Ep.1-R Back To Basics 2


 さて、何から話すべきなんだろうか。

 色々、話さなきゃいけない事がある。まずは――そもそも、悪魔、とは何なのか。そこから話す必要があるね。

 初めて会ったときも言った通り、悪魔とは独立演算型情報質量体――と、彼等が呼んでいる存在だ。彼等っていうのは、言うまでもなく、あの髑髏面の機体の乗り手達、そして彼等を率いる企業I3のことだね。

 悪魔の事を、独立演算型情報質量体と言ったけれども、それは、悪魔――聖書に出て来るもの、主神に叛逆する堕天使の事だけを指している言葉じゃない。

 超自然的存在――神、天使、悪魔、妖精、妖怪……そういったものの全てが、独立演算型情報質量体であったと、彼等は仮定している。

 そして、神話、伝承等に語り継がれる通り、悪魔やそれに類する超自然的存在は、昔から人類に関わってきた。

 時には味方として、時には敵として。

 人類の敵である以上、それと戦ってきたもの達も当然のことながら存在している。

 I3は悪魔と戦い続けてきた組織が、母体の一つとなって生まれた企業なんだ。

 彼等にとって、悪魔は危険な存在で、誕生しようとしているならば、その芽を刈り取る必要があった。それが、彼等にとっての、理由だ。様々なことの、ね。

 そして、悪魔とはなんなのか、という問いには、もう一つ答えがある。

 正確には、独立演算型情報質量体とは何か、ということだ。

 お嬢さんレディ、情報消失理論は知っているね? ギアドールの動力でも有り、僕――そしてネメシスの動力として使われている機関を支えている理論だ。

 この宇宙において、情報は世界から消える際に、熱量を生む。

 だから計算機を用いて演算を行い、情報を生み出し、それを焼失させる――燃やすことによって、エネルギーを取り出すことが出来る。

 計算機――コンピュータが、エンジンとして使えることになるわけだ。

 情報とはエネルギーであり、演算、思考することによって、情報量は増大する。そういう事だと理解して欲しい。

 では、仮定しよう。

 もしも――自ら思考する能力を持つ、情報の塊が存在するとしたら?

 それは、自らの持つエネルギー量を増大させる事が出来るエネルギーの塊だ。自ら思考する、永久機関の実現だ。

 人間に対する脅威であり、人間が見る夢の一つでも有る存在。

 それが、悪魔。

 それが、独立演算型情報質量体。

 それが、僕だ。

 君の父親は、独立演算型情報質量体の研究をしていた。正確には、その実在と、顕現方法についての研究を。

 今まで、歴史上に現れた独立演算型情報質量体は、全て偶発的な顕現だった。神や悪魔のような存在が、偶然条件を満たしたから顕現していたんだ。

 それを、狙って出来るようにする研究というわけだ。

 でも、その研究は彼等によって握り潰された。

 彼等――I3からすれば当然だ。悪魔の存在、実在を衆目に晒す事も、その顕現方法の研究も、許せることじゃない。世界が悪魔で溢れてしまう。

 そうやって握り潰されて来たのは、君の父親の研究だけじゃない。I3は今までも、悪魔の研究を潰してきたんだ。

 もっとも、完全に歴史から抹消出来たわけじゃないけどね。悪魔の召喚、天使の召喚、その他色んな方法は、魔術や民間伝承みたいなものとして残っているわけだし。

 そうして、研究を潰された君の父親は、流浪の身になりながら、それでも研究を続けたんだ。その事は、お嬢さんレディ、君のほうがよく知って――いや、そんな事はないか、もう。

 君達は、住処を変えて、I3の追跡を撒きながら、悪魔の研究を続けていた。君には自覚はなかったかもしれないけれどもね。

 それが結実したのが、あの湖畔の家だったんだ。

 ……独立演算型情報質量体の安定した顕現には、二つ必要なものがある。

 一つは依代。

 独立演算型情報質量体は、基本的には情報の塊だ。それはこの世界において単体で存在するには、不安定に過ぎる事を意味している。

 それを安定させるため、つまりはこの物質世界に固着させるためのアンカーになるものが、依代だ。

 そして、依代は出来るなら、生き物の形をしているものや、生き物そのものがいい。

 生きている、死んでいるに問わず、動物そのもの。あるいは、動物の形を模したもの。大きいほど、安定もする。

 君の父親が依代に選んだのは、巨大な人型だった。

 ……そう、ギアドールだ。エルフリーデが言ったとおり、湖畔の家の近くには、旧式のギアドールがあった。廃棄されて回収されていなかったのか、その辺りの理由はどうでも良いことだ。

 僕は、そのギアドールを依代にしている。だからこそ、ネメシスはギアドールに近い形状をしているし、操縦インターフェイスもギアドールのものに近くなっている。腕が機械なのだって、機械が根本にあるからだ。

 もう一つ必要なものは、情報質量。

 大量の情報質量の焼失を呼び水として、独立演算型情報質量体は、物質世界に顕現する。

 悪魔に生贄を捧げる――よくある話だろう? ……反吐が出る。

 あの女の言っていた通り、それだけ大量の情報質量を得るには、人間一人を焼失させるのが一番簡単だ。

 そして、僕の生贄になったのは――君の父親だ。

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