第32話 異世界への道


「そういえば、ルナさん。異世界に行ってみると言ってましたが、いかないんですか?」


「あぁ、そのことだけど、夏休みに入ってからにすることにしたんだ。」


リリムは首をかしげて尋ねた。

「すぐにでも行きそうな感じでしたが、なぜですか?」


「実は私、校長から頼まれごとをされたんだ。詳しいことをこれからの説明するよ」

ちなみに、俺がリリムに対しても『私』と言っているのは、リリムがもっと女の子としての話し方に慣れた方がいいということで提案されたからだ。






◎これは数時間前ーーーーーーーーーーーー

放課後、帰ろうとしていた俺は彩香に呼び止められた。

「ルナちゃん、校長先生から呼び出しだよ。」

最初は俺に対して敬語で話しかけていた彩香だったが、今では敬語もなくなり、『ルナちゃん』と呼ぶようになったりと親密になってきた。

「ちょっと、ルナちゃんっていうのは恥ずかしいな〜。」

俺は顔を赤くしながら手を頭の後ろに当てた。


しかし、何故校長先生から何故呼び出しなのかは見当がつかない。

「ちょっと、ルナちゃんっていうのは慣れないな〜。用件はなんだろう?」

ルナが尋ねると彩香は周りを気にし、ルナの耳元で囁いた。

「たぶん、討伐団関係だと思うよ。」

また、俺は顔を赤面させた。元男の俺にとっては女子(しかも可愛い!)が耳元で囁くなんて、ドキドキでたまらないのだ。

「さっきから顔赤いけど大丈夫?熱でもあるの?」

二度も顔を真っ赤にした俺に彩香も気が付いた。

「大丈夫、大丈夫!俺は恋という名の熱に侵されてただけさ・・・・・」


「ーーー早めに校長室に行ったほうがいいと思うよ。」

「えっ!今のスルーなの⁉︎変な意味じゃないからね。今の冗談だから。」







♦︎♢♦︎

「さっきのはやばかった。俺だって、心の中はまだ男なんだ。あんなことされたらドキドキするのは当然だ。」

ブツブツ独り言を言っているうちに、校長室前まで来た。


トントン


扉をノックすると、「お入り。」という声が中から聞こえてきた。


「失礼します。」

前も何度か来たことはあるが、やはりこの部屋の空気に圧倒された。立派な像や神秘的な宝石など、たくさんのものが飾られている。その周りの空気にも負けていないのが校長先生だ。威厳というのだろうか。風格というかなんというか、とにかくオーラがすごいのだ。

相変わらず、すべてを見透かすような目で俺を見ていた。


このオーラには慣れず、縮こまって尋ねた。

「あの〜、用件とはなんでしょうか?」

校長先生はソファに座るようにと促し、自らもその向かい側に座った。

「手短に済まそう。君に頼みたいことがある。それは、魔物たちの住む世界がある異世界へ調査しに行って欲しいのだ。」


「異世界ですか?」


「そうだ。君は前に一度行ったことがあると言っていたね。」


「はい。」


「あれから、私たちは何度も討伐団の班をこのディメンションストーンを使い、派遣した。」

校長先生が手にしていたのは、俺が先日お祓い屋から借りた石と全く同じものだった。どうやら、ディメンションストーンという名称は討伐団がつけたらしい。

「そして、ようやくこの世界と異世界をつなげる通路を完成させたのだ。そこで、君の出番だ。」

「ということはつまり、私を異世界に派遣して魔物たちの状況を探って来て欲しいということでしょうか?」

「その通りだ。君が吸血鬼だからこそできる任務だ。魔物たちの中に潜り込み、この世界を襲いに襲撃するのかなどを調べて欲しい。」

「分かりました。その任務、任せてください!」

「随分と早い返事だったな。こちらとしては助かるのだからいいんだが。それから、この任務は夏休みに入ってからで頼む。長くなることもありえるのでな。」

あくまで、校長先生は授業の方が優先のようだった。

とはいえ、俺にとっては元から行くつもりだったのだからありがたい話しだ。向こうへの道も準備されている。

ポケットに手を突っ込み、石を握り、つぶやいた。

「このディメンションストーンはお祓い屋に返しとこうかな。」



校長室を後にし、下校していた俺はお祓い屋のいる神社に訪れた。

「これ返すよ。」

「いるんじゃなかったのか?」

「もういらなくなった。この石使わなくても、討伐団が道を開通させたらしいから。」

「よく意味はわからないが、持っておけ。もしもの時に役に立つかもしれん。」

「分かった。」








◎時は再び現在にーーーーーーーーーーーーーー

「なるほどですね。だいたいのことは分かりました。」

リリムは納得したように手をポンと叩いた。


「それで、リリム。私が行っている間は留守番頼んだよ。」


その言葉を聴いたリリムはすごい剣幕で俺に対して言った。

「どうしてですか?」


「それは…吸血鬼の私なら魔物達の中に潜入するのは簡単だけど、リリムは魔物にはなれないから……その方が安全だと思って………」

リリムの強い剣幕にだんだんと弱気になる俺にリリムは言った。

「私はルナさんの使い魔です。私はルナさんをお守りしたい。ルナさんにもしものことがあってもそんな遠くにいたら、護りに行けないじゃないですか‼︎私は死んでもルナさんを護るつもりです。断られても無理にでもついていきますよ!」

リリムの言葉で、俺は桜先輩と戦ったときのことを思い出した。

あの時もリリムは俺を逃して、俺を助けてくれた。傷だらけで帰ってきたリリムは「ルナさんが無事でよかった。」と、ただそれだけ言っていたのだ。リリムの覚悟というか、強い決意がなんとなくわかった気がした。本当になんとなくだが……


「やっと分かった…気がする。ごめん!私が悪かった。リリム、これからはずっと私のそばで私を手助けして欲しい‼︎」


「もちろん、喜んで!」

リリムは微笑んだ。

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