Ep.4-2 Turbo Obliterate 2
ネメシス・ヴェインは、空中を舞うディアボルージュを見上げながら、両腕の頭でそれを狙っていた。
口から吐き出す黒焔――プラズマジェットストリームの威力は、絶大だ。ありとあらゆる物を真っ二つにしてしまっている。
下に向かって吐き出せば、地球すら真っ二つに出来るのではないか。ネメシス・ヴェインの中で、レディはそう考える。流石に、そこまでするつもりはない。気をつけないといけない。
超高速で飛び回るディアボルージュだろうが、こうして首の角度を変えるだけで、プラズマジェットストリームで軽く追い立てることが出来る。
それが、レディには楽しかった。
今の今まで、レディはエルフリーデの掌の上で、転がされ続けてきた。出会い、戦闘場所の指定、そして罠にかけられるまで、ずっとだ。
そのエルフリーデを、こうして飛ぶこともせずに、追い立てている。まるで羽虫を弄ぶかの如く、だ。
愉快で、愉快でたまらなくて。笑えるものなら、笑いだしたかったぐらいだ。
そうして、黒焔でディアボルージュを甚振っていると、必死に回避しているディアボルージュが何かを複数落とした。
僅かに重力に従った後、ディアボルージュの落とし子は自ら推力を得て、向きを変えてネメシス・ヴェインの方へと向かってきた。
ミサイルか、とレディは大したことでもないと考える。
避けるのも、撃ち落とすのも、難しくはない。だが――と、レディは考える。そんな事よりも、この方が面白い。
「
なんとも切ない声音で言う悪魔に、レディは応えない。
飛んでくるミサイルは、先端部が螺旋状に回転していた。装甲貫通用の回転衝角ミサイルとでもいったところか。
ネメシスの防御力の高さを評価して積んでいた、特殊なミサイルなのだろう。
それを、ネメシス・ヴェインは迎撃しなかった。
二つ、三つ。轟音を鳴らして、ミサイルが着弾する。回転する刃で、ネメシス・ヴェインの装甲を食い破ろうと必死に火花を散らす。
肩/胴体/膝――機体各部を破壊し、内部へと侵入せんとミサイルは襲い掛かっている。だが、ネメシス・ヴェインには傷一つついていない。
やがて――
機体表面で必死に藻掻いていたミサイル達は、生活に疲れて首を括るかのように、一つ、また一つと爆発していく。
爆裂音と共に、爆風、爆炎が華と咲く。
本来は、戦艦や要塞の装甲を貫いて内部を破壊する、強烈な爆発だ。だが、ネメシス・ヴェインの表皮装甲には傷一つ付けることが出来ないでいた。
あは、あはは、あははははは。
レディはその様を、心中で嘲笑う。
――なんて無様。なんて滑稽。こういう場合、鎧袖一触というのだろうか。それとも、蟷螂の斧?
爆風を物ともせずに、ネメシス・ヴェインに一歩、脚を踏み出させる。掘り返され、荒らされた大地が、轟音と共に粉塵の柱を再度吹き上げた。
そうして、両腕の顎から、黒い焔を吐き出す。
さぁ、さぁ、どうしてくれようか。
このまま、プラズマジェットで真っ二つにしてやろうか。
それとも、翼を用いて空中戦に持ち込んで、追い回してやろうか。両腕の頭部から生えた刃は、ネメシスの左腕を変質させて作った刃よりも鋭く強力で危険だ。振り回して肝を冷え上がらせてやるのもいいだろう。
創造の中で、あの生意気な女を打ち据えて楽しむ。
楽しい。楽しいけれど、退屈だ。
黒焔の鞭を大きく振るう。空中で焔がディアボルージュを追いかける。必死に逃げ惑うディアボルージュを、追い立てる。
――あぁ、退屈。
もっと、歯向かってきてほしいとすら、レディは思っていた。
敵わないまでも、必死に抵抗して、無様に敗北してほしい。蟻を捻り潰すよりも、抵抗する子供を叩きのめすほうが楽しいのだから。
きっと、猫が鼠を甚振るのだって、同じ気持ちなのだ。
「……
どうして? と、悪魔に対して、レディは思う。
多少の退屈感はあれど、楽しく遊んでいるのだから、はしゃいだってかまわないだろう。
そう考えて、漆黒のプラズマを吐き出す。ディアボルージュは再度ミサイルを撃ちながら空中を逃げ惑っていた。
そんなレディに向かって、悪魔は言う。
「東洋の諺に、窮鼠猫を噛む、なんてものがある。追い詰めたからって、反撃がないなんて油断しちゃ駄目だ」
ふふふ、とレディは笑いたくなる。
それは逆だ。
むしろ、少しくらいは、抵抗してもらわなくては困る。
飛んできたミサイルの全てを迎撃すること無く、ネメシス・ヴェインの装甲で受け止める。爆発したそれらは、ネメシス・ヴェインにやはり傷一つ付けることは出来ない。
ただ、爆風と噴煙だけが大きく大きく広がる。
突風が吹き、それらが全て晴れた時、ネメシス・ヴェインの目の前に居たのは、赤い人型だった。
翼を刃と変じた赤い刃を振り上げる髑髏面は、攻撃のために再度変形したディアボルージュだ
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