第17話 霜台
それからは奥向きの雑用は皆、彼女の仕事になった。
段々、
小侍従は
そのかわり、良いこともあった。
それまで
屋敷の北側の奥まった隅にあり、
実際、昼間の仕事で疲れきって寝ていても、夜の夜中にたたき起こされて、つまらない用事を言いつけられることも
この部屋には、ちょっと不思議なおまけも付いていた。
一日の仕事が終わり、疲れきって部屋に戻ってくると、
(何だろう)
開いてみた。
半透明の桃色、
匂いをかいでみた。
何の匂いもしない。
(何だろうか)
なんとなく食べ物じゃないかという気がした。
表面をちょっと
少し甘いような気がした。
毒じゃないかしら。
死ぬかもしれないけど。
死んでも、いいや。
味わった。
ほんのりと甘い味が、口の中に広がった。
楽しい気持ちが身体いっぱい
今度は三つ、続けざまに味わった。最後の一つは又、紙に包んで、枕元に置いて寝た。
贈り物はこれきりではなかった。忘れた頃に、思い出したように置いてあるようになった。
いつも決まって粒々が五つ。
誰がくれたんだろう。
小侍従や笹舟がくれたとも思えなかった。
魔法、なんだろうか。
いつしか紅は、贈り物を心待ちにするようになった。
「どうしている、あれは?」
小侍従の部屋でのんびり
「ちゃんと
「面倒、といいますと?」
小侍従は
「どうなさりたいのです?いつものように、
「どちらがいいと思う?」
義輝は逆に聞き返した。
「そなたなら、どうする?」
「さあ」
そっけなく言った。
「私は
義輝は鼻で笑った。
「申してみよ。」
「いつものように、お遊びのお相手になされば
「おいおい、そう怒るな。」
「怒ってなぞおりませぬ。あれほどの
「あれは山内{上杉謙信}からの預かり物よ。」
義輝は言った。
「山内はあれを大層気に掛けておる。ま、そうはいっても、
「本人は、そういう扱われ方は嫌でしょうね。」
小侍従は、ぴしゃりと言った。
「わかりました。仕込んでみます。」
「使い物になりそうか?」
「田舎者、ですね。」
「相変わらず
「危ういですね。本人は
こぼさないように、
「お姉さまっ!」
誰かが叫んだかと思うと、首にかじりついてきた。
(茶碗は
とっさに手を伸ばして、茶碗を救った。
天目台のほうは、
(床に落としたら傷がつく!)
「はっ!」
掛け声と共に、ぽんっと軽く
もう一度高く舞い上がった天目台は
「すっごい、
相手は、ぼうっとしている。
「さっすが、お姉さま。」
紅より一つ二つ年下か、肩の下で切りそろえた
(可愛い)
(なんか、変)
変、なのは。
(一体、いつの時代?)
つぼみ菊の
(ここは
なんか源平合戦の頃のお姫さまみたい。
「
興奮して話しかけてくる。
「何処のどなたかわからなくって……。こんなところでお会いできるなんて!」
「ええと。あなたは、確か……。」
「
松永弾正は、この都を
もう年だが、かつては美男だったろうと思われる顔立ちだ。押し出しも立派だが、とにかく
一番最初会ったとき、
「
と言う。
「わしが今少し若ければ、自ら手を取り足を取り、花開かせてみせるものを。」
周りの人たちはちょっと笑った。何だかイヤな雰囲気だった。老人の上品な顔のお面がぱかっと外れて、中の
何の予備知識も無く、いきなりこの館に放り込まれた彼女にとって、毎日のように来る訪問客がどういう人間かは、さっぱりわからない。
「余計なこと考えずに、お茶だけ運んでいればいいの。」
と小侍従に言い渡されている。
「それ以上のことは、だあれもそなたに期待していないんだから。」
だけど。
こうやって、
「ええと、鞠さま。」
仕方なく言った。
相手は玉を投げてくれる主人を待つ
「天目台をお返し下さい。」
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