50音別魚騙り?

第2話長崎は今日もアジだった

 今日の一品:アジのなめろう


 アジの刺身用部分と葱、生姜少々と味噌少々を包丁で叩くように混ぜ合わせる。アジの身が4に対して葱生姜あわせて1、味噌0.5(味噌の塩加減にも拠る)の割合が私の好みである。

 味噌の代わりにたたき梅を利用しても良いし、アジの代わりに刺身の余りの魚や切り落とし部分を利用しても美味である。余ったら粉をまぶして団子にして焼き付けたり、つみれにしても美味。


 これには日本酒の辛口、魚の産地にあわせて選ぶのも面白い。



 本文

 魚屋の基本としてアジが挙げられよう。煮てよし焼いてよし、刺身でも美味である。

 歴史や薀蓄は他者に任せるとして味に通じて味が良い魚であるという説もあるくらいの美味なる魚である。


 私が勤めてきた諸々の鮮魚売場でも常に切らすことが殆ど無かった魚種である。そして調理依頼の多い魚種でもある。今回はアジについて騙りたい。



 アジの良し悪しは鮮度にあると私はおもっている。目がつややかで腹が張っている、身がしまっていればまず問題なく美味であろう。干物にするならば全体的に色が黒い『泳ぎアジ』をそれ以外で食べるならばゼイゴ(尾びれの側にあるとげのついた鱗)の側が金色の『瀬付きアジ』を選べが良い。

 この二つの違いはアジの生活の違いにある。全般的に色黒なアジは沖のほうで泳いでいるとされ食べ物に乏しく脂肪が少ない。逆に黄金色に彩られたアジは瀬に付いていてあまり移動もせず脂が乗っている。俗にブランドアジといわれる物は瀬付きのアジが多い。刺身や単純な焼き魚で食べるならば『瀬付き』の方が脂が乗って美味だが干物にして保存するとなると脂は変質しやすいので『泳ぎアジ』をお勧めする。(通常売られている干物のアジは生乾き状態くらいで冷凍されるので逆に『瀬付き』が好まれる。)勿論其々の好みがあるので己が舌に従えば宜しかろう。


 さて、タイトルにある長崎であるが、私が勤めている首都圏内でも良く見かける産地である。主に佐世保や松浦の港から出荷されるのだが皮が黄金色になっている『瀬付き』が多く程よく脂が乗っているので客にも受けが良い。ちょっと、焼き魚用にエラワタを取って置いたり、刺身用に三枚下ろし皮引きまでしておくとチョコチョコと売れていくのである。長崎県産の魚の詰め合わせ等が現地の漁協等から送られるのだがアジが入っていることが多い、それだけ自信がある一品ということなのであろう。(取れているし扱いやすいから入れとけという考えがあるのかもしれないが)そんなアジを見かけたときに客を呼び込む煽り文句として『長崎は今日もアジだった。』等とふざけてみるのである。このフザケ文句に大体年配の客が苦笑いをするのであるが、ここの読者層には理解されないだろう。勿論説明するつもりは無い、受けない洒落を説明するのは苦痛であるから。

 勿論首都圏内でも優秀な港は多く三浦半島や外房の港で取れるアジも産地が近いせいか鮮度面でのはずれは少ない。個人的には長井港(三浦半島)のアジなども長崎のアジや各地のブランドアジに劣るものではないと思っているが、房総半島のは『泳ぎアジ』が多い気がするけどあぶらっけの少ない身に味噌とかあわせてナメロウなどにするのも悪くない。


 そんなアジであるが、客の調理依頼も他の魚種に比べて細かい注文が多い。刺身にしてくれという依頼でもタタキにしてくれとか、逆に大きく切ってくれとか種々の好みは五月蝿いくらいに分かれるのである。鮮度の良いアジを刺身で売るときにはワザと切り方を変えて遊んだりもする私も悪いのだが・・・・・・・

 三枚下ろしと言っても刺身用とかムニエル用で下ろし方も違うので慣れぬ者が注文を受けるとどっちの下ろし方で良いのかと改めて聞く羽目になる二度手間なんて良くある。私が聞くときには最初に客の調理予定を聞くのであるが、客のほうでも細かい奴だと思っているだろう。そして、自分が思っている下ろし方でないと文句をつけるから面倒くさい。一度アジの塩焼き用の注文を受けたときに飾り包丁を入れてないのに腹を立てて


「飾り包丁を入れるのが常識でしょう!」

と自らが正しいと言い切っているのに閉口した覚えがある。その時は

「飾り包丁をお入れしますがどのような形に致しますか?」

と尋ねたのだが

「入れるのが当たり前でしょう。」

というばかりで話を聞いてくれない。

そのときいた店では飾り包丁も隠し包丁も入れないのが九割以上で、入れるにしても形が其々の家庭で違うので注文がなければ入れていなかったのである。

その旨を説明して改めてどのように包丁を入れましょうかと注文を承ろうとしたら、舌打ちして立去ったのである。


この客のあり方は極端だとしても、三枚下ろし(加熱用)にした後で

「やっぱり、刺身用で」

とか

「骨は無いの」

と言われると、やりきれないので注文の際には大まかで宜しいので調理法と骨とか入用ならばその旨を言っていただけると当方としてもとても有り難い。そんなの常識でしょうといわれても、とても困るのである。文句をつける前に注文の際には自らの希望を伝えて欲しいものである。


 愚痴っぽくなったが、アジは色々と調理法があり家庭での拘りありの美味なる魚なのである。



 さて、アジの骨を焼いてからとった出汁で茶漬けでもするかな。

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