第30話 カニの強襲


「えっ!もう梅雨⁉︎」

 俺はニュースを見て驚いた。ま、6月だからそんなに驚くことでもないんだけど……


 梅雨は俺の嫌いな季節だ。ずっと、ジメジメしてて蒸し暑くなるし、気分も暗くなる。

 俺はこのくらいなのだが、学校にバスで通っている友達は「雨の日のバスは色々と嫌だ」ともっと辛いようだ。

 共感する人も多いだろう。


「雨の日ってつまらないですね」

 リリムはというと、かなりつまらなそうにしている。


「リリム、こういう日はね、部屋で楽しめることをすればいいんだよ。本読んだりとか……」

 こんなこと言いながら、自分は漫画しか読んでいない。人に偉そうに言える立場じゃない。



 ニュースで先ほどまでとは違う、重々しいニュースが流れてきた。

『ここで緊急のニュースが入ってまいりました。街のいたるところで人、建物、車などが切り刻まれている事件が起きています。みなさん、できるだけ外出はお控えください。犯人は未だ、分かっておりません。』


「リリム、これって魔物が関係してそうじゃないかな?」

「確かにそうですね。あんなことができる人間はいないと思いますし。」

「じゃ、早速この事件が起きた場所に行ってみよう。」

「はい!わかりました‼︎」










 ◇◇◇

 俺は普通の格好、リリムも人間の姿で街に向かった。

 何しろまだ、魔物がやったとは確定してないので、現場で魔物を発見してから変身すればいいと思ったからである。それに、初めから変身してると、それだけ討伐団に見つかる可能性も高くなる。


 現場に着くと、かなりひどい状態だった。

 建物が崩れたり、車が真っ二つに切れていたりしている。一番グロかったのは、真っ二つに切られ、上半身と下半身が離れて横たわっている女性の死体があったことだ。これには、この女性には申し訳ないが俺は吐きそうになってしまった。

 隣を見ると、リリムも吐きそうになったのか、口を手で抑えていた。



「あれ?ルナじゃん。ここは危ないから逃げたほうがいいよ。」

 突然、自分の名前を呼ばれたので、辺りを見回すと明里がこちらに駆け寄ってきた。


「おっリリムちゃんも一緒だったんだ。」

「えっ、リリムのことを知ってるの?」

「何言ってんの、ルナの妹でしょ。」

 えっ、リリムって俺の妹っていうことになってんの⁉︎

 そういえば、前にリリムが俺の両親に、そんな感じの暗示をかけていた気がする。今回のもそんな感じのものだろうか。


 と、その時‼︎


 / パリンッ/

 頭上からガラスが割れる音がした。

 真上を向くと、確かにビルのガラスは割れ、そこから変な大きな生物が飛び降りてきた。あの色、形はカニだろうか?うん、カニっぽい。

 そんなことを考えている場合じゃない!

 よく見ると、あのカニは俺たちを殺そうと、ハサミを構えてるじゃないか!



 このピンチを乗り越える方法は2つある。

 1,明里とリリムを抱き抱え、できるだけ遠くに緊急回避(飛び込む)。

 2,俺が吸血鬼になり、巫女姿になってからカニの攻撃を受け止める。



 だが、1の方は女になってしまった俺は男の頃より力が弱くなっているので2人を抱きかかえるのは無理だろう。ならば、巫女姿の方でいくということになるが、その場合、明里に俺の正体がばれてしまう。いや、この際仕方ないだろう。2人の命には変えられない。


 俺は2の方を選ぶことにした。


「2人を傷つけさせてたまるか!」

 俺は巫女姿になり、2人の頭上に昇り、杖で相手の攻撃を受け止めるた。


 ハサミと杖の間に火花が散る。

 だが、相手は上空から勢いに乗って攻撃してきたので当然、こちらが押される。さらに、俺の杖が真っ二つに切り裂かれてしまった。しかし、受け止めていた間に相手の勢いも止まったみたいだ。これだったら、相手を蹴り、向こうに飛ばせば、2人に被害が出ずに済む‼︎


 俺はカニにドロップキックを浴びせた。

「とりゃ!」

 俺の作戦通りにうまくいった。

 2人の頭上落下を阻止し、カニを吹き飛ばすことができた。

 カニは泡を吹き倒れる。


「2人とも怪我はない?」

 俺はもしも2人に怪我をさせてしまっては大変だと思い、慌てて2人に駆け寄った。


「ありがとうございます。ルナさん。私は大丈夫です。」

「私も大丈夫だよ。でも、それより……」

 よかった。2人に怪我はなかったようだ。


「それより、ルナだったんだね。巫女の正体….」

 明里にバレてしまった。こうなることは2の方を選んだ時点でわかっていたが、いざ、こうなると困ってしまった。どう説明したら良いのだろうか?

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