第4話人を肥える歌
今日の一品:ウルメイワシの刺身
ウルメイワシは手開きでもよいが、手間ならば包丁開きにして皮をひく。
血合い骨は毛抜きで外しておくのが最上だが毛抜きがない場合は骨切りするとよい。
骨切りは細かく切る方法と血合い骨を横から切る方法があるのだがそれぞれの技量と手間をかける意気込みで選べばよい。
あとは、適当に切り分けて盛りつければよい。
切り方に自信がなければ細かく刻んでたたきにしたりなめろうにしたりするのも一つの手である。
さらに自信がなければ購入した魚屋に頼んで作ってもらうのがよい。
このとき調理料がかかるからと文句を言わないこと。彼らとてその腕で生業を立てているのだしそれを値切るとか文句をつけるのは彼等の技前に文句をつけること、ひいてはその技を得るための時間に対して侮辱する行為だからである。
私の場合文句をつけるならばお受けいたしませんと言い切るのだが。
ウルメの刺身には余計な味を感じさせぬ米焼酎がよく似合う。
ウルメのイワシの滋味を口中に含みのちに強き酒にて洗い流す、一瓶はかるいかるい。
本文
今回はウルメイワシについて騙ろう。明星派の名詩とは関係がないタイトルであることは明記しておく。
ウルメはマイワシに比べて身が硬く、別の食材として扱うべきであろう。イワシという分類ですべてを判断するのは無知のなせる技であろう。とはいえ、色々食べ方のある魚なので少々挑戦したところで外れのない魚なのでいろいろ遊んでみるのも楽しいものである。そんなウルメが不憫に思って(
食われるウルメイワシにとってはいらん事をと思われるだろうが)少々客にお節介を焼いて売り込むのである。
骨が強い魚であるのは否定せぬが良い物が手に入った時は喜び勇んで刺身にするのである。銀色の皮に鮮血の血合い、マイワシより脂の乗りが良いと私は感じるが偏見であろうか?
勿論、ウルメの干物の美味も忘れてはいけない。ウルメ目刺をあぶって安酒とともにかじり流し込むというのは立ち飲み酒場の酔いどれの特権というのは勿体なきことであろう。
さてウルメのことについて客の受けはマイワシ以下という評価が大半であり、悲しく思う。
そんな中、ウルメイワシの良い物を手に入れた私が刺身に開きを沢山こさえて他店(その当時の成績:チェーン店内成績一位)を超える程度の売りこんだのであるが、その時の客の苦情というのが笑えたのでここに記そう。
『最近ウルメイワシを売り込んでいるのは良いのですが、妻がウルメイワシを気に入りここ数日ウルメイワシの料理ばかりで他の物を食べたいのです。出来れば他の物を売り込んでいただけませんでしょうか?』
その苦情を受けて店長から私がお叱りを受けたのだが・・・・・・・・・・・心当たりの多すぎる私はどのお客さんだろうかと頭をかかえるのである。イワシ料理といえばそこそこの種類があるし、そもそも料理なんて言えば生・焼く・煮る・揚げる・蒸すの五種を挙げられるし、それぞれに対して細かい味付けとか下処理の違いを挙げれば数十の種類ができるのである。
客によって色々相談に乗って調理法を伝えたのであるが、毎日ウルメイワシを購入される常連さんがいたのは気に入ったのだなとしか私が思わなかったのは仕方ないだろう。10日くらい連続して購入されて私が教えて調理法を色々試されていたのだがその家族の方が根を上げて直接店に文句をつけに来るのは力関係が浮いて見えるようである。
実際においしいウルメイワシだったので、私も昼食にウルメイワシを刺身にして刺身定食とかなめろうとか楽しんでいたが、毎日は飽きるだろうなと納得する。
次の仕入れにはウルメをいったん止めて他の魚をメインに据えるのだが、其処でもその常連さんがその魚の美味を見抜いて購入してくださるのであるが其処までは責任持てない。後日御家族様が来店されて
『うちの婆ちゃんが魚ばかり買って困るんだけど』
と嫌味言われたのは笑い話としておこう。同行していた常連さんも、
『文句があるなら自分で造れ。』
としか言わないし、家族の諍いを持ち込まれてもとその当時の若造だった私は苦笑するしかないのであった。
別の苦情では
『うちのおじいちゃんが、ウルメを食べ過ぎて体重が増加する』
なんていう苦情があったが、年寄りは死ぬだけなんだから少しくらい食べすぎたって気にする必要はないのではないかと私は返答に困ったのであった。そもそもどれだけ食べたのか知りたい・・・・・・・が、今別の店にいる私にはそれを知るすべがない。
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