第5話

「さあさあ、入って入って」


 マサキは戸惑いつつも、家へ足を踏み入れた。


「夜月さん、もしかして亮太の妹だったりするのか? 亮太はひとりっ子のはずだが……」


 マサキがそう思うのも不思議ではない。なんせ、この家はマサキからすれば亮太の家だ。その亮太の家に住んでる瑠奈おれは亮太の家族だという可能性は高い。


「マサキくん、ついてきて」

 マサキを俺の後についてくるように促し、二階の自室に招き入れた。


「ここって、亮太の部屋じゃ……」


 俺の部屋は女になってからいくつか女子っぽい部屋に変わっていたのだが、俺が男だった頃の物もたくさん残されている。とうぜん、マサキも見覚えのあるものが幾つかあるはずだ。


「ここに座って」

 マサキを簡易テーブルのある向かい側に座らせ、俺はマサキから見て正面に正座した。


「夜月さん、それでオレに何か用?」


「うん。マサキくん……いや、マサキに話したいことがあるんだ。これから話すことはありえないことだらけだから、嘘だと思うかもしれないけど、信じて欲しい。」


 マサキは頷いてくれた。

 俺は今まで、自分の身に何があったのかを洗いざらい全て吐き出した。今まで、みんなに言えていなかったことを全て言い切り、気持ちもスッキリしたように感じる。



「やっぱり、信じてくれないよな。」

 話し方も男の頃に戻してみる。


「確かに信じられない話ではあるけど、でも、中学の頃の思い出も全部覚えてるし、亮太としか思えないのも事実……」

 マサキは考え込んでいる。きっと、現実では理解しがたい内容をどうにか理解しようと頑張っているのだろう。


「信じるよ」


 マサキの『信じるよ』のひと言を聞いた途端、気持ちが高揚するのを感じた。今まで誰1人として俺を瑠奈としてしか見なかった。でも、マサキはこの瑠奈おれを亮太として認めてくれる唯一の理解者となってくれたのだ。それが嬉しくてたまらない。

「本当⁉︎ あと、できたら俺が男だったときの話し方に戻してくれない? その、少し丁寧なような優しいような喋り方は、なれないんだよね。」


「ゴメンな。俺も、今までお前が亮太だって知らなかったし、まだ、知り合ったばかりの人に馴れ馴れしい、タメ口みたいな喋り方はできなかったからな。これからは喋り方を戻していけるように早く女になった亮太に慣れないとな。」


「信じてくれてありがとう‼︎ 俺のことを覚えている人が一人いるだけでも少し心強いよ。」


「話は変わるけど、そのコウモリとか、吸血鬼とか言ってた能力はいったいなんなんだ?」

 マサキが食いついたのは、俺が先ほど説明したコウモリになれる特殊能力のことだ。


「今はコウモリになって飛び回ったりしかできないけど見る?」


「見てみたいな。」


「じゃ、いくよ!」


 俺はコウモリになり、部屋の中を飛び回った。


「本当なんだ! スゲェ〜な‼︎」

 たいして使えない能力だと思っていたが、マサキがこんなに喜んでくれるのなら悪くはないかな?


 それから小一時間ほど2人で思い出話に花を咲かせた。


「今日は楽しかったよ。また明日な!」


「うん!気をつけて帰れよ、マサキ」


 マサキの姿が見えなくなるまで玄関前で手を振り続けた。それぐらい、今日の出来事が嬉しかったのだ。


 話してよかったな〜。信じてもらえたし、また、マサキと遊んだりできるからね。

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