。
警備の人間の照明だろう。
アークライはすぐさま物陰に屈んだ。
警備の人間は3人組のようだ。
「おいおい、マジかよ、競売会場に襲撃者って・・・。」
「ああ、競売商品狙ったこそ泥が現れたらしい。」
「どうやって結界抜けてきたんだ?」
「さあな、ただ商品に紛れ込んできたって線が濃厚らしい、馬車小屋に運び屋が拘束されていたらしくてな、そいつ曰く白い髪の女装した男が逃げたんだとよ。」
「うわ、変態かよ。」
「既に4人やられているそうだ。」
「はは、そいつらそんな変態にやれてしまうとは報われねぇ。」
「とりあえずお前らもさっさと行くぞ、ここらで侵入者を捕まえるか殺すかすれば、追加手当で俺ら大儲けだ。」
「おうよ。」
そうして警備達は競売会場へと走っていく。
「なんか結構、俺のせいにされてなかったか?」
不満そうにアークライが呟く。
「半分ぐらい間違ってなかったしなぁ。」
肯定するマナ。
「まあいい、どうもあいつら競売会場へとほとんどが向かっているらしい、たぶん例の侵入者が暴れているんだろう。ある意味逆に好機だ。」
「凄く前向きに自分を納得させようとしているよね……アーちん。」
「事実を喋っているだけだ!」
そう言って、アークライ達は別宅へ向かった。
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