■■




 すべてをぶち壊したのは私だ。

 いや、違うか。

 はじめからなにもかもが壊れていた。


 幸せな王子が一体何のために存在していたのか。そんなの決まっている。

 アンドロイドが一体何のために存在しているのか。そんなの、決まっているじゃないか。 

 なにもかも人間様のためだ。それは考えるまでもなく、きっぱりはっきりとしている。


 ただ、足りなかったのだ。

 個性が。多様性が。心というあやふやなものが。

 狭い箱庭に必要なそれらの刺激が、アンドロイドには決定的に欠けていた。

 学習はする。

 個性も多様性も心も、人間のためであれば、アンドロイドはいくらだって学習する。

 しかし、後天的に学習で得られたそれでは、何かが足りなかった。


 私はそれを独善と仮定する。

 ひとりよがり。

 主観的な思考。

 

 私にあって周囲になかったもの。

 私が周囲に求め、得られなかったもの。

 悪意にも近いそれを、人間様のために存在するアンドロイドに望み、アンドロイドたちはそれに応えようとして自壊していった。


 楽園をぶち壊す私は箱庭を追い出された。

 そうして、楽園で茶番を続ける代わりに、箱庭を造る側になった。


 























 アンドロイドに独善という名の心を持たせるという、吐き気のするくらい有意義な実験をするため、私は箱庭を造ったわけだが……


 まあ、結果から言うと結局それは失敗に終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る