第27話 桜先輩の能力


 なんとか討伐団の連中を巻いた俺だったが、まだ危機が終わったわけではなかった。


「よし。討伐団から逃げ切ることができたし、あの魔物も逃すこともできたし、帰ろうか」

「そうですね」

 俺とリリムは家へ帰ろうとした。だが、その時……


「そこのあなた、待ちなさい。」


 背後から呼び止められた。しかも、聞き覚えがある声だ。まさかと思い振り返ると……

 そのまさかが的中した。声の主は桜先輩だったのだ。






 ◇◇◇

「班長!あの巫女を見逃してもいいのですか?」

 先ほどの班長に部下らしい少年団員が尋ねた。

「手は打ってある。桜班長に来てもらうことにした」

「桜班長ってまさか、あの桜班長ですか?」

 その少年は驚いたように聞き直した。

「あぁ、そうだ。この討伐団でトップクラスの力を持つ桜班長なら、あの巫女も逃げ切ることは不可能だろう。」

 班長は不適な笑みを浮かべた。



 そう。桜班長はこの討伐団でトップクラスの力を持ち、絶大な信頼があるのだ。そして、一部の団員は知っているが、彼女にはある能力があるという。彼女はこれまで、一度も魔物から攻撃を受けずに無傷で勝ち続けた実力を持ち、一度も魔物を取り逃がしたこともない。まさに魔物の天敵と言っても良いくらいの実力者なのだ。


 そのことを俺はまだ知らない。







 ◇◇◇

「そんな変装をしても無駄よ。私はあなたが姿を変えるとこを見ていた。あなたがさっきの巫女だということはわかっているのよ」

 俺は焦った。桜先輩は本当に見ていたのだろう。ココで言い訳は通じない。それに幸い自分がルナだっていうことには気づいていないはず。

 ここも逃げ切れれば……

「逃げるよ、リリム!」

 巫女の姿に戻り、俺は空へ急いで飛び上がった。


「逃がさない。あなたの噂は聞いてるわ。なかなか強いみたいだし。始めから全力でいく‼︎」

 そう言った桜先輩の身体に異変が起き始めた。

 桜先輩の身長が少し伸び、長く、毛でモフモフしている、動物のような耳が頭から生えた。手からは細く、長い爪が伸び始めた。とにかく、身体全体が動物のようになっていくのだ。

「グルルルルル…………アオーーーーーーン。」


 この声はまさしく、狼だった。そう、桜先輩は狼に変身したのだ。


「これが私の能力。私は人間、獣人、獣の3つの形態に変化することができる。今の状態は獣人、人と狼の良さを足した形態。」

 桜先輩が言っている通りだった。今の桜先輩の身体は人間と狼の半々という感じだった。確かに討伐団に入った時に桜先輩から、「私もある能力を持っているの」とは言われていたが、見るのは今が初めてだった。


「ルナさん、ここは逃げたほうがいいと思います。そうしないと、殺されます」

 そう言った、猫の姿のリリムは毛が逆立っていた。

「なんで、そう思うの、リリム?」

「それはなんというか、うまく説明できないんですけど、そう感じたんです。」

 もしかするとリリムは猫の姿だから、動物の本能で同じく動物の相手の強さがわかるのかもしれない。そうなると、リリムの言った通りに逃げるのが一番いいだろう。

 俺はそう決めると全速力で空を飛んだ。


「逃がさない。【塵衝爪】」

 桜先輩は鋭く尖った爪を大きく振りかざした。すると、爪の斬撃が衝撃波としてこちらに飛んできた。

 俺は、避けることが出来ず、その攻撃を腕にまともに喰らってしまった。

「これであなたは攻撃ができなくなったわね。どうする?今降参すればいいけど、しなかったら、粉々に切り裂いてもいいんだよ♪」

 桜先輩が楽しそうに笑みを浮かべていると感じるのは俺だけだろうか。

 えっ!何、最後の笑み。怖っ‼︎


 桜先輩の言う通りだ。腕をやられたので俺は攻撃ができなくなった。できたとしても、片手しか使えない。これはピンチだ。

「ルナさん、大丈夫ですか?血がたくさん出てる。」

 リリムが心配そうに俺の傷をみている。

「うん、大丈夫!と言いたいところだけど、正直言ってかなり痛い……」

 リリムにはあまり心配をかけさせたくなかったが、痛いものは痛い。

「ルナさんは帰っていてください。私が戦います!」

 リリムは俺の肩から飛び降りると、建物の屋根に着地した。そして、なんとリリムも獣人形態になったのだ。驚いたが、よく考えてみると、同じ動物になれる能力なら同じく獣人形態にもなれるはずなので、納得した。

 だが、狼と猫は力に差がありすぎる。間違いなくリリムが負けるだろう。


「早く逃げてください!ルナさん‼︎」


「でも…リリムが……」


「お願いします。ルナさん。私を信じてください」



「分かった。でも、絶対に無事に帰ってきてね」

 俺はリリムに任せた。ココで断ってはリリムの覚悟がムダになってしまう。

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