Ep.5 Death & Taxes 6
先に動いたのは、ホワイトナイト――ランセロの方だった。
いや、ランセロからしてみると、先に動くしか無かったと言うのが正しいところだ。あの復讐機に先に動かさせたら、先と同じことにしかならない。
だからこそ、自分から攻撃を仕掛けて、その上で隙を狙うしかない。
復讐機が飽和攻撃へと出るのは、ランセロの予想の範囲内だった。こちらが先読みして攻撃を回避していて、それで攻撃を当てられないというのなら、どうしても回避が不可能な飽和攻撃を仕掛けに来るだろう。それは、当然のことだ。
そして、飽和攻撃を仕掛けるなら、消費するエネルギーの量も増える。あの復讐機が、後どれだけ保ったものか。
だが、それは同時に、回避不能な状態で、あの復讐機と戦い続けなければならないことを意味していた。
直撃すれば即死。暴虐の悪臭が全方位から臭ってくる。
――だから、攻めろ。
残った右腕で、距離を詰めること無くコールブランドを振り回す。荷電粒子を伸ばしてやれば、コールブランドの間合いは伸びる。
槍以上の間合いを持つ、巨大な刃をもつ稲妻の剣。それが今のコールブランドの姿だ。
横薙ぎ。
周囲に存在する物体の高度を一定に伐採しながら、復讐機へと光の刃――いや、白光の暴流が迫る。
復讐機も対応してくる。赤い首を、ホワイトナイトへと向かって叩きつけてくる。
白と赤の、爆発的なエネルギー同士がぶつかり合い、お互いを喰らい合い、粒子と弾けて周囲へ散る。
コールブランドを振りながら、ホワイトナイトはステップ/一瞬前に居た場所に、赤い龍が突き刺さる。
手数は向こうのほうが遥かに多い。だが、なんとかするしか無い。
回避に、フィールドを使うことは出来ない。コールブランドを大剣として安定させれば、移動に使うほどのフィールドを残しておくことは出来ないし、左腕部破損の所為でフィールドの出力が下がっているからだ。
だからこそ、歩法で回避して、同時に攻撃を仕掛けるしか無い。
先手を打って攻撃をすれば、それを弾くために向こうも手を割かなくてはならない。技量に関しては、ランセロが優越していることは間違いない。こちらの一手に対して、向こうは二手割く必要がある。
残る二手さえ回避すれば、戦える。
問題は、どちらが先に倒れるかということだけだ。
光の剣と、赤い龍が何度も何度もぶつかり合う。龍の頭はコールブランドの荷電粒子とぶつかる度に斬り落とされるが、落とされる度に首は再生する。
合間に、通常の首が漆黒のプラズマジェットを放射してくる、が――どうやら真っ当に狙いを付けることが出来ないらしい。プラズマジェットが発する悪臭はホワイトナイトに当たる軌道すら描かない。
だが、そのプラズマで島は地形を抉られ、形を変えていっている。戦闘が終わった後、地図と同じ形の島は残っていないだろう。
光の剣が、赤い龍の首をまた叩き落とす。落ちた首が、小枝のように踏み折られた樹木に火を着けて、焔が舐めるように広がっていく。
最早、ランセロは敵の姿を爆炎越しのシルエットでしか認識出来なくなっている。
周囲は完全に立ち上がる焔に包まれており、その向こう側に見えるのは七つの頭を持つ赤き龍。
――黙示録の光景か。
信心深いというわけでもないランセロですら、ついそんな事を思ってしまう。
……黙示録の獣は、七つの首を持ち、十の角を持った赤い龍だった。
あの復讐機がそれに近い姿になってしまったのは、偶然か必然か。
ただの少女だった筈の彼女が、そんなものになってしまったのは、偶然か必然か。
そう考えながら、最早回数も忘れたコールブランドの斬撃を繰り出そうとした瞬間だった。
ホワイトナイトの機体内部に、エラーメッセージが鳴り響いた。内容は、コールブランドのエラー/オーバーヒートだ。
――くっ……!
煙を吐き出しながら、コールブランドが沈黙する。度を越した連続使用。そして、この炎熱地獄。流石に冷却が追いつかなくなったのだ。
――先に力尽きたのは、こっちのほうだったか……
弾幕や防壁として使っていたコールブランドの斬撃が消えてしまえば、後にやって来るのは当然、復讐機の首だ。
前面に突き出されていたコールブランド。そして、ホワイトナイトの右腕。そこに赤い龍の首が襲い掛かる。
飢えた獣が、肉に群がるかのように。瞬間的に装甲と金属が溶解していく。ホワイトナイトに、抵抗は敵わない。
――駄目だった、か……
そして二本目の首が襲い掛かってくる。眼前へと迫る龍に、ランセロも観念した。すまない――そう、考えた時だった。
ホワイトナイトの鼻先まで迫った龍が、動きを止めた。
――どうした……?
はぁ、はぁ……とコクピット内で荒い息を吐き出しながら、ランセロはそれを見る。
ランセロの視線の先で、龍の首が、まるで花が萎れるかのように、地に落ちていったのだ。地に落ちた龍の首は、まるで大地に染み込んでいくかのように、消えていった。
爆炎の先に、復讐機の姿を見る。
復讐機は膝を着き、頭を垂らしていた。まるで擱座しているかのように。攻撃の最中にそんな事になる理由は間違いなく――
「勝った……のか?」
冷や汗を流しながら、ランセロは言う。
だが、理由はそれ以外に思い浮かばない。あの飽和攻撃は、やはり多大にエネルギーを消耗していたのだ。少女の全てを擦り減らし尽くしてしまうほどに。
ぎりぎりで……本当にぎりぎりで、ランセロは間に合ったのだ。
「そうか……勝ったのか……」
仇は取ったぞ――
勝手に漏れたその言葉に、ランセロはコクピット内で、はっとさせられた。
仇。
自分で嫌っておきながら、ランセロは復讐機を、仲間の仇だと――これは復讐であると、認識して、それを成就させていたのか。
そうでなくては、そんな言葉が出てくるものか。
――あぁ……
「私も、何も変わりはしないのだな――」
……それが、ランセロの最期の思考だった。
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