061:ギルド長からの依頼

 報告も頭から抜けて直接宿に戻ろうとしていたが、ギルドは通り道にある。

 ぼうっとしたまま歩いていると、機械的にギルドの扉をくぐってしまっていた。


「タロウさんどうされたんでス、泥だらけで!」


 慌てる大枝嬢にタグを渡す。


「なんでもないです。南の森を走り回ってきただけですから」


 低ランク魔物相手にストレス発散してました……恥ずかしくて言えないな。というか危ないやつだ。

 笑顔を作れてるといいんだけど。大枝嬢は何か言いかけたが、困惑したままタグの処理を進めた。


「はい、タグをどうぞ。それから、部屋に寄ってほしいとドリムからの伝言でス。ああ、ギルド長のことですヨ。端の扉を入って階段を上がってすぐでス」


 思わず嫌な顔をしてしまった。あのおっさんからも何か言われるんだろうか。

 はぁ諦めて、宣告を受けよう……。




 人の幅しかない薄暗い階段を上って、一つしかない扉を叩いた。くぐもって意味分からないが人の声がしたため、了承されたと判断し勝手に入る。


「ひどい恰好だな。だが、思ったほど」


 ギルド長は俺の顔を見るなり言いかけた言葉を、苦笑で呑み込んだ。

 そんなにショックを受けたのが顔に出ていたのか。


「混乱しているようだが、まあ掛けてくれるか。話をしたい」


 視線で促された簡素な木の椅子に座った。


「彼女、ビオの肩を持つつもりはないが、少し聞いてくれ」


 案の定、さっきの話か。

 俺みたいな立場の輩なんぞより、彼女の肩を持つのは当たり前だと思うが違うんだろうか。意見は食い違ってるみたいだったけど。

 頷くそぶりでギルド長から目を逸らし、机の上の書類なんかを眺めつつ、何を聞かされるのかと身構える。なんでも来いや。


「魔素は生けるもの全てに含まれる。人は他の生物と比べて多い。だが、他の生物と同様に、大部分の人間が聖よりも邪の質だ。聖者と呼ばれる資質を持つ者は、各国に片手で足りるほどしか存在しないと言われている」


 いきなりの聖者様お勉強会。

 ギルド長は、聖者のできる仕事を淡々と並べた。



 聖者とは、簡単に言えば聖質を体内に持つ者。聖魔素に触れることができ、操り、加工のできる者だ。

 その聖魔素は、邪質の魔素に酷く反発する。おかげで他に補助の手を借りられないから、彼らは各自、多くの魔素に関する技術を習得しなければならないらしい。


 例えばフラフィエが魔技石を作り、ストンリが武器防具をマグ強化する。それぞれが専門的なものを一人でだ。

 いずれかの技術が、結界石の改良に繋がるかもしれないという研究の一環でもあるとのことで、おろそかには出来ないのだという。


 少人数だから協力し合ってはいるが、誰かが欠ければ埋められない。それで聖者は全員が、出来る限りの魔素に関する知識を学び続けることになる。国中の結界を見て回りながら。

 そんな大変な人生を好き好んでやっているそうだが、ギルド長は複雑な感情を笑みに滲ませた。


 仕事の次に続いたのは、彼らが聖者の地位にいる背景だ。子供の内から城に引き取られ、英才教育を受けさせられることになるという話だった。

 こんな時代の世界なら、いや日本でだって、国を守るのにその人しかできないとなればありそうな話だ。


「聖者の中でもビオは優秀な上に、若い。そのため体力の必要な、辺境への遠征のほとんどを任されているようだ」


 責任を果たそうと気負ってるのかもしれない。そんな素質を持って生まれたために、国に未来を定められる。

 すげえ、不条理だ。


 腹立たしい相手だが、少し共感してしまった。俺もどうあがいたって帰れないから、どうにかここで暮らそうとしてるんだ。

 もっとも……俺なんかよりもっと長い時間、苦労して学んできただろう。

 道理で。


「……ひねくれるのも無理はないな」

「はは、言うな。言い方はともかく、あれで、より良い提案をしてくれたんだ」

「提案? あれで」


 どうにかこの街から追い出そうとしてるように聞こえたぞ。


「彼女はここの農地に転向すればいいと言ったが、冒険者として働くことを選ぶなら、王都へ安全に送ってやると申し出てくれたんだぞ。王都なら、人族でも生活に困らないだけの仕事はある。今の仕事ぶりなら、今より良い暮らしになるのは確実だ」


 そうだ席を用意してやると言ってた。


「あれ、本気だったのか」


 嫌味とかでなくて。だったら、本当に返事しないと駄目か?


「実際、冒険者になるのが夢だったんだろう?」


 夢って……やっぱり大枝嬢たちから報告されてんだろうな。


 良い暮らしか。

 本当にそこまで考えて言ってくれたのかは怪しいが、提案してくれたつもりというのは分かった気がした。そうでなければ初対面の相手にあそこまで言うか?

 ここの常識は知らないけど……。


「タロウ、苦労だろうと幸せだろうと、他人や別のものと比べたって意味はない」


 はっとして顔を上げる。困ったようなギルド長を見て思い出した。この人も初対面のようなもんだった。そっちは色々と話を聞いてるんだろうけど。

 俺は、まだ何も知らないじゃねえか。


 俺だけが、なんにも知らない。

 この街のこと、ゲームの裏設定を見ている気分で楽しんでいた。

 だけど気が付けば当たり前に暮らしている街になりかけていて、そっからは、なんにも進んでない。




 気にかかっていることを確認しよう。


「ギルド長、なんで俺の登録を許してくれたんすか」


 色々と報告を受ける立場だ。俺の処遇にも関わってないとは思えない。


「コエダ君の一押しだったからなぁ。彼女は窓口職員の主任だろう。采配は任せてある。それに、彼女は俺よりも人望があるぞ? 下手に反故にしたら俺が突き上げを食らうからな」

「えっ! コエダさんが主任!」


 どこかヌシ的な貫禄があると思った……。

 俺の反応に、ギルド長は豪快に笑っているが、どこか自信が溢れている。現場は現場に任せるとして、ギルド長としての責任はしっかり果たしてるんだろうな。

 それはビオたち面倒くさい奴らの相手をしている姿を見て伝わった。


 やっぱ、何か関わってるな。俺に関する不自然な扱い。

 けど教えてくれるわけないか。

 と思ったが、不意に取り繕ったようにすました顔でギルド長は俺を見た。


「自分がいいように使われていると、気が付いているか」

「それは」


 口を開きかけて閉じた。他の冒険者のことだよな。


 人族がいなかったから、本来なら人族向きの仕事も手分けしてこなしている。

 ギルドも推奨はしているようだが、厳密ではないようだ。片手間でいいとしてるんだろう。例えば進路上の邪魔な藪を払うなんてのは、言われずともやる程度にしか見えなかった。西の魔物たちを見たら、無理は言えないのも頷ける。


 一定の時間毎に魔物は増えていく。毎日毎日冒険者が討伐していなければどうなるか。多分、一日でも手を抜けば、繁殖期並みに増えるだろう。

 カイエンからカピボーは結界を超えられると教えてもらったじゃないか。カピボーを弱いと馬鹿にしてたが、地面が埋まるほどの数が押し寄せたらと想像すると、ぞっとする。


 西の森は、狭い範囲を回っただけだが、人が十分に足りてるとは思えなかった。

 表向きは明るく振る舞ってるが、低ランクの奴らだって早く強くなりたいと焦っているだろう。クロッタは足にきたとぼやいていたし、雑用に手を割いて肝心の戦闘に集中できないどころか、それで怪我でもされては本末転倒だ。


 持久力といった長所を持ってる点で、俺にはそういった疲労が、他の種族にとってどれだけ辛いものかは想像できない。俺に、強いやつらの動きが理解できないようにさ。


 ただ、能天気そうなクロッタやデメントだけでなく、ちょっとは小ずるそうなバロックやライシンに、まとめ役や筋肉仲間……随分と率直だった。


 ある日、俺が現れた。初めは真面目にやってるか様子見してたはずだ。

 どうも続いてるようだから、できれば面倒くさい仕事をやってほしいと思ったんだろう。これは向いてないからであって、奴らが怠けたい主な理由ではない。

 任せられるといった信頼でもないだろう。少なくとも口だけ野郎じゃなさそうだと、行動で示せたんだと思う。


 貧窮してるのも知ってて、俺にとって割のいい仕事と、奴らに得になる仕事を提案してくれたんだと、そう思う。

 単純に、珍しい奴に興味を持ったからといった理由もありそうだ。話のネタにも飢えてるみたいだし……って、それはいい。


「なんつーか……こっちも、あいつらが守ってくれると当てにしてました。だから、おあいこだと思うんで」

「ほう?」

「それに俺は、そういったところもひっくるめて、いい奴らだと思ってます」


 ギルド長は目を伏せ、口元に笑みを浮かべる。


「ありがとうよ」


 そう小さく呟いた。

 何が理由かは分からないが、ギルド長にとっては重要な問いかけだったようだ。

 俺は、良い答えを出せたんだと感じた。




「前置きが長くなったな。本題に入ろう」


 えっ今のも重要な話だろ?

 これが、さっきの謎かけみたいなもんに繋がるの?


「これまでの話も無関係ではない。人手が足りんという件だ」


 納得して頷いた。俺のせいでビオに責められていたよな。

 砦側との話もごたごたとしてたようだし、そういった事情も含めて、裏では色々とあるんだろう。

 それにしても不思議だ。


「冒険者の人手が足りないって、これだけ居てですか」


 どこを見ても冒険者だらけの、むさい光景が広がっているというのに。

 それに稼げる場所で、冒険者主体の街で暮らしやすいという話だし、人が居つきそうなもんだけどな。

 逆に狭い街に続々と新人が来て、街のキャパを超えたり仕事がなくて大変になったりしないのかと思っていたくらいだ。


「定期的に志望者はやってくる。だが、その分、出ていく者もいる」

「冒険者なら、この街で働くのは名誉なことだと思ってたんですが。募れば集まりそうなもんですけど」

「少人数で運営している以上は、急に増員するというわけにもいかない」


 それもそうか。手があるなら打ってるだろう。


「ここで鍛えて実績を積み、他の大きな街へ移る者は多い。まあ、こんな場所だ。ある程度歳が行けば、もっと安全な場所で、のんびり暮らそうと心境は変化するものだ」


 そういや、歳の行った冒険者を見ないが、そういった理由もあるのか。冒険者だけでなく街の中でも、あまり年寄り自体を見かけない。やっぱり歳をとると、疲れやすくて居づらいとか、色々あるんだろうか。

 俺もいずれは……先々のことを考えるのはやめよう。まだ早い。


「他の街も人は多いが、十分に足りてるとは言えないんだ。このガーズで鍛えた冒険者なら引く手数多らしいぞ?」


 それは、俺に移るかどうかの確認ですか。


「俺はまだ、ここに居座ります」


 ついムッとして言い切った俺に、ギルド長は満足そうな笑顔を浮かべた意図が気になるが。


 なるほど。人手が十分でない理由は分かった。苦労して育てた人材が他所へ流れていく。親父もそんなことを嘆いていたことがあった気がするな。

 しかしなんでも強要するような会社ならともかく、ギルドは冒険者の安全第一で依頼を出している。街をあげて冒険者を補助しているし、安定した収入を得られる場所だ。


 まあ、危険手当みたいなものと考えたら、そんなもんなのかな。短期間だから踏ん張れるだけで、ずっとは無理など理由は考えられる。

 日本でもあり得ることで例えたら……遠洋のマグロ漁船しか浮かばなかった。いやどんな仕事かはしらないがイメージだ。





「森の警備に付き合ったと聞いている」


 唐突に話を切り替えられた。


「……守られながらですが」


 討伐の邪魔したようなもんだ。これも、話つながってんの?


「そう卑屈になるな。実はあの件以来、ある問題が浮上した」

「問題?」

「タロウからも提案があったと、ゴストらに言われてな。ああ、西の森警備のまとめ役だ」


 俺が眉を顰めてしまったため、ギルド長は補足した。まとめ役はゴスト・ヘッドという名前らしい。筋肉まとめ役で十分だ。

 また、なにか尾ひれがついた話を鵜呑みにしてんじゃないだろうな。


「他の街なら仕事の幅も広いし働き方も自由だ。だが、ガーズは簡単に人を集めることもできない場所のため、依頼の区分も厳格だ。魔物討伐と街の基盤。これらをきっちりと分けている。互いに人が流動しすぎると困るのでな」


 今度は、ギルドや街の勉強会?

 まとめ役から聞いたことだ。しかし随分と遠回しだな。


「実は、この区分に対して不満の声もあった。特に他の街を点々としている者らからな。それも、この周囲の魔物の数と強さを知って、その辺のことは引っ込めてくれるが」


 いったん言葉を切ったギルド長は、窓から差し込む夕日に視線をやり、目を細めた。時間が気になるってことは、そろそろ核心か。

 俺は話に集中するように身を乗り出す。


「それが、とある人族の冒険者が現れた上に意外な活躍をしたことによって、噴出したというわけだ」

「ある、人族の冒険者……」


 お、俺だよな?


「コエダ君は、君の気が済むならと仮登録として受け付けた。だが、思ったよりもしぶとかったな」


 ギルド長は本心から感心したよといった表情を見せたが、何か裏がありそうで体は引いた。硬い椅子の背もたれに当たり、自然と背筋が伸びる。

 逃げたくなったところに、ギルド長は気になる言葉を連ねる。


「それで、限定的ではあるが、低ランクへの本登録を促した。多くの冒険者が、タロウは熱心に立候補したと証言したからな。こちらとしても都合が良かったよ」


 シャリテイルと大枝嬢がきゃいきゃいと騒いでいて、何か企んでる風だったのを思い出した。


「そのためだけに、ケダマ草採取の依頼を用意したんですか」

「まさか、わざわざ仕事を作ったわけではない。手の空いた職員で行っていた雑務の中から、見繕えと指示した結果だ」


 雑務……ですよね。それ以外の何ものでもない。

 でも、本業でないことに煩わされるって大変だもんな。分かるよ。分かるかよ!

 なぜか話の流れに不穏なものを感じる。


「今まで守ってきた規則じゃないんですか。ほら慣習は大切なんでしょ!?」

「うむ。時勢に合った行動を心がけるのが肝要だと気が付かされたよ」


 軽いわ!

 急に笑みを消したギルド長に、反論を飲み込む。


「正式に通達しよう。タロウ、君の手を借りたい。協力してもらえるか」

「協力もなにも……」


 いきなりのことに混乱する。一応は俺もギルドに所属してる身だ。ギルド長なんだから命令すればいいんじゃないのか?


「そうだった、軍とは違うものとして設立されたから」

「ほう、その通りだ」


 ギルド長は俺が言おうとしたことを察したらしい。

 貴族連中から無駄金を使うなと反対を受けての設立話も事実なのか?

 これは誰かに確認したことあったっけな。ゲームの知識なのかここで聞いたことなのか、だんだん曖昧になっていく。


 まあ設立の理念がなくとも、ギルド長は自主性を重んじているように見えるから、無理と言えば引いてくれそうではある。


「力まなくていいぞ。はっきり言えば現状はどうにか賄えている。このまま維持できればいい」


 あれ、俺いらないって言われてる?


「もう少しだけ、ゆとりが欲しいということだよ。繁殖期や遠征時の人手不足は顕著だ。討伐の人員を減らすわけにはいかないのでな」


 人を集めるように手を尽くせといったビオの態度は、あれが国の考えということなんだろう。

 るなべく国からの助力は得ないように行動しなければならず、だから表立って人を集めることはできない。また、大々的に宣伝して一気に集まってもらってもキャパ的に困ると。育てなければならないが、一人前になった奴らが出ていくのを引き留めるわけにもいかない。

 人族から手を借りようにも、護衛に人員を割くことになるし、こっちもそこまで人手が足りてるとは思えない。ずっと当てにされて本業がおろそかになると困るんだろうな。


 その、都合のいい妥協案が俺ですと。


「いやはや丁度良いところに来てくれた。日頃より人族を加えた体制作りを段階的に進めたいと考えていてね。その機運は熟した」


 いやどう見ても行き当たりばったりだろ。たまたま冒険者希望の酔狂な人族が来なかったら……待てよ?

 逆か。俺が来たからなのか?

 周囲から罠に嵌められているような噂話。特に、西の森以降にあからさまに噂が歪められていたような。


「まさか! 俺が草刈り依頼を募集中なんて周知したのもギルド長か!」

「おお、もちろんその話も聞いているぞ? 随分と積極的に働くなと感銘したよ」


 とぼけやがった!

 煙に巻くような話し方は、断り辛くさせるためかよ。


 長ったらしい話だったが、要は現状の人員で少しでも討伐に集中していただけるように、雑用は雑用係へ割り振ろうってことだ。


「協力してくれるならば、正式に低ランク冒険者として認めよう」


 そんな美味そうな餌に釣られる前に、答えは出ていた。


「俺以外に、その仕事をこなせる冒険者がいますか?」


 俺たちは日の暮れかけた部屋で不敵な笑みを交わした。

 契約成立ということだ。




 ギルドを出たときには、すっかり日が暮れていた。呆けて星空を眺めながら宿へ向けて通りを歩く。


 今晩は不貞寝しようと思っていたが、考え直して夜の狩りに出るつもりだ。

 一日怠けたら、ずるずるといきそうだからな。なにはともあれ、まずは晩飯だ!


「くくく……」


 今までの俺は見習い冒険者の中でも最弱。ケダマごときにやられるとは……これ以上はやめておこうか。


「俺の手を、借りたいだってさ」


 口が緩む。ひどいにやけ面だろう。夜で良かった。

 人族だから必要だと言われたが、それだけじゃない。

 俺のやる気が、認められたってことだ! 


「ぉうっす! 頑張るさ。団扇草だろうが苔草だろうが刈りまくってやるよ!」


 あ……なんだよ正式に低ランクとして認めようって。

 今まで、俺も低ランク冒険者だからと思って頑張ってた自負心て……幻?


「ぅおおおお……」


 恥ずかしさに頭を抱えてしゃがみ込む。

 なんで余計なことに気が回るんだ忘れろぉ!


「なんだぁ、酔ってんのか?」

「す、すいません」


 道の真ん中だった。


「ほどほどになぁ!」


 通りすがりの男に礼をして走った。




 いいんだ頑張りに無駄なんてないさ恥ずかしくない。恥ずかしくないから。

 宿が近付き速度を緩める。上向きで行こうと決めたら、自然と夜空を見上げていた。

 手が届きそうに感じられるほど綺麗な星空は、日本の街中ではなかなか拝めなかったものだ。あの星のどれかに地球があるってことは……ないよな。

 それでも、家族の顔が浮かんでいた。誰がなんと言おうと、俺は地球で、日本で生まれ育った。

 これから先に、どう成長するとしても、そこへは今まで俺を形作ってきたものが繋ぐんだ。


 見ていてくれよ親父。

 ヒーローとはいかなくてもさ。


「俺は俺なりに、胸張って生きていけるよう頑張るから」


 空に向かって誓うとか故人っぽいな。

 死んだとしたら俺のほ……それはまあいい。気持ちの問題だ!


「ふがっ!」


 頭に衝撃を受けてまたしゃがみこむ。余計な考えを払おうと頭を振ったのは、ちょうど宿の戸をくぐろうとしたところだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る