第33話 ルナの境界線


 □学校□

「実はね〜隣のクラスの山下君にデートに誘われちゃった!」

 そう浮かれながら話すのは明里だった。なんでも、終業式の日の放課後に山下君に学校の屋上に呼び出され、告白アンドいきなりのプールデートを申し込まれたらしい。


 彩香は首を傾げながら言った。

「でも、よく知らない人なんだよね?」

「うん。今まで話したこともなかったけど、結構イケメンだしいいかな〜と思ったんだよね。」

 彩香と俺は内心、「こいつ軽いなー」と思いながら聞いていた。


「でもね、やっぱりよく知らない人だから2人だけっていうのも少し不安だなと思って……」

「うん。それで?」

「それでね、彩香とルナも彼氏を連れてきてもらって、トリプルデートっていうのはどうかなぁと思ったんだけど……いいでしょ?大勢の方が楽しいし。」

「いいね!それ‼︎」

 意外にも彩香が賛成意見なんだと俺は驚いた。

 ということは彩香にも彼氏がいるということになる。もちろん俺にはいない。

 しかし、この誘いに乗らなかった場合、2人からは「彼氏いないんだな〜」と哀れみの目で見られてしまうかもしれない。というか、もう断れない雰囲気になっていた。


「ということで、今週の土曜日に市民プールで!」

 トリプルデートが決まってしまった……








 □ルナの自宅□

「ただいまー」

「お帰りなさい、ルナさん。」

「はぁー。」

 大きなため息に気づいたリリムは俺に尋ねた。

「どうしたんですか、ルナさん?」

「それがさぁ〜、今度の土曜日に市民プールでトリプルデートをすることになったんだけど、私は彼氏なんかいないし……というか元々男なんだから彼氏なんていないのは当然だし、どうすればいいのかな?」

 その前に、男の頃には一度も彼女が出来たことがないというのは内緒である。

「それなら、遊園地に行った時のようにマサキさんに彼氏役を頼めばいいんじゃないですか?」

「いやいや、もしかするとマサキからしたら迷惑かもしれないよ。何てったって、もともと私とマサキは男友達なんだから。」

「それはそうですけど…頼んでみないとわからないじゃないですか。ルナさんに頼む勇気が無いのなら、私が頼んできてみます!」

「ちょっ、ちょっと…待って…」

 リリムは早速、マサキの家へ出かけて行った。






 ーー「ルナさーん」

 どうやらリリムが帰ってきたようだ。

「で、どうだったの?」

 マサキが来てくれることを期待している自分が心の中にいた。

「OKらしいですよ♪」

「えっ!ほっ、本当に?」

「よかったですね、ルナさん!」

「うん!……って、えっ⁉︎」

 マサキが自分とのデートに付き合ってくれるとわかって嬉しくなったのだ。最近、マサキのことになると妙に胸がドキドキしてしまう。これは何なのだろう?

 俺は自分の心の中がよく分からなかった。


「ルナさーん、聞いてますか?」

 リリムの声で、ふと我に返った。

「どうしたの、リリム?」

「ですから、プールに行くのなら水着を買わなくてはいけないのではないですか?」

「あっ!そっか。」

 肝心なことを忘れていたのだ。

 これまでいろんな女物の服を着てきたが、水着はまだ着たことがない。俺にとって、今まで着てきたものは恥ずかしかったりしたが、まだセーフのラインだった。しかし、水着になると話は別だ。

 俺は顔を赤らめながら言った。この姿を見ると、ただの可愛い女子なのだが……

「女になって、この体で水着を着るなんて恥ずかしいよ。」

 その言葉を聞いて、リリムは不思議そうに言った。

「ルナさん、言っておきますけど、男の方が海水パンツだけで露出は多いと思いますけど?」

「あのね〜、それとこれとは別なんだよ。とにかく、水着だけはNGです!」

「ルナさんの服に対する良いと悪いの境界線がよく分かりません。そんなこと言ってないで行きますよ!」

 俺は半ば強引にリリムに引っ張られ、店へ向かった。






 ショッピングモールに着いた俺とリリムは水着が売ってある店を何軒か見て周っていた。

「コレとかどうですか?」

「えっ!少し大胆すぎないかな?」

「いいですから、着てみてくださいよ。」

「ど、どうかなぁ?」

「すごく似合ってますよ!」

 鏡の中には美少女が恥ずかしそうに顔を赤らめながら立っていた。

 こんなやりとりを何度もしつつ、最終的には俺の「出来るだけ露出が少ないやつ」という要望によって、露出を抑えた可愛いデザインの水着に決めた。





 □前日の夜□

「いよいよ明日ですね、ルナさん♪」

「そうだね。でも、やっぱ緊張するわ。」

「楽しんできてくださいね。来週からは異世界の魔物のところへ調査しに行くんですから。たぶん、このプールデートが今年の夏の最初で最後の楽しい思い出になりますよ。」

「うん、そうだよね。どうせ行くんなら楽しまないといけないよね。」

「その通りです。」

 ふと、時計を見ると夜の12時を過ぎていた。

「もうこんな時間か、そろそろ寝るよ。お休み。」

「私はアイロンかけてから寝ますので。お休みなさい、ルナさん。」



 ベットに横になった俺だったがなかなか寝つけなかった。

 俺はふと今日の試着室で試着している時のことを思い出していた。

 鏡の向こうに映っている可愛い水着を着たスタイルのいい美少女が自分なのだ。そして、マサキが来てくれるとわかって、すごく嬉しくなったこと。この2つはルナ(亮太)にとって少女になってしまったこと改めてを実感させたのだった。

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