Ep.3 Opposition Orb 4


「……っはぁー……」

 きっちりと、少女と悪魔に背を向けて歩き、人の群れをすり抜けて、彼女の視線から遠く離れて後、エルフリーデは胸を撫で下ろした。

「流石に、僕も肝が冷えたな、これは」

 言って、エルフリーデは自分の掌を見る。真夏に全力で握り拳を作っていたかのように、そこはべったりと手汗に塗れていた。

 余裕の有るように見せてはいたものの、エルフリーデは心中では冷や汗が額に滲むのをなんとか堪えていた。

 芝居だ。全ては必要な芝居だ。

 肝を冷やしながらの芝居だった、エルフリーデはそう思う。

 いくら狙撃要員を配置していたとはいえ、いきなり少女と悪魔が暴れだす可能性も、無くはなかった。

 そうなった場合、多大な犠牲が出るところだったし、自分も助かりはしなかったことだろう。

 誘いに乗ってくれたのも、有難かった。

 これで、きっちりと準備をして迎撃をすることが出来る。

 もっとも、準備をしたところで、怪物を撃ち落とせるかどうかは分かったものではないが。

 先にあの少女に襲われた二人は、別に無能というわけではなかった。

 I3スペシャルセクションの中でも、スカル・フレームを任せられた人間達なのだ。エルフリーデからすれば、彼等には人格に問題点が無くもないが、技能に関しては文句を付ける気にはならない。

 扱っている機体、青い髑髏面の機体――ペイルムーンと、黒い髑髏面の機体――スピードキングも、いいギアドールであった。

 それでも、あの二人は負けた。

 ならば、普通にやれば、自分も負けるだろう。エルフリーデはそう考える。

 だからこそ、策を弄する。

 エルフリーデが得意とするのは、それだ。

 劇場とセットを揃えて、役者を並べて、筋書きも用意する。そうして、獲物を役者として、筋書き通りに踊らせる。

 それ以外で、あの悪魔をどうこう出来るという気が、エルフリーデにはしなかった。

 エルフリーデは呟く。

「もし、正面から、あの超暴力を止めることが出来るとしたら……」

 それは自分ではなく、自分達四人の内、最後の一人だろう。

 一対一の戦いにおいて、限りなく人類最強に近い、あの男ならば、もしや……

「いやいやいや、考えるのはやめよう」

 エルフリーデは首を横に振った。

「彼に期待するって事は、僕が負けるって事だからね」

 そんな事を考える必要はない。

 あの悪魔を討つのは、僕だ。次はない。

 エルフリーデは再度歩き出した。

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