第4話 蛍
彼女の後を付けた。
何処から来たか知りたかった。
この辺では見かけない顔だ。きっと遠くから来たんだ。
姿を見失わないのがやっとだった。それでも離されていく。
『お山』のほうに歩いて行く。
(どうしよう)
『お山』に住む天女なんだ。だったら、納得だ。
(何処までついていこうか)
『お山』、
迷いながら、それでも何かに引かれるように後を追った。
ところが、彼女の姿が消えた方向から、悲鳴が聞こえた。
(大変だ!)
でも何処にいるのかわからない。
決心した。
彼は助けを呼びに、元来た方向へ走り出した。
代わりに水辺には青白い光が
今まで見たことの無いくらいの
八海山から流れ出る清流が、これだけ大量の蛍を育てているのだろう。
皆で声を限りに呼んだ。
彼は呼びながら、山の上のほうに目を
何か動いた。
(蛍だ)
いや、蛍じゃない。
蛍が人の形になって、ふわふわとこっちへやってくる。
(蛍の精だ)
近づくにつれて、人だとわかった。
蛍が髪といわず、手といわず、身体中くっついているのだ。
顔が見えてきた。
「あっ!」
彼女だった。
(やっぱり妖精だったんだ!)
走って迎えた。
「あらあなた、今朝の……。」
笑いかける彼女の前にひざまずいて、大声で言った。
「姫君、俺が大人になるまで待っていてください。俺、大きくなったら、あなたを
「こ、こら、何てこと言うんだ!」
周りの大人がびっくり
「あ、いいのよ。」
女の子は笑って制した。
「俺が皆を連れてきたんです。」
「ほんと?助かったわ。こんなに小さいのに、よく場所がわかったわね。」
「道々、枝を折ったり、草を結んだりして、
彼女は、後ろに立っていた少年に、笑って言った。
「私たちよりしっかりしています、この子。」
彼に手を差し伸べて立たせると、
「有難う、嬉しいわ。」
軽く抱きしめてくれた。
蛍がふわりと舞い上がって、二人を包んだ。
広い天地に、彼と彼女と蛍しか居ないような、特別な一瞬だった。
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