第15話 武衛陣
ここに来てから、水汲みや
(何で養女になんか、ならされたの?こんな仕事するのに、ハクなんか必要なの?)
だが都どころか、日本全国
今まで、人に世話されるのが当たり前の生活を送ってきたから、人に追い使われる生活というのは、想像以上に
それでも慣れというのは恐ろしいもので、二週間もするともう、生まれてからずっとこの仕事をしてきたような、このまま一生やっていてもいいような気持ちになってきた。
(頭も気も使わなくっていいから、かえって楽)
朝起きて仕事に出、夜は寝床に入った途端に眠ってしまえば、何も考えなくて済む。もし暇で、
夕方になると、痛んだ手に
「喜平二さまが今日もお
と小さな声で
(あたしが『
でも彼女にとって、
毎日欠かさず、すがるように
彼は彼女の心の支えだった。
ところが二週間たつと、笹舟という名の
「この仕事は出来るようになったようだから。」
今度は別の仕事を言い付かった。
屋敷中の
朝になると
屋敷は部屋数が多く、迷路のようにわかりにくい造りで、最初は迷子になって自分が何処にいるかさえわからなかった。一人でまごまご
他の
言いつけられた仕事は黙ってやろう。
それでも又、二週間もすると、屋敷の内部が手に取るようにわかってきた。何処に何があって、どういう人たちが何をしているかも。
又、笹舟がやってきて、別の仕事を言い付かった。
今度は台所に行くように、という。
係りの役人は、
「何で女の童が……。」
と渋った。
「小侍従さまの御命令です。」
「えっ、小侍従さま?仕様が無いなあ。」
笹舟は、紅を置いて行ってしまった。
「うーん、
「あの」
紅はずっと気になっていたことを、思い切って口にした。
「小侍従さまって……あたしに仕事の命令を出していらっしゃるのはその方なんですか?どういう方なんでしょう?」
「命令を受けているのはあんただけじゃない。この家全体を取り仕切っていらっしゃるんだ。何でも公方さまの
役人は言った。
「さ、もういいだろう。大人しくしてな。」
「あの、
「ああ、構わないよ。」
それから十日ばかり、毎日ずっと隅っこにいた。時々何か覚書を書く以外は、ただ黙って置物のようにちんまり座っている。
ある朝、小侍従は台所役人を呼んで言った。
「昨晩は
「はい、何も。」
「いつも、大風が吹いたり雨が降ったりした翌朝は、あれが壊れた、ここで困っているって言ってくるじゃない。」
「それが、昨日はあの娘が」
にこにこと手招きして、言ったという。
「今夜は天気が荒れるようです。資材置き場の材木が少し乱れているようですので、しっかり縛って
「どうしてそんなことがわかるんだい、と聞いてみたところ」
役人は、
「西の山の
と彼女が言った、という。
小侍従は
「あの娘を奥向きの用に使うように。」
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