第7話


 今日は土曜日。


「ふぁーー、よく寝た」

 学校は休みだったのでいつもよりだいぶ遅くまで寝ていた。

 ベッドから起き上がり、リビングににいくとリリムと親がごく自然に話をしてしていた。


「ん? リリム、ちょっといい?」

 リリムをこちらに呼んで聞いてみると、リリムは俺の親に、元々からうちの家族だったと信じ込ませる魔法を使ったらしい。リリムが言うには、リリムは俺の妹ということになっているようだ。



 リリムの謎も解決し、テレビを見ながら遅めの朝食を食べていた。


 テレビ・「ニュースです。昨日の深夜から今朝にかけて、同一犯とみられる殺人が起こっています。殺害された被害者5人には、いずれにも額にバツじるしが刻み込まれているという不可解な事件です。

 犯人はいまだに見つかっておらず、警察が懸命の捜査を続けています。」


 俺は「不思議な事件もあるんだな〜」という感じで、他人事のように見ていただけだった。





 昼からは彩香に誘われて、大型ショッピングモールに行くことになった。

 すでに彩香を待たせてしまっており、俺は数分だが遅れてしまった。

「ゴメン、遅れちゃって」


「大丈夫だよ、私も今来たところだもん」


 やはり、彩香は心優しいな。明里はどちらかといえばガンガン言ってくるタイプだが、彩香はたいていのことなら、許してくれそうな優しさを持っている。



 ショッピングモールではオシャレな洋服屋さんを数軒まわり、服を買ったりしたのだが、ハッキリ言って俺には女子の服のセンスがない。いや、センスというより情報不足なだけかもしれない。どちらにしろ、俺は女子ファッションには疎かった。そのため、服を選ぶ際も彩香の意見を最も重視した。おかげで良い服が選べた。


「ふぅー。買い物終えたら、なんかお腹すいてきたなぁ」


「瑠奈さんも? 実は私もお腹すいてきたんだぁ。フードコートにでも行かない?」


「イイね、行こう行こう!」

 買い物がひと段落つき、フードコートに行くことになった。




 /ドンッ‼︎/

 豪快な音とともに、テーブルに置きましたのはメガお好み焼きであります!


「ええっと……それって、大丈夫?」

 彩香は俺に不安そうな声を掛けた。


「え?何が??」

 俺にはなぜそんなことを言われたのか、見当もつかない。


「え……、だってそれって女子にはかなり厳しそうだよ。食べきれる?」

 どうやら、彩香は俺が買ってきたメガお好み焼きについて言っているようだ。だがしかし、問題はない。俺は過去に何度も大盛りメニューを完食してきている。このくらいは造作もないことさ。




 ………15分後


「うぅ〜……、く、くるしい」

 俺は満腹感と、お好み焼きの味の濃さにやられていた。


「だからやめておけばよかったのに……」

 呆れた顔をしながらも、彩香は俺の腹をさすってくれている。


 ドーナツ一つだけを頼んでいた彩香を見習わなければ。今の俺は女で男の頃のように大食いはできない。


 でも、まぁ〜結構楽しかったし、女子同士が遊ぶときはこんな感じなのか、と勉強にもなったのでよかった。



 しかし、事件は突然起きた。町の6時のチャイムが鳴る頃に、『キャー‼︎』という女性の叫び声がショッピングモール全体に響き渡った。


「なんだろう、今の叫び声は」

 俺は、急いで叫び声がしたところへ向かった。

 そして、なんとそこには、魔物が1匹立っていたのだ。


 大勢の人が逃げ惑う中、広場の中央の場所だけがみんなから避けられるようにしてすっからかんとしていた。

 それもそのはず、そこには先ほどの悲鳴をあげたであろう女性の死体と緑色をしたヤモリのようで、爪が鋭く伸びている魔物が立っていた。


 俺が来てから少しして、彩香も追いかけてきた。

「も〜、いきなり走るからビックリしたよ!」と息を切らしながら言っていた彩香だったが、その魔物を目撃すると、「瑠奈さん、早く逃げましょう!」と半泣きで言ってきた。たしかに、普通なら死ぬほど怖がるだろうな。でも、今の俺は不思議と恐怖を感じない。


「私は忘れ物しちゃったから先に逃げてて。」

 と言って、彩香を逃げさせた。


 周りにも、もう人は誰1人として居らず、みんな逃げてしまったみたいだ。


 それにしても、あの女性はあまりにも可哀想だ。女性の亡骸を見てみると、とても綺麗な顔をしていた。そして、額にはバツじるしが……。

 ふと、朝流れていたニュースが頭をよぎった。

「お前が、人を何人も殺した犯人か!」

 そう、このバツじるしは間違いなくニュースで報じられていた連続殺人犯のものだ。そして、この魔物なら何人もの人を殺せるだけの力があることもみてとれる。


 俺の中で怒りの感情が沸き立つのがわかった。

「このクソが‼︎」

 こんなやつ、俺が吸血鬼になってぶっ倒してやる‼︎


 しかし、俺が吸血鬼になろうとした瞬間、黒猫が私の前に突然現れた。それはリリムだった。

「リリム、そこをどけて‼︎」と俺は言ったが、リリムはどけようとはしない。


「今戦うのはまだ早いです。瑠奈さんはまだ、戦う為の技をまだ全然使えてないじゃないですか‼︎」


「だからってここで見逃したら、また、被害者が出てくるじゃないか!それに、この前だってスライムに勝てたんだから大丈夫だよ。」


「その魔物はスライムと比べ物にならないくらい強いんです。そんな強敵に、魔物とほぼ初めて戦う瑠奈さんが勝てるとは思えません。魔物ランクっていうのがあるんですが、それでいうと、スライムが最低ランクのEで今回の魔物はCランクです。しかも、その魔物は、動きがとても早いんです。」


「でも......」


 パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。しかも、かなりの数だ。


「警察も来たことだし、このまま吸血鬼になっても、こちらも狙われるだけです。警察に任せて帰りましょう。」


 確かにリリムの言う通りだな。


「分かった。でも、リリムにお願いしたいことがあるんだ。その魔物を倒すための方法を一緒に考えてくれないかな。次会った時に倒せるように。」


「もちろんです‼︎」


 その夜、俺がテレビをつけるとニュース番組で、あのショッピングモールに駆けつけた警察の半数が魔物によって殺されたというニュースが流れていた。

 そして、その魔物はまだやられていないようだった。


 怒りが体全体に広がっていき、俺は怒りに侵食されていく。


 なぜ、こんなに人の死について、熱くなっているのだろうか、自分にも不思議なくらいだった。だが、その思考もやがて無くなってしまっていた。




 俺の中には怒りのみ。

 罪もない大勢の人を殺した魔物を殺す、殺してやると…



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