第20話 糺の森
夜の水の中に、静かに身を沈めた。
(うー、寒っ)
水の中は、思ったより冷たかった。
越後に居たときは、春から秋まで海で泳いでいたけれど。
(ここへ来てからというもの、泳いだことは無い)
そもそも休みをもらったことさえ無い。
朝から晩まで
自由な時間が欲しかった。
今日も夜遅くまでこき使われた。
とうとう、ずっとやりたかったことを、思い切ってやってしまった。
夜中だから人っ子一人いないけれど、さすがに
水の冷たさに慣れると、
公方さまの池はとても広く、思う
池の中央にある石に登って休んだ。
月を
泳いだのは、
(喜平二さまと海へ行ったとき以来だ)
楽しかったな。
子供時代の、最後の思い出。
(喜平二さま)
今頃どうなさっておいでだろう。
私はここにいます。
あなたを想って月を見ています。
あのまま何も無かったら。
今頃は二人で月を見ていたかもしれない。
鼻の奥がつんとして、もう上を向いていられなくなった。
(あれは、公方さまがいつも
翌朝、
ずいぶんお酒を過ごしたらしく、
でも、
(皆、やすんでしまったのだろう)
さて、もう
水に
黒い人影。
複数の。
はっとした。
見覚えがある。
(あいつらだ)
直感した。
水音を立てないように岸に寄った。
着替えながら考えた。
人を呼ぼうか。
でも、この
特に夜は、女のほうが多いくらいだ。
隠れて様子を
三十人ばかりか。
皆、音を立てずに素早く動く。
(
逆だ。
館の外に出て行く。
(それとも、
公方さまたちはお酒を過ごして、盗賊たちに気が付かなかったのかしら。
公方さまがどうなっているか心配だったが、賊はどんどん行ってしまう。
決心した。
賊は厩から馬を引き出すと、
誰も出てこない。
(
後をつけてみよう。
とっさに決心すると、賊がある程度遠ざかったのを
門番の姿も無い。
賊は
小さく声をかけて馬を走らせた。
北に向かって、どんどん街から遠ざかっていく。
都に来てからずっと
きっと、ここは
(
(ここに
とても見つけることは出来ないだろう。
森の中にぽっかりと
先頭を走っていた者が合図をして、馬を止めた。
後ろに続いていた者たちが、ざっと二列に分かれて、同じように馬を止めた。
「飛んで火に入る夏の虫、とやら言うが」
「出て来い。ついて来ているのはわかっている。」
月がこれだけ明るいと、
仕方なく姿を現した。
「世間を騒がす盗賊団とは、その
皆、
「何を言い出すかと思ったら。そなた一人でこの
首領の
「
紅は、首領を
「
「
首領は
「だが、どうしてもそなたと戦いたがっている者がおる。その者を
首領のすぐ脇にいた者が、馬を前に進めた。
ひらりと降りた。
紅も馬から降りた。
その周りをぐるりと騎馬の武者が囲んで、
誰かが細長い棒を投げた。
二人は
相手も子供のようだ。
紅より少し背が高い。
出来る。
お互い思った。
次の瞬間、打ち合い、ぱっと飛び
でもその後は、相手が、
紅は押され気味になった。どんどん下がっていく。
(勝てる)
相手が思ったのが、わかった。
彼女が
と次の瞬間、有利だった相手が顔を
「こいつっ、
彼女は棒を捨てると、素早く相手に飛び掛った。
「これは試合ではない、実戦だ!
「女だと思って甘く見るな!
「もっともだ。」
紅の
「実戦ならばこの瞬間、そちの首は飛んでいる。」
いつの間にか首領が傍らに来ていた。
紅は構わず覆面を
「あっ、そなたは!」
先だって、信虎を公方さまの元へ案内していた
美しい顔を
満月に
紅は、振り向いて首領を見た。
「そちは
首領もゆっくりと覆面を取った。
「余が、公方じゃ。」
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