第25話 仲直り


 学校の放課後、俺は廊下を歩きながらこの前、つまりあの祠の中にあった『空間の歪み』のことについて考えていた。


 あれから、お祓い屋に祠は引き取ってもらった。封印のお札も貼っていたのでもう大丈夫だろう。

 結局、あの犯人はわからずじまいだった。だが、犯人がゾンビを倒すために撃った魔法は確かに校舎の方から飛んできていた。この学校の中に魔物の仲間がいるのだろうか。


 ………ドカッ


 考えることに集中していて、誰かにぶつかったことに全く気づかなかった。相手の「痛ッ」という声で初めて気づいた。

「あっ、すみません。……マサキッ!」

 俺がそう言って相手の方を向くと、それはマサキだった。

「そんなに驚かなくても……ルナ、この前は怒らせたみたいで、すまない」


「いや、俺もごめん。あの時はなんか変な気持ちになってしまっていて……遅くまで待っていてくれたのに口聞かずに本当にごめん、ごめんなさい‼︎」

 確かにあの時の俺はおかしかった。マサキに対して、いつもと違う感情が出てしまったのだ。


 それから、俺とマサキは一緒に下校した。マサキとはあれからずっと話したりしていなかったので、やっと謝り、普段通りに戻ることができ、ホッとした。



 ◆◇◆

 /ガチャッ/


「ただいまー」

 元気よくドアを開けた。


「お帰りなさい〜ルナさん。」

 リビングからリリムが出てきた。リリムには親の謎の失踪があってからは、掃除、洗濯などの家事をして貰っている。とてもありがたい。

 ちなみに家事などを行っている時は基本、人の姿でいる。

「ちょっと、いいかな?聞きたいことがあるんだけど……」

「いいですよ。ちょっと待っていてください」

 俺はリリムには聞いてみることにした。体が男から女に変わると、考え方など、心情も変わっていくのかどうか知りたかったのだ。




「それでどうされたんですか?」


「俺、最近男の頃には感じたことがない感情になったりすることがあるんだけど、それって体が男から女になったせいなのかな?」


「私も詳しくは知らないんですが……でも、多分それが影響しているのはまちがいないと思います。体が女になった影響で、少しづつですが内面も変わっていってるのではないでしょうか」


「ありがとう。リリム。」


 やはりそうだったのか。リリムも人体実験された身なので、完璧にわかっているわけではないと思うが、少なくとも俺より詳しかったので、多分、本当なのだろう。




 ◆◇◆


「ルナさんー。夕食が出来ましたよ〜!」

 リリムのその声を聞いた俺は二階の自分の部屋から急いで降りてきた。何しろ、お腹ペコペコだから。

「今日はハンバーグか。美味しそうだな〜♪」


「ルナさん、いろいろ悩んでいるようなのでご飯の時ぐらいはそれを忘れて食べてもらいたいと思って……」


「それで、俺が好きなハンバーグを作ってくれたのか」


「はい!お口に合うかわかりませんけど……」

 リリムは口に合うのか心配そうな顔をした。

 早速ハンバーグを食べてみると……美味い‼︎

 食レポはできないけど、こんなに美味いハンバーグは生まれて初めてだった。母の作ってくれたハンバーグも美味しかったが、リリムのには負ける。

「すっっっごく美味しいよ!」


「本当ですか!嬉しいです‼︎」

 リリムは顔を真っ赤にして照れていた。可愛いな……いかんいかん、今の俺(女になっている)がそんなこと言ったら、変じゃないか!

「リリムは将来、いいお嫁さんになると思うよ」

 俺がそう言うと、一段と顔を赤くして、照れる。やっぱり可愛いな〜。

 でもこう考えるってことはまだまだ、男の気持ちが残っているということなのだろうか?



 ◇◆◇

 時刻は1時。俺はなかなか眠れずにベットに横になったまま、窓から見える星空を眺めていた。今日は雲が少なく、綺麗な夜空が広がっていた。俺の隣には小さな寝息を立てて、リリムが寝ている。リリムは俺の使い魔ということになっているので、俺に危険なことが有ってもすぐにサポートできるように猫の姿で同じベットに寝ている。


 俺は相変わらず星空を眺めていたのだが、空からこちらに向かってきているものがあった。

 俺はなんだ?と思い目を凝らしてみると、俺が夜のパトロールに使っている蝙蝠が飛んできたのだ。

 窓を開けてやると、部屋の中に入ってきた。俺は吸血鬼になってから蝙蝠と会話ができるようになった。

 蝙蝠から話を聞くと、どうやら明里たちのグループの魔物が討伐団に襲われているらしいのだ。


「どうしたんですか?ルナさん……」

 眠そうにあくびをしながらリリムが起きた。


「リリム。明里たちのグループが討伐団に襲われているらしい。早く助けに行こう!」


「分かりました!」


 俺はお面とかぶり、マントを巫女の服にし、窓から目的地へ向かった。

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