就職

 就職活動は始めてだった。ハローワークへ出向き、職員の方に教えてもらいながら初めて履歴書を書いた。何枚も何枚も履歴書を書き、右足をひきずって何社にも出向いた。しかし、わたしの足を見た担当者は決まって言うのだ。

「人並みに動かない足でこの会社で一体何ができるのですか?」


 わたしは何も言えなかった。悔しかった。何も言い返せなかったことも、事故に遭ったことも。そしてあの事故が奪っていったものの大きさを改めて思い知った。それはわたしの本職……バレエダンサーだけでなく、わたしの未来含めてだったのかもしれないと、今さら知ったところでもう遅い。貯金はゆっくり減っていった。

 結局わたしは長い長い就職活動の末、ある企業の事務職を得た。障害者手帳を取得したことによる、障害者枠での雇用だった。それでもわたしは嬉しかった。これでやっと生活を立て直せる。そう思っていたから。


 でも現実は厳しかった。まともな仕事につくことすら初めてのわたしに、事務職はあまりにも難しい仕事だった。Wordの使い方すらわからない。Excel、という言葉など聞いたこともなかった。わたしという存在はその会社においてただの足手まといでしかなかったのだ。


 世間知らずだったのだ、と今ならわかる。だけど、そのときのわたしは自分に常識がないことすら知らなくて。その会社で書類のホチキスを取り忘れシュレッダーを詰まらせたわたしに言われた言葉は、

「君、使えないから明日から来なくていいよ」

だった。

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