手術とリハビリ


「これから、左足の靭帯を一部移植する手術を受けてもらいます」

「補助具をつければ、日常生活は送れるようになりますから」

 わたしは靭帯の移植手術を受けることになり、主治医の説明をボーッとして聞いていた。この25年間ずっとバレエ一本で生きてきたのだ、踊れない自分に価値はない。どう生きればいいのか、全くわからなかった。

 実感のないままその3日後には手術が行われ、わたしは悲しむ暇もなくリハビリ生活に入った。足を曲げ伸ばす初歩的なものすら馬鹿みたいに難しくて泣きそうになった。

 バレエダンサーとして鍛え抜いた筋肉が落ちてリハビリが大変になる前に、なんとかひとりで日常生活を送れるからだになる必要があった。

 

 今のわたしは羽のない蝶だ。足は羽だった。ステージ上を飛び回っていたこの足は、もうかつてのようには二度と動かない。きついリハビリを受けながら、わたしは自分の足の限界を思い知った。今更もうバレエはできないのだという実感が込み上げて、わたしは何度も何度も泣いた。わたしはまた、蝶になりたかった。きらびやかな衣装を纏ってステージを飛ぶ、蝶になりたかった。

 蝶になれないなら、このまま死んでしまいたかった。でも、足が不自由では死ぬことすらできない。


 それでもリハビリを重ねた結果、なんとか足が少しずつ動くようになった。補助具の扱いにも慣れた頃に、退院が決まった。常日頃から鍛え上げていた脚の筋肉は、見る影もなくなっていた。


 当然無職となっていたわたしは、まず高い家賃のマンションを引き払って新しい家と職を探さねばならなかった。

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