082:補充

 昨日は日も半ばだったこともあり、感覚的には今日が正式なクエスト初日の気分だ。といっても上りが早かったから、あまり作業量に違いはない。それどころか、討伐のついでに連れて行かれた感じだから、仕事自体は楽になっていた。同行者の予定さえ合うなら、二件分まとめて終わらせられただろう。


 中途半端な時間のため、ギルドの待合室は人もまばらで、窓口に居るのは俺とシャリテイルだけだ。職員の間にも、のんびりとした空気が流れている。一際のんびりして見える大枝嬢が、ぐにゃりと微笑んだ。


「確かに、こちら受領しましタ。お疲れさまでしタ」


 本日、俺が手にしたのは14363マグだ。

 前回に続いて依頼報酬は一万マグ。三千は道々刈った分だ。他の依頼であの周辺のものがあり、そこから分割して支払ってくれた。なんだか手間をかけてしまったみたいだが、俺には助かる。

 報酬以外はケロンが800ちょいで、残りは草に含まれていた分。草も強情な奴が多いせいか、背高草よりも随分と実入りがいい。


 しかしケロンの奴、一部のダメージでこんなに手に入るとは、レベルの割に美味しい魔物なんじゃないか? 当然、俺以外にとっての話だ。


 タグをしまおうとして、報酬額を幻視する。タグ自体には何も書かれてないからな。砦は別として、一万続きだ。もしかして、全依頼で報酬は同じ?


「あの、ちょっと依頼書を確認させてもらっていいですか」

「はい、どうぞ」


 今は大枝嬢が預かってくれている依頼書をカウンターに並べる。やっぱり。

 報酬は一万で揃えられていた。

 だとしたら……なっ、合計で、十二万マグ!


「なにか変なことでもあった? どうして青くなってるのよ?」


 じっくり確認したのは依頼場所だけだ。拒否権がなさそうとはいえ、危険すぎる場所なら前もって心づもりをしておきたいし。

 報酬については、今のところ搾取される心配はしてなかった。というか、まだまだ金銭感覚が身についてないからな。相手は安く頼んだつもりが、俺には結構いい報酬じゃんと思えるならそれでいいやと。


「桁が、ちがう」


 正直に言おう。

 一桁下に見間違ってた。


 砦の依頼は、初めに提示されたのはフラフィエと同額だったし、一日しっかり働いたこともありそんなもんかと思っていた。

 え、だって半日だぞ?

 危険区域だろうと、たかが草刈りだ。千マグでもラッキーなのに。

 だだだって約一年分の家賃がわずか二週間そこらで稼げるってことだ。そんな大金を小市民な俺がいきなり手に入れて人が変わってしまったら、どどどうするんだよ!


「えっ、もしかして……足りなかった?」


 逆に勘違いできる感覚が恐ろしい。

 シャリテイルと大枝嬢の丸い目を交互に見る。まるでなんでもない日常の一つで、俺の方が何を騒いでいるのかといった態度。


 森の中での光景が過った。今日の行動は、普段の中ランク冒険者たちの日常を垣間見れたようなものだろう。四脚ケダマだって400マグは持ってるし、よりレベルの高いハリスンは幾らあるのか知らないが、百匹は下らないんじゃないかという大群を相手にしていた。こいつらは、それをほぼ毎日続けているわけで……。

 あ、普通の冒険者には、はした金ですよね、はい。


「ゴホン、そ、そろそろ貯蓄を考えないといけないかなあ、なんて思ってね?」

「そうよね、うっかりしてたわ! コエダさん話してくれたのね?」

「以前、簡単にですがご利用規則を説明しましたネ」


 ギルドでマグを保管してくれるという貸金庫のようなサービスだが、正直なところ、利用できる日が来るとは思えなかった。

 思い付きで言ってみたが、早いところ利用したい気はある。けど、まだまだ必要なものはあるし、これから買い物もしなくちゃならない。まだ注文した防具の半額も残しておかないとならないから……まだ難しそうだな。


「……依頼を半分終えたら、もう一度考えます」

「はい。お待ちしておりまス」


 あれやりたいこれやりたいと積もるだけだった予定が消化されていく。見通しが立つって素晴らしい!

 雑用係が欲しくて生贄獲得を目論んでいたにしろ、もっと安く買い叩くこともできるのに。暮らせるだけの報酬を弾んでくれることには感謝しよう。


 大枝嬢はシャリテイルにもタグを返しながら溜息をついた。


「それにしても、こんなに早くケロンとまで渡り合えるようになるなんて、驚きましたヨ」

「そうよね。誰だって駆け出しの頃は痛い目に遭うケロンなのよ? 私も驚いたし、ちょっと悔しいわよね!」

「いや、倒したわけじゃないし。って、痛い目に遭うって、その程度……?」


 俺は死ぬかと思ったんですが。と言いたかったが、背後がざわめいた。


「なに、ケロンだと……? おい、聞いたか」

「タロウがケロンを片付けただと」

「人族がケロンを……馬鹿な!?」


 お前らいつも盗み聞きしてんのな。静かだし嫌でも響くか。

 また明日には誤報が広まるんだろうな……。

 肩を落としつつギルドを出てから、慌ててシャリテイルを呼び止めた。予定聞くのを忘れてた。


「次の依頼はどうする。また明日になるのか?」

「いけない、伝え忘れてたわね。実は、今は判断が難しいの」


 シャリテイルは言い淀んだが、すぐにその理由を聞かせてくれた。

 南の山脈周辺へ送った人員は、一晩野営して明日に戻るらしい。その報告の結果が良ければ、魔物の数も平常時に戻るだろうから、また北側周辺の洞穴方面へ。延長する必要があれば、また少しは安全な西の森方面になるだろうということだ。

 ただし、そいつらがいつ頃戻るか、はっきり言えないから、午前中の予定次第になると。

 まあ西の森なら作業はし易いし、午後からでも入れるとありがたいかな。


「というわけで、明日は好きにしていてくれればいいわ」

「いつも通り、街の周辺にいるよ」

「そ。じゃあまたね!」


 まだシャリテイルも忙しいのか、予定を決めると慌ただしく駆け去っていった。

 また買い物に付いてくるんじゃないかと思っていただけに、少し寂しいものがある。まあ、パンツ買うのを見られるのも嫌だけど。


 いや、懐が温かくなる嬉しい仕事なのは俺だけだ。シャリテイルの収入は目減りしてるだろう。あまり付き合わせるのも悪い。


 これもどうせ臨時報酬だ。必要なものは思い切って買っておこうと、衣料品店へと入りながら、何かが気にかかって足を止めた。

 臨時?

 なんとなく、ギルド長から渡された依頼書が全てと思い込んでいた。

 クロッタが依頼の張り紙を見たと言っていたよな?

 まさか……今朝もあったんじゃないだろうな。


 数を制限してるもんだと思っていたが、ギルド長から渡されたのは、あの時点で受け付けたものだろう。

 まずい、クエストボードを確認した方が良さそうだ。


「いらっしゃい。何か探し物かい?」


 戻ろうと振り返ったところに、首羽族にしては横幅のある女性店員がいて、阻まれてしまった。


「……シャツと下着を、まとめて買いたいんですが」

「ちょくちょくありがとうね! ちょっと待ってな」


 すでに覚えられていたか。選ぶほど店の数もないけど。

 せっかくだから買い物を終えてギルドに戻ろう。


 店内には平たい籠が並び、布きれやらシャツやらが品毎に野菜かよといった風に盛られ、木札には『一枚100マグ』と書かれている。

 一応サイズは大中小くらいは揃っているが、それだけだ。それも体型によるサイズ違いではなくて種族別といった感じだから、大サイズは炎天族向けに特大すぎるし、中サイズもぶかぶかで、小は女性や子供向けといった大ざっぱなものだ。

 その籠を乗せてある木箱は引き出しになっていて、そこから店員は紐で括った商品を取り出す。


「はい五枚ずつ。下着とシャツ、どっちも五百マグよ。一枚分おまけをつけようじゃないか」


 下着とシャツが六枚ずつ。多い気もするが、しばらく悩まないで済むしちょうどいいかもな。あまり買っても、今度は虫食いで穴が空きそうな気もする。苔草の虫よけは衣類にも効くかな?


「買います」


 そう伝えると店員は俺に商品をよこし、とびっきりの笑顔で籠から一枚ずつ掴んでぽいぽいと乗せた。

 みかん一つおまけの調子でパンツ盛られるのは微妙な気分だよ。

 店員がマグ読み取り器を取り出そうとしたが、壁沿いに吊られている衣類に目がいった。


「あっと、すみません。上着も買います」

「おや、稼いでんだね。じゃあ荷物はここに置いてちょうだい」


 上着と言ってみたが、ジャケットのような服を見かけた覚えがない。

 俺が買った肌着向きのシャツはケダマ製で比較的柔らかいが、普段みんなが着ているシャツは、樹皮繊維だとかでごわごわした厚手の生地だ。

 その上からさらに着こむのは、俺のポンチョのように、装備としてのケープやらマントだ。ここに並んでいるのも、ほとんどがそういったもんだった。


「今着ているようなもんが欲しいのかい? 悪いけど、うちじゃそんな上等な生地は扱ってないよ」


 店員は、やや困ったように言う。

 そういえば行商が来て謎の木の実食を見つけたときに、他の露店も多少回ってみたが、衣類はあっても俺が着ているようなものはなかった気がする。


「扱ってる店はありますか?」

「残念だけど、この街で手に入れるのは難しいだろうね。兵隊さんや行商人向けだからねえ。次に行商が来たら聞いてみるといいよ」


 ああ軍用品とか、そういう手に入れにくさなのか。

 上等と言われると貴族とかそういった奴ら向けかと思ったが、ガサガサとした生地だし、そんなはずないな。かなり頑丈な生地ではあるが、柔軟性は乏しいし服として着る者はいないらしい。


「荷を風雨から守るのに重宝するからねぇ、旅向けだね」


 あのぉ、もしかして、養生シートとかビニールシート扱い……?

 用途はともかく、俺の初期装備、かなり贅沢だったのな。


 話を聞きつつも、吊るしてある外套類の端っこに、一つだけ辛うじて希望に近い前開きの上着を見つけた。辛うじてというのは、ボタンがなかったからだ。

 手に取り、試着を伝える。運がいいことに人族も着れる中サイズだ。


「それは、寒い日に室内で羽織るようなもんだよ?」


 それでいいのかいと、店員は不思議な面持ちだ。

 寒いときって、半纏やどてら的な位置づけかよ。これで外を出歩くと恥ずかしいのか?


 改めて広げてみる。シャツを三枚重ねたような厚みがあるのは防寒用だからか。

 襟があって首元を守れるし、ボタンやボタンホールもないなら引っ掛ける場所が減っていい。どうせ昼間はポンチョだ。夜に出歩くだけなら、少しくらいだらしなくても問題ないだろう。


「裾が邪魔にならない方がいいから、ちょうどいいですよ。それに丈夫そうだからシャツも痛みにくいだろうし」

「ああ、外着なの。それならシャツもこっちのがいいよ? ケダマ製は柔らかくて着心地はいいかもしれないけど、傷みやすいからね。繊維も細くて縫い合わせるのも難しいから、使い捨てになるし」


 店員は樹皮繊維の五枚セットを取り出した。分厚い。


「こっちの生地なら、ほつれも繕える。持ち込んでくれたら半値で修繕するよ」


 なん、だと。

 ケダマ製が下着専用のような位置付けなのは、そういった理由もあったのか。

 体を動かす仕事ばかりだもんな。伸びは悪くてサイズも合わず、引きつるようで着心地はよくないが、そりゃ丈夫な方を選ぶよな……。

 肌着としてのシャツも欲しいし、仕方なく両方買うことにした。


 値段は同じ500マグだった。

 来た頃なら明日の宿代を気にして卒倒しそうだが、今は安いと分かる。採算取れてるんだろうかというくらいだ。この街の職業分布を思えば、傷みやすいから大量に捌いてるのかもしれないな。上着だけは千マグだったが、生地を多く使っていることを考えれば安い買い物だった。


 ブーツも欲しかったが、ここは布製品が主らしい。板から布が生えたサンダル風の靴など、街の中で使える最低限のものしか扱ってない。

 革製なら装備屋で買う物かと考えていると、数軒隣にある革製の鞄など身に着ける道具類を扱う店を勧められたので、そっちで買うことにした。装備品として買うなら高いだろうし、今は安いものでも替えを揃えるのが先だ。


 礼を言って、さっそくその革製品店を覗いた。ベルトや丈夫なポーチなど目移りしたが、衝動買いしたくなる気持ちを抑えて靴の棚に意識を向ける。

 ここにも木靴に布を巻いたような靴もあったが、ここはケチらず革素材だ。素材はケチらなかったというだけで、店内で最安値のものを選びました。

 そこまで気は大きくなれなかったよ。

 無事にショートブーツを購入。3000マグの出費。

 サイズはちょっと大きいが、こんな時のために端切れを買っていたのだ。ぬかりはない。




 荷物を抱えて店を出ると、ため息が出た。


「衣類が消耗品になるとはな……はぁ」


 日本で生きていた時には、あまり考えなかった。靴下だって、擦り切れたり穴が開くのに一体どれだけの期間がかかるってんだよ。少なくとも、こんなに短期間だったことはない。

 生活の見通しが立った気がしていたが、まだまだ見落としていることや、突発的な出費はありそうだ。


「おっと、ギルドギルド」


 宿に戻りかけて、慌てて反転。

 まだ募集しているのかは、できるだけ早く確認しておかないとな。

 ふはは、どうだ俺の成長は。いつも何かに気を取られて忘れかけるが、たまには覚えているのだ。


 そもそもさ、依頼を張り出すのだって、手数料を払うものだったよな?

 低ランクまでなら必要ないんだったっけ。でも俺は低ランクだが、行き先は中ランクの場所だ。こういう、従来と違いそうな件はどう処理してんだろうな。

 考えたら募集する方が金を貰うって、報酬を支払うべき冒険者の上がりから、さらに掠め取るような依頼じゃねーか……胸が痛くなってきた。


 ギルドへ駆け込むと、窓口の端にあるクエストボードへと直行。大枝嬢が、おやという顔を向けたので軽く会釈し、目的のものに目を走らせる。


「なんだよ、これはぁ!」


 思わず叫んで、張り紙を引っぺがしていた。


『中ランクの場所もどんと来い! 人族冒険者の手が欲しくはありませんか? 魔物に気を取られて大変な山道の整備もお任せください!』


 どんと来いじゃねえよどんと来いじゃ!

 剥ぎ取った募集の紙切れを大枝嬢の前に叩きつけてしまっていた。目を丸くした大枝嬢は、内容を見てさらに目を丸くした。


「あら? これは、その、いつの間にか張り替えられていたようですネ……」

「焦って力を入れ過ぎました。すいませんすいません……」


 頭を下げる大枝嬢に、俺もぺこぺこと頭を下げる。

 何事かと他の職員が寄って来た。その一人、トキメが張り紙を見て言った。


「これ、ギルド長に渡されて俺が貼ったんですが、コエダさんは承認されてなかったんですか?」

「いえ、確かに承認しましタ。ただ、当分は先の話とのことだったのでス」


 一瞬、大枝嬢の承認したという言葉にショックを受けたが、かなり先の話だったと聞きギルド長の行動だと確定した。奴の髪はいっぺん引っこ抜く!


「ひとまず、現在受け付けている件が片付くまでは、保留でお願いできますか」


 なんなら直々に話しに行こう。


「タロウさん、この件は、私の方で一度ドリムに話しまス。また三人で面会していただく機会をいただけますカ?」


 俺を宥めるようでいながら、大枝嬢はきっぱりと言った。有無を言わさぬ雰囲気に引くことにする。大枝嬢も気分良くはなさそうだったからだ。

 任せられている持ち場を越えて、勝手なことをされるのは嫌だよな。




「よくあのギルド長で回ってるな……」


 宿に戻ると汚れた体と衣服を洗いながら、ギルド長への文句を呟いていた。

 水の冷たさで頭も冷えてくると、今度は心細くなってくる。


 なんにもできない俺に、ギルド長の権限で仕事を作ってくれているのは間違いない。たとえ雑務を分けたいのが職員の総意であっても……それって、ズルなんじゃないのか。

 後輩を鍛えるのが楽しみらしいヤミドゥリや、食い下がるクロッタたちを思い出す。他の低ランク冒険者たちは、揉まれながらも己の力で進んでいっているというのに。

 文句を言える立場じゃ、ないんだよな。

 一言欲しいとは、思うけど。




 部屋に戻ると、買いたてのシャツを身に着け上着を手に取る。


「さっそく貴様の本領を試させてもらおう」


 普通のシャツよりは目の詰まった厚手の生地を重ねてあるものだ。これなら簡単に破れはしないだろう。どのみちカピボーに跳び付かれたら、穴だらけになるのは承知の上だ。程度によれば修繕可能かもしれないと思えば気も楽になる。


 上着を着こみ、しっかり肩を合わせて襟を立てる。

 店内ではちょうどいいサイズだと思ったが、剣を持つと袖が長めで邪魔だ。今晩は捲っておくとして、サイズを詰めてもらった方が良さそうだ。

 出会ったばかりだが、俺はお前を信じているぞ。

 靴も、いきなり本番で試すのは不安だし、履き心地を確かめておくか。


 南の森に行くつもりで宿を出たが、まだ日はある。結局、明るい内に、どてらもどきを着て歩くことになってしまうが、隙あらば鍛えないとな!

 勢い込んではみたが、ちょうど人の多い時間帯の大通りから、そっと目を逸らした。


「たまには、こっちでもいいか」


 宿の北側路地から裏手へ抜け、やりかけの仕事を始めていた。放牧地側は街の中ほどで崖が出っ張っているため、もう森沿いという感じではない。小屋なども増えるため、そこそこ手入れもされている。刈れる範囲は広くない。合間を崖沿いに刈り進めながら、良い狩り場はないかと考えていた。

 思い切ってシャリテイルに相談した件だが、力技で状況を作られてしまったから下手なことは頼めなくなってしまったというか……やっぱ、もっと自分の頭を絞らないとな。


 これまでに見た中ランクの場所や魔物の分布を考えたら、南の森周辺以外で戦える場所はない。四脚ケダマから数も増えるし一気に対応が難しくなる。


「でっ」


 下を向いたままとはいえ、木は無意識に避けていたが、避けた先に頭頂部をぶつけた。崖も平らではないからな。

 少し抉れたような壁面は、ギザギザとして濃い土の色を覗かせている。見覚えがある民家ほどの高さの崖は、南側にもある――祠?


 祠だけでなく、連なった東にも洞穴がある。これ、位置的にあの辺も繋がってるよな。壁面には引っかいたような溝がある。この辺は削って放牧地を広げたんだろう。

 そうか、答えはすでにあった。


「祠そばの洞穴」


 偶然とはいえ、あそこで一匹カラセオイハエを倒したんだから、また試してみればいいじゃないか。あの時と比べれば、かなりレベルは上がっている。

 レベルだけじゃなくて、立ち回りもマシになってるはずだ。多分。


 グループで出てきたときは困るが、幸いにも祠までは通りやすい。あいつらなら、全力を出されても逃げ切れる。結界に近付けば追ってこないだろうし。

 いや、あの遅さといい、とっさに身を守るしか脳がないところといい、俺のために用意されたような魔物だ。


 意気込んだところで、日が暮れかけているのに気が付いた。さすがに奥の森難度の場所を、夜に歩くほど無謀にはなれない。

 草を握りつぶしながら暮れ行く天を衝いた。


「覚えてろよ!」


 次に時間が出来たら祠側の洞穴と、いまいち当てにならない頭のメモ帳に書き留めた。

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