第33話みなみまぐろでございます

本日の一品:マグロの皮のおろし和え。


ミナミマグロの皮の身の方を上にして熱湯を流しかける。

皮に付いた身の色が変わったら鱗をすき切る。鱗を外したら細かく刻んで大根おろしとカンズリを添える。

醤油もしくはポン酢で


先付によい。これは冷酒呷りたい





本文


 往年の人情芸人トリオのネタではございません。うん、あのつかみは良いね。マグロづくしを作るときに

「ホンマでーす。びんちょうでーす。みなみまぐろでございます。」

 とやって、うしろから「おおばちだろうが!」等と突っ込み入れられてみたいものである。もっとも、マグロを食べるでなく見ただけで区別できる目利きがいないので無理であるのだが・・・・・


 前ふりが長くなりました。ミナミマグロを騙りたいと思う。

 ミナミマグロ、通人によれば本マグロよりも脂がのって美味しいという者が居りますが、どちらも其々の味がございますので別の食材と考えられるのが宜しいかと。養殖モノで食べ比べてみましたところ本マグロの方がやや酸味が強くミナミマグロの方が脂が強かった記憶がございます。勿論どちらも美味しゅうございました。たぶん推測するに締め方の技術の差と生育環境の差が出ているのだろう、マグロと言う魚は一匹一匹味の差が出る食材である。そういう意味では和牛の格付けにも似たところがあるのだろう。市場では尻尾を切り落として身の断面を確認しているところもありますがそういった理由なのでございましょう。変態的感覚を持つマグロの仲買人なんかはその断面を見ただけでマグロの価値を頭の中で計算して、一切れ食べただけで〆方の出来まで理解するという。勿論私にはできるわけないですが。

 マグロ類の中で絶滅が危惧される種類の魚でありまして今では天然ものを見かけることがほとんどなくなっております。その代わりにオーストラリアとかからの養殖物がそこそこ出回っております。一時期は丸で入荷してよく解体ショーなどを行ったものでありますが。そこでスキ身を作っている姿が鬼気迫って怖いと評判でありましたがそれはそれで別の話。笑いながら大きな出刃を二本振るっている姿は猟奇的だなんて言われるのですが、その癖スキ身を真っ先に注文する客の無粋さと言ったら・・・・・・・


 食べ方については・・・・・・・・・・刺身寿司オンリーとしか思っていないでしょう。実際、煮たり焼いたりすることを考えておられないお客様も多くて苦笑いでございます。実際マグロ類は尾っぽに近い部分の身は筋が多く刺身にするよりも加熱した方が美味しいのですが無理に刺身で食べようとして身崩れしたり筋が歯に挟まって・・・・・・・・これに関しては刺身でしか利益が取れない値段設定にしている状況が悪いのですが。そして我ら魚屋もその筋の強い身を刺身に使うと刺身に旨そうな見た目が一変、食べづらそうになるのでございます。この辺は上手い事使い分けていただきたいのですが結局は経済性で・・・・・・・・


 さて、マグロのトロとなれば値段が高くて大量には置かないのですが無ければ無いで問い合わせがうるさい商品なのでございます。どんだけ脂っこいのが好きなのかと小一時間ほど問い詰めてみたいものでありますがはるか昔にはマグロのトロは下品であり赤みを珍重していたという話があったのは時代とともに好みが変わっていくのだという実例なのでしょう。昔は着物が崩れる巨乳を下品な乳と称していたのに今ではでかい乳こそ素晴らしいなんて言い始めるし、その反動からか貧乳は(以下略)等と・・・・・・・例えが悪かったですかね?

 実際の話、マグロのトロはあまり多い量だと売れないのです。何故か?単純にトロに脂が強すぎて食べすぎると気持ち悪くなるからである。胃腸が丈夫な私でさえもインドマグロの大トロを一キロ食べたら気持ち悪くなった。その時は整腸剤と胃腸薬のお世話になりましたが何か?一般的にトロを注文する世代の爺婆なんかは胃腸が弱りまくりの棺桶に片足突っ込んで三途の川の奪衣婆のラブコールが来るくらいの連中なんかだと一人当たり二三切れがいいところであろう。それを人数分だから宴席やらトロのすし桶でも作らない限りは200グラムもあれば十分なのである。それでも値段にすれば2千円を超えたりするので左程多くは売れるわけがない。寧ろ売れるのがおかしいのだと思っていた時代がありました。


 トロ入りのお造り・・・・・・・普通に売れるな。トロの数を少なく、おつまみ程度によい感じにして・・・・・・はい?追加で?10人前?トロがないよ!これ見えるためだけのメニューだったのに・・・・・・・・

 これに気を良くした店の担当は・・・・・・・・トロの入ったお造りで攻めてみろとせっつく。はいはい、少々待ってね・・・・・・・・・

 数日後、店の広域指導担当(SM、SV等の店舗毎での呼び方の違い有り)から呼び出しがありまして

「ばろちゃん(仮名)お造りの数字が上がっているのにマグロの単品盛りの数字が下がっているのは何故かな何故かな?」

 と質問がありましたの(私派遣なのに社員に質問しないのなぜだろ)で正直にマグロ単品よりも盛り合わせに比重を変えたことを答えますと

「馬鹿野郎が!そこでトロの単品も併設してトロの売り上げも狙えばよいだろう!」

 と怒鳴られましたので少量ではありますがトロ単品とかも・・・・・・・・・うん、売れ残っていますな。順調に売れ残っていますな。まぁ、トロを売っていることを見せるためだから数を絞っておいておけば・・・・・・・なければ注文が来てあれば売れないという妙な商品となりました。実に魚屋の商品ってそれぞれの好みが分かれすぎて一点物に近い注文が妙に多いのであります。そこに応待するのが私の腕の見せ所なんですけど・・・・・・・・

「インドマグロ腹上中トロ部分皮ぎしで。ハマチは背節の中で・・・・・・」

おいっ!注文がひどすぎる!


 そして、若いの。トロのきれっぱしを持って昼飯に行くんじゃない!ヅケ丼のたれとか用意周到だな。しかも寿司担当から酢飯までか?なになに、他に青果担当に薬味を用立ててもらって三部門の若手連合で海鮮丼を楽しもうと・・・・・・・だったら他にもサーモンとかタイとか色々あるからもってけ。実は他にも事務部門の若手女子社員とか日配部門のチーフとかが便乗して豪華にしているのはその時の私が知らない事実である。

 因みに彼等の昼飯はおばちゃん達の味見攻勢でにぎやかだったそうである。 海鮮丼じゃなくて小海鮮丼とおかず盛り合わせ?健康そうで何よりだね。次の日はおばちゃん達もまねをし始めて社割販売海鮮丼セットが猛威を振るうのであった。だからってねおばちゃん、アジやイワシ位ならばいいけどカサゴだのカマスだのと言った捌くのが面倒なのとか高いのを選ばない!

 私もご相伴にあずかっただろうって?いや、私は魚を見飽きているのでゆでめんを利用した冷やしパスタ(バジル味)を啜っておりましたが何か?


 ずるずる・・・・・・・ああ、麺が旨い。明日は流○麺の素麺で冷汁を楽しむか。

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