Ep.5 Death & Taxes 4


 ホワイトナイトの装備した重装鎧は、当然の事ながらエクステンション・アーマーだ。

 ホワイトナイトのエクステンション・アーマーは、量産型ギアドールが装備している盾と同じく、防御用フィールドを展開することが可能だが、当然あの盾とは性能が段違いだ。

 まず、出力。全力で防御用フィールドを展開した場合、現行の兵器でホワイトナイトを傷一つ付けることすら難しいレベルの防御力を誇る。

 そして、展開能力。盾を用いていながら、その表面を覆う程度にしか防御用フィールドを展開できなかった量産型と違い、ホワイトナイトは防御用フィールドで機体全身を覆うことが可能だ。

 全身を防御用フィールドで覆うだけでなく、一方向、一点にフィールドを集中することも、ホワイトナイトには可能だ。集中させるほど、フィールドの出力は大きくなる。その、防御用フィールドの指向性もまた、ホワイトナイトの強みだ。

 最も重要なのが、応用性だろう。盾からの慣例で防御用フィールドという名でこそ有るが、ホワイトナイトのフィールドは機体の防御以外にも多用されている。

 まず、移動。ホワイトナイトは防御用フィールドを使って、機体自体を押すことによって移動することが出来る。フィールドの指向性変化だけで移動可能で、全方位から力をかけることが出来るので、ホワイトナイトはランセロの反応に着いていくことが出来るのだ。

 そして、荷電粒子砲――名称:コールブランドの制御だ。一見すると手持ち火器のように見えるコールブランドだが、実際はホワイトナイトのエクステンション・アーマーの一部というのが適切な装備である。

 荷電粒子の制御――収束や加速に、ホワイトナイトはフィールドを利用している。そうでもしなければ、現代の技術では、ギアドールの手持ち火器のサイズに荷電粒子砲を収めるのは不可能だ。

 遠距離攻撃に使う場合は、フィールドで不可視の砲身を作り射程と安定性を上げる。

 近距離攻撃に使い場合は、短いフィールドを作ってその中に荷電粒子を流し込むことで一時的な刀身とする。

 遠距離攻撃時は、フィールドを防御に回すことは出来ない。フィールドは全て、移動と、砲身形成に回すことになる。これが、ホワイトナイトのオーバーシフトである。

 防御用フィールドという、単純でありながら応用が効くシステムに絞ったホワイトナイトのエクステンション・アーマーの仕様を、ランセロは気に入っていた。

 爆発によって復讐機と距離を離されながら、ランセロはホワイトナイトにコールブランドを構えさせる。

 ――両腕を内側から破裂させて攻撃とは、なんとも恐ろしいことをするものだ。

 そんな事を考えながら、ランセロは復讐機を確認する。

 地を転がるかの機体は、まるで植物が伸びるようにして失った両腕――いや、頭部を再生させていた。

 損傷を与えても攻撃力が殆ど落ちないというのは、脅威以外の何物でもない。

 だが、こうして再生を行わせれば、その分相手は消耗する。損傷を与えて、相手のリソースを削っていくことが、勝利への一番の近道だ。

 それは、エルフリーデ達から送られたデータから導き出される結論だ。

 仲間が残したデータを無駄にはしない。

 ――さて……

 立ち上がった復讐機を、ランセロはじっくりと観察する。

 射撃戦では明確に有利が取れないと分かって、白兵戦へと移行するのは予想通り。だが、射撃戦で有利が取れないと向こうが理解したと言うことは、ランセロの回避能力が認識されたという事でも有る。

 白兵戦でも、ランセロの回避能力は有用に働く。その上で、復讐機は何故白兵戦を挑もうとしてきたのか。

 ――機動力か。

 速度でも、復讐機はホワイトナイトを上回っている。それによって、反応が不可能な速度の攻撃を仕掛けてくるつもりなのだろう。

 なるほど――悪くない手段だと、ランセロは静かに思考する。

 ならば、こちらはその手に乗っていく事にする。

 コールブランドはシフトダウン――近距離戦仕様にしたまま、荷電粒子を吐き出さない待機アイドル状態にしておく。こちらのリソースも無限ではない。

 立ち上がった復讐機は、じり、じり……と、削るように相対距離を縮めてくる。

 対して、ランセロは、ホワイトナイトを同じ速度で下がらせて、距離を保つ。

 ――来るが良い。

 ただ冷静に、感情を乗せず。マニュアル通りの対応をする接客業者のような心持ちで、ランセロは復讐機の動きを待つ。

 あの相手は、あまり気が長いわけではない。思い切りが良いとも言えるが、力任せでなんとでもなるだけの力が、短絡的にさせているのだろう。

 暴力は、特に他人を一方的に虐げることが出来るだけの暴力は、人間を簡単に残酷にする。

 剣を持っては戦えない農民も、槍を持たせれれば人を殺せる。

 拳より剣。剣より槍。槍より銃。

 より強く、より遠くから、より安全に、一方的に攻撃出来る力は、一般人を容易く戦闘者に仕立て上げる。

 ギアドール――それも、あの復讐機程の力なら言うまでもない。復讐が暴力を求め、暴力が少女を復讐鬼に変えたのだ。

 短絡的で暴力的な復讐鬼に。

 ――さぁ、短絡的に、暴力的に襲い掛かってくるが良い。

 ランセロはホワイトナイトの左手を前に出して、手招きさせた。分かりやすい挑発行為だが、復讐機は乗ってきた。

 ……が来る。暴力の悪臭が。

 その臭いが自らに移らないように、ランセロはホワイトナイトを動かす。

 ……一瞬前まで居た場所に、色のついた暴風としか形容しようがないものが、木々を薙ぎ倒し大地を削り取りながら突撃してきた。

 それは言うまでもなく、復讐機だ。

 触れたもの全てをずたずたに引き裂く、悪魔の如き存在。ランセロが恐怖と嫌悪感を感じずにはいられないもの。

 その攻撃を回避しながら、カウンターを狙いに行く。

 集中力が途切れたら、その瞬間ランセロは死を迎えるだろう。ある意味では、これは精神的な消耗戦であるとも言えた。

 また、暴力の臭いが来た。鼻を摘みたくなるほどの強烈な悪臭に、ランセロは顔を顰める。

 直線的で、慣性など無視しているかのような動き。

 先行して回避。

 まるで地を駆ける稲妻のように、直線と鋭角で構成された軌道で復讐機は攻撃を仕掛けてくる。地上を超音速で疾走する非常識の極み。

 肉眼でその動きを追うことは、不可能だ。臭いに頼って、先行して攻撃の軌道から逃れるしか無い。

 だが、臭いに頼ってすら、ホワイトナイトは攻撃の回避が精一杯だった。

 防御用フィールドを移動に転用して後方へ飛んだホワイトナイトの鼻先を、龍の角が掠めていく。移動に使えるほど強力なフィールドを張ったにも関わらず、攻撃の勢いがまるで減衰していない。白兵戦では、フィールドが防御用に機能していないのだ。

 復讐機は、あまりに速すぎる。

 機動と防御にフィールドを全力で使わなくては、回避しきれない。

 ――カウンターを狙うのは難しい、か?

 意思を持った雷鳴のように、二頭で攻撃を振るう復讐機。それを可能な限り最小限の機動で躱すホワイトナイト。

 ステップ/回避/踏み込んでくる/軸をずらす。

 斬撃/横にフィールド。

 斬撃/一歩離れて。

 斬撃/半身になって。

 ありとあらゆる攻撃を、ホワイトナイトは躱していく。

 互いの攻撃が、タイミングがなにか一つでも狂ってしまえば、この回避と攻撃の連鎖は止まってしまうだろう。二機の共同作業による、動きの連なり。それはまるでダンスのようでもあった。 だが、その動きの連なりも、双方が望んでいるものではない。特に、復讐機の側にとってはそうのはずだ。

 ならば――

 ――何か必ず、仕掛けてくる。

 暴風と共に振り下ろされた龍の角による斬撃を避けながら、ランセロはそう考える。

 もっとも、その方法は半ば読めている。

 いつまで、こうやって無意味な攻撃を仕掛けてくるつもりだ。さぁ、別の方法で攻撃を仕掛けてこい。

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