誘い

 とはいえ、その仕事も駄目だった。わたしは致命的に不器用だった。裁縫をしたのは家庭科の授業くらい。わたしはそこでも何もできなかった。

 布を切っては布を無駄にし、仮縫いをしては針を折り、ミシンを使ってはミシンを壊した。

 わたしは足手まといになるどころか損失を出す存在だった。嫌がらせの対象にされるまでに時間はかからなかった。

「こんなに使えないひとも初めてだわ」

 吐き捨てられたその言葉が、脳裏にこびりついて消えてくれない。


 わたしは人として使えない、何もできない人間らしかった。バレエしかできないのだと言うことをやっと思い知った。でもバレエは二度とできない。

 わたしはその仕事を自らやめた。上司からの嫌がらせに耐えきれなかった。わたしが迷惑をかける存在だということは明白で、だから嫌がらせを受けるのだということもわかっていて。これ以上迷惑をかけたくなかったし、嫌がらせを受けることも嫌だったのだ。わたしは弱い。弱いのだ。


 そんなとき、幼少期バレエを習っていた先生から連絡があった。事故に遭って第一線から退いたと聞いているがどうしているのか、と。

 わたしは「歩くにも補助具が必要になり仕事がない」、と返した。

 すると先生は、「私のスクールで働かないか」と言った。驚いた。

 こんな足で何ができるのだろうか、と思ったが、

「プロの舞台を踏んだあなたにしかできないことがある」と言われ、わたしはその誘いを受けることにした。数年ぶりにバレエスクールの舞台を踏み、数ヶ月ぶりにバレエシューズを履いた。それが実は嬉しかった。

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