第9話


 魔物には三種類いる。

 一つ目はシンプルな魔物。

 二つ目は人の体を乗っ取り、その体を支配している魔物。

 三つ目は人間から魔物になった種類だ。


 ゲッコは二つ目にあてはまる魔物だ。

 ゲッコは高速移動ができる自分にあった体を探すために陸上競技で活躍していた人たちなどを襲い、体探しをしていた。

 そして、今夜もゲッコは、狙ったターゲットを襲おうとしていた。



 /スヤスヤ/


 ぐっすり眠っていた俺だったが、使い魔のコウモリから担当していた付近にゲッコらしき魔物が現れたという連絡があり、急いで支度を始めた。リリムはすでに起きており、リリムと一緒にその現場に向かうことになった。


 時刻はもう真夜中の3時過ぎで、満月が満天の星空の中、神秘的に輝いていた。


 俺とリリムは近辺にゲッコが出現したという陸上選手の家の前で見張ることにした。


「あれ、またコウモリが!」


「本当だ、今度はなんだ?」

 すると再びコウモリからゲッコが近くにいると報告があった。


 その時だった。ゲッコが俺達の目の前に現れたのだ。


「お前は、あの時の女だな。何しに来た?」

 ゲッコは鋭い目つきをして、俺に問う。どうやら、俺の顔を覚えているようだ。


「お前を殺しにだよ」

 不思議と落ち着いていた。あの時はあんなに怒りに支配されていたというのに。


「女がそんな言葉使って、品がねぇな」

 ゲッコはそう言い終えると得意の猛スピードで俺に襲いかかって来た。

 だが、ゲッコの動きが突然止まる。


「お前、なにしやがった」


「拘束魔法をそこに仕掛けていたんだ。どんなに速くても動けなかったら意味がないだろう」


 ゲッコは体に鎖が巻きつき、動けなくなっていた。


「来い、剣!」

 召喚魔法で剣を出しそれを掴む。

「くらえ!」

 ゲッコにその剣を突き刺した。ゲッコは痛みで叫び声をあげた。

 しかし、それだけではゲッコは死ななかった。


 俺は魔法にまだ慣れていないため、剣を出した時に鎖の方の魔法はとけてしまっていた。二つ同時に魔法を維持することは出来ないようだ。


 剣を突き刺されたあとに鎖が解け、自由になったゲッコは高速のスピードで俺に鋭い爪で攻撃を浴びせてきた。


「きゃっ‼︎」

 ゲッコの速さには目が追いつかず、俺の全身の肌はゲッコの鋭い爪で傷つけられていく。


「そろそろお前も限界なんじゃないのか?」

 ゲッコの言うとおりだった。爪攻撃を複数回食らってしまった俺には、もう体力は残っていない。あと一撃食らうとおそらく倒れてしまうだろう。


「確かにそろそろ限界だ。早いとこ倒さないと」

 もう一度、鎖の魔法をかけてゲッコが逃げられないように再び拘束した。これでゲッコのスピードは無効化される。

 それから、俺は鎖にむけて雷の魔法攻撃を発動させた。鎖から伝って雷の攻撃がゲッコにダメージを与えるという仕組みだ。鎖に拘束されたゲッコに逃げる手立てはない。

 鎖に絡まり動けないゲッコが激しい雷を食らった。

 今度は二つの魔法を維持することができた。意識すればなんとかなるのかもしれない。


「くっ、お前ごときにやられるとは…」

 鎖から解放されたゲッコは、もう鎖がいらないほど弱っている。


「これでトドメだ!」

 剣に先ほどの雷魔法をまとわせる。

 一歩一歩ゲッコへ近づいていく。すると、ゲッコの方も命の危険を感じたのか、最後の力を振り絞り、俺の方へ向かってくる。だが、ボロボロのゲッコのスピードは先ほどとは比べ物にならないくらい遅くなっている。このくらいのスピードなら俺でも難なく避けることができる。


 ゲッコが爪を俺へ振りかぶろうとした瞬間、俺は真上へ跳躍した。

 爪撃の力は行き場を失い、ゲッコはバランスを崩す。


 今がチャンスだ!


「『雷搥一閃』おりゃぁぁぁぁぁ‼︎」

 ゲッコの位置がちょうど俺の真下に来たのを確認し、荒ぶる雷を秘めた剣を真下に向ける。

 ゲッコに突き刺さる瞬間、雷は目がくらむほどの光を放った。




「グガァァ……」

 ゲッコは体がだんだん消えていき、やがて完全に消え去った。


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