第12話 追放
まだ明けきらぬ府中の港には、この時期には珍しく
人目を忍ぶ旅立ちにはふさわしかった。
旅人は
紅は笠を
これから舟を乗り継いで都に
誰を頼って行くのか聞いても、本人もはっきりとは知らず、ただ獄から解放される時、行けと言われたところに行くのだということだった。
もう、国に居られないから。
吹く風に飛ばされるたんぽぽの
そして喜平二も、そんな彼女をどうしてやることも出来ないのだった。
彼自身が
喜平二が
(これは罰だ)
あれから
更に、戦のときいつも先頭切って斬り込んで行く輝虎の
喜平二を
(
(全てあの女のせい)
恨みは宇佐美の孫娘に集中した。
紅もよくわかっている。
今朝、喜平二が見送りに来るというのも必死で辞退した。
でも押し切って、彼はここに居る。
紅は泣きながら、
「あたしのせいで、喜平二さまは御養子のお話をお受けしなくちゃならなくなって。」
「馬鹿だな。」
喜平二は笑った。
「俺は嬉しい。お屋形さまを尊敬しているから。だから泣くな。何があっても、そなたのせいじゃない。」
彼女は
そっと口づけをすると、ぎゅっと握った。
喜平二の目の前に差し出すと、
「ああ、これは。」
初めて会ったときに持っていた、あの小さな鈴が付いた二つの緑の
「
彼女が言った。
「叔母さまが大切にしていらしていたものです。一つだけお持ちだと思っていたら、亡くなったとき、どういうわけか二つに増えていて。本当はいけないことだったのでしょうけど、あまりにも不思議だったし、どうしても
「有難う。何よりだ。」
喜平二は、何もついていないほうを受け取った。
紅にようやく笑顔が戻った。
「私は毎日」
彼女は言った。
「もう片方の石に、あなたさまの
「俺もこの石を」
彼も言った。
「肌身離さず持っていよう。」
紅は、喜平二の後ろに
「もう
ぽろぽろと涙をこぼした。
「違わい。これからは俺が姫君をお守りするんだい。」
与六は言った。
大人っぽく男らしく言おうとしたのに、涙で
姫君が
喜平二は、霧の中に紅の乗った舟が隠れていくのを見送った。
彼女の
与六は
港の端、岩場の
「姫君はどうなるのでしょう。」
「さあ、な。」
喜平二は霧の中に目を
「都も
「いいえ。」
きっぱりと言った。
「私はあの方を
喜平二は、つくづくと与六の顔を見た。
「そちは……又、ケンカしたな。」
はっとして、顔を背けた。
「これは姫君の悪口を言う
「そちが正しい。」
喜平二が
「わかっている。今までずっと、そちのことを見てきた。そちはいつも正しい。でも世の中、正しいことが通るとは限らん。あいつは、何の
いつもの喜平二らしからぬ激しい語調に、与六は涙の跡の残る顔で、主を見上げた。
「そちは
与六は居ずまいを正した。
色代し、頭を下げた。
「
喜平二は
「俺もあいつが好きだ。戻ってきて欲しいと思っている。だから」
刀の
「こうやって下げておく。あいつが戻ってくるまで、あいつを忘れないように。あいつを追い出したこの国が、少しでも正しい道に進めるように。俺たちがやるしかないんだ。」
二人で海を
少しずつ海霧が晴れていく。
波の
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