第9話 密談
子供たちの声がしている。
庭からだ。
盛んに遊んでいる。
でも主と客が押し黙って座っているこの座敷からは、庭は見えない。聞こえるのは声ばかりだ。
「前にもあったな、このように
主が苦笑した。
「でも今度こそ、
定行は
手が無いわけではない。
ただ、この人には決断できない。
親族が争うのが嫌なのだ。
だから定行が、
(
この
いっそ実権を譲り渡してしまってもよい。
そう思っているのかもしれない。
一度は
ほかならぬあの男の説得によって戻ってきた。
それ以来、
彼の心の中には、人々が
「なりませぬ。」
定行は言った。
「お屋形さまには責任がございます。他の者には勤まりませぬ。」
はっと顔を上げた。
子供のときから見慣れた表情。
(そうだ、心を強く持つのだ)
父親と師匠の顔で、
(わしがついておる、いつも)
ずっと教え導いてきた。
出会ってからというもの、人生を捧げてきた。
(この子に道を
心に決めた。
(この子の為なら、全てを犠牲にしても惜しくない)
すべて、を。
ドッポーン、と水音がした。
「誰か、池に落ちたな。」
「いえ。」
定行が言った。
「飛び込んだのでしょう。」
「喜平二が?」
「いえ、うちの孫が。」
「娘、だったな?」
「うちの家系は皆、病弱でしたから、身体を鍛えなければ、と。」
苦笑した。
「鍛えすぎたようです。
「思い出すな、子供の頃を。供の者どもと、様々な所を旅して回った。」
遠い目をした。
「俺の世話をしてくれた者たちも皆、年を取り、死んでしまった。
そしてこの子……
「子供は面白うございますな。」
定行は、上田で会った少年たちの話をした。
輝虎は
わあっと歓声があがり、次々に水に飛び込む音がした。
「子供は元気なのが一番だ。そして長生きするのがよい。」
輝虎は、ぽつりと言った。
主従は黙った。
同じことを考えているのを、互いに知っていた。
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