私と日向ちゃん

totto

第1話

 私は、決してロリコンでも、レズでもない。 はずだった。


 コイツ、なにを急に言っているのだろうと思われるかも知れないが、事実として述べたかった。

 かと言って、好きな異性が居るのか?と問われたら首を横に振らざるを得ない。 興味を引く相手が居なかったのだから。

 でも可愛いものは好きだ。 こう言うと、友達やクラスメイトからは以外だと言われるが。 カワイイは正義だ。


 そんな私の名前は玲奈れいな。 我ながら格好良い名前だと思っているし、周りからは「玲奈ちゃんって名前通りで少しクールでお姉さんって感じがするよね」と言われたりする。

 周りが、この男子は格好良いやら、子供だよねぇやらと騒いで居るのを静かに相槌を打っていたせいかもしれないが。

 正直、周りの男子には興味が無かったので仕方が無い。



 

 中学校に上がる少し前、冬休みに入って軽く暇な時間を持て余しながら中学に入学してからの新しい学校生活に少し憂鬱ゆううつになっていると、隣にとある家族が引っ越してきた。 

 引越しの挨拶やって来た夫婦と足元に居る小さな女の子を招き入れ、居間で軽く話す事になった。

 その小さな女の子の名前は日向ひなたちゃん。 私がしゃがまなければ目線を合わせられないぐらい小さく、可愛らしいつぶらな大きな目に、短くもサラサラしている黒髪。 ほっぺは、突けばプニッとしていそうだ。



 「ひなたといいます。 れいなおねえちゃん、よろしくおねがいします」

 


 と小さいながらも、しっかりとした挨拶をする日向ちゃんはとても賢く見え、可愛らしく何もかもが愛らしく思えた。

 知らない人と話さなくてはならないと言う事で少しめんどくさく思っていた私だが、早くもそんな日向ちゃんの事が気になって仕方が無かった。 もう私のハートは彼女に鷲掴みにされてしまったのだ。

 もう、心がキュンキュンするのを止められない。


 この時はまだ気がついていなかったのだ。 これを、俗世間で言うところの一目惚れだと。 



 それからは、暇な時間を見つけては日向ちゃんと遊ぶようになり、比較的大人しい日向ちゃんだが、最近では私が遊びに行くと「れいなおねえちゃん!」と言って駆け寄って来て、小さな手で私の指を握り笑顔を向けてくれる様になった。

 この黒髪の天使は、私をどれ程メロメロにすれば気が済むのだろうか。





 冬休みを終え、日向ちゃんとの逢瀬の時間が減ってしまい溜息をつきながら学校へ行こうと外へ出ると、お母さんに手を引かれて出てくる日向ちゃんの姿が見えた。 私服姿ではなく、保育園指定の制服に身を包み帽子をちょこんと頭に被せた姿はあまりにも愛らしく、よく鼻血を出さなかったと自分を褒めたい。

 こちらに気がつき、笑顔で手を振る日向ちゃんの可愛らしさにダウン仕掛けたがどうにか根性で耐え切り、こちらも笑顔で手を振り返した。




 それから学校へ行ったが、ふっとした拍子に今朝の日向ちゃんの姿が思い浮かんでしまう。



 “はぁ・・・日向ちゃん可愛かったなぁ”



 そんな事を休み時間に思っていると、友達が話しかけたきた。



 「ねぇ玲奈ちゃん、大丈夫? さっきから遠い目をしては溜息なんかついちゃって・・・・もしかして恋煩い?」


 「・・・え?」



 恋煩い。 そう聞いて、何かが私の心にストンッと落ちた気がした。

 日々家族に対して、今日の日向ちゃんはどうだった、こうした姿が可愛かったなど世間話をするかの様に話す私に、妹の様な存在が出来て嬉しいのだろうと微笑ましそうに聞き流していた両親の態度に若干腑に落ちないが、私自身も、そういう事なのだろうと納得しようとしていた。

 しかし、今の言葉を聴いて私は心の中に掛かっていた軽いモヤみたいなモノが晴れるのを感じ、そして戸惑った。



 “私は日向ちゃんに恋している? 保育園に通っているような子に、それも女の子・・・・・”



 その事実に軽く動揺してしまったけれど、納得してしまった。



 「そっそんな訳無いじゃん。 まったく、薮から棒に何言ってるんだか。 ただ休み明けで学校がダルイだけだよ」



 そう言って何とか誤魔化すが、自分の気持ちを自覚してしまったら日向ちゃんへの思いが、急激に加速した様な気がした。




 すぐさま学校から帰って来て、時間的にも日向ちゃんは帰ってきていると思い、来年からは中学生になるからと買ってもらった携帯電話に登録されている数少ない電話帳を開きコールする。 私は自分の心に正直に生きる女なのだ。 数秒のコール音の後、日向ちゃんのお母さんが電話に出る。




 「あ、もしもし、玲奈ですけど」


 『あら、玲奈ちゃんどうしたの?』


 「日向ちゃんは帰ってきてますか? もし良かったら遊びたいと思って」


 『日向なら帰ってきてるわよ。 ちょっとまってね』



 と言うと、受話器越しに日向ちゃんを呼ぶ声と子供特有の高い声が聞こえてきた。



 『もしもし、れいなおねえちゃんですか?』



 電話を通しても、その声は鈴を転がすような可愛らしい声で、私の耳をくすぐる。 眼福なら耳福だ。



 「っは。えっと日向ちゃん、これから遊びに行っても良いかな?」



 すぐに我に返り、要件を伝える。



 『ほんと!? やったぁ! それじゃあ、ひなたのお家でまってますね』



 と嬉しそうに返事をもらったので、すぐに自分の部屋にランドセルを置いて急いで隣の家へと向かう。

 この様にして、私は日向ちゃんとの逢瀬を重ねて行った。






 小学校の卒業を控えて、周りの女子達は好きな男の子に告白をするしないで盛り上がっていた。 その中には男の若くて格好良い先生なども候補に上がっていたが、私には関係のない話だ。

 自分の恋心が、普通ではないのは十分理解している。 むしろ異常だ。 私も日向ちゃんに告白を? いやいや、告白してどうなる。 相手はまだ小学生にも満たないから恋なんて分からないだろうし、何より分かったとしても気持ち悪いと思われるのがオチだろう。



 “あれ? 私、詰んでるよね”



 周りがワイワイとやっている中で、1人絶望している私。 というか、なんでそれに気がつかなかったのだろう・・・・。 恋は、人を盲目にすとは言うけど、このことか。

 今のところ、好かれているとは思う。 でも、きっとそれは恋愛の好きではないだろう。



 “はぁ・・・・どうしようか”



 心の中で溜息を吐いて、未だにガールズトークに花を咲かせるクラスメイトを横目にしながら思う、とりあえずは今ある幸せを噛み締めておこうと心に誓う。



 そんなことを思っていた矢先、帰りのショートホームルームが終わり下駄箱に着けば見知らぬ手紙が入っていた。 横長の白い便せんに入ったソレ。

 ソレを手にして立ち尽くしていると、一緒に昇降口まで来た友達が不審に思い近づいて、私の手元を見た。



 「ねぇ玲奈ちゃん、どうしたの・・・・・ってそれラブレター!?」



 やはり彼女の目から見ても、ラブレターに見えるようだ。

 友人に断りを入れて、人目のつかない近くのトイレの個室へ入り、手紙を取り出した。



 【高木 玲奈さんへ

 とつぜんのお手紙でおどろかれたと思いますが、僕の気持ちを伝えたくて贈らせていただきます。

 ずっと前から好きでした。 良ければ僕と付き合ってください。

 明日の放課後、校舎裏の焼却炉前で待ってます。 良ければそこでお返事をください。


 鈴木 勝谷しょうやより】



 やべぇよ、マジモンのラブレターだよ。



 「はぁぁぁぁぁ・・・・」



 あまりの事に溜息しか出てこない。 鈴木勝谷といえば、クラスメイト達が優しくて運動も得意で格好良いと噂していた男子の1人だ。

 とりあえず、手紙を戻してポケットの中へしまい込み、昇降口で待っているであろう友人の元へ。



 「ねぇねぇ! やっぱりラブレターだった? 流石玲奈ちゃんだよね、こう大人の魅力みたいなのがあるからラブレターの1つや2つ貰っても不思議じゃないよね」


 「いやいや、そんなことないよ」



 と、はしゃぐ友人相手にはぐらかしながら帰宅。

 ようやく一息つけると、自分の部屋に入り机の上にランドセルを置いた瞬間、家のインターホンが鳴った。

 今は買い物に出かけていると書置きを残して居ない母に代わり、私が出ないくてはいけない。



 「まったく誰よ・・・」



 愚痴りながらも、玄関の方へ行き扉を開ける。

 


 「はいはい、どちらさまぁ~~~」


 ガチャっ


 「れいなおねえちゃん!」



 と開けた瞬間小さい何かが、足に抱きついてきた。 声からして誰だか分かってはいるが。



 “あぁ~~~抱きつかれているだけで癒されるぅぅぅ!”



 先程までの重い気分は何処へやら。 流石マイエンジェル、癒し効果バッチリだ。



 「どうしたの日向ちゃん?」



 足に抱きついたままの小さい旋毛つむじに話しかける。

 すると、ようやく日向ちゃんは顔をあげてくれた。



 「お家から、れいなおねえちゃんが帰ってくるのが見えので遊びに来ちゃいました。 ダメでした?」



 と少し不安そうに首をかしげる。



 「そんな事ないよ! 来てくれて嬉しいよ。 ささ、上がって」



 意気揚々と日向ちゃんを連れてリビングへ行くが、遊ぶものが無いので困った。

 とりあえず日向ちゃんを先にソファーに座らせて、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し2人分用意して持っていく。



 「オレンジジュースをどうぞ」


 「ありがとうございます♪」



 うんうん、ほんと礼儀正しくて良い子だよ。 お礼を言って、ちびちびと飲む姿は見ているだけでご飯3杯行けるね!

 私も学校帰りだったこともあり、喉が渇いていたのでオレンジジュースを口にする。 やっぱり果汁100%はカラダに染みるね。



 「れいなおねえちゃん、これなんですか?」



 目を離しジュースを飲んでいる間に、小さい手がラブレターを握っていた。



 「!?!? っごほっごほっごほ」



 よりにもよって、一番見られたくない人物に見つかってしまった。 別に見られたからといって何かがある訳ではない、これは気持ちの問題なのだ。



 「だいじょうぶですか!?」



 そう言って、日向ちゃんは隣に座っている私の背中を一生懸命に撫でてくれた。 あぁこのままナデナデされ続けたい・・・・じゃない!



 「あ・・・ありがとう日向ちゃん。 えっと、それはどうしたのかな?」


 「これですか? さっきれいなおねえちゃんが座った時にスカートのポケットから落ちました」



 くそう、このラブレターめ。 どこまでも厄介な存在らしい。

 嘘を付くのは簡単だ。 しかし、日向ちゃんには嘘を付きたくないという思いが強く、どうしたものかと悩んでしまう。



 「ん~~~~?」



 と可愛らしく首を傾げて答えを待っている姿は可愛らしく、お願い事の全てを叶えてあげたくなってしまう!



 「それはねぇ・・・・ラブレターって言うんだけど、分かるかな?」


 「ひなた知ってます! 好きな人にきもちをつたえるために書くお手紙なんですよね。・・・もしかしてれいなおねえちゃんが誰かにわたすために書いたお手紙なんですか?」



 少し不安そうにして聞いてくる日向ちゃん。 どうしたんだろう?



 「違うよ。 これはね、私が今日貰った物なの。 私このことが好きですって書いてあったんだよ」



 不安そうな顔を見たせいで、聞かれていもいない事まで答えてしまった。



 「好き? ひなたも、れいなおねえちゃんや、お母さんやお父さんがだいすきです」


 「ん~~~とねぇ。 そう言う好きじゃなくて・・・・・・・・」



 なんと言えばいいのだろう、幼女に対してどう説明すればいいのやら。

 


 「こう、その人のことを思うと胸がドキドキして、ふとした時にその人の事を思い浮かべてしまったりして、ずっと一緒に居たいと思えて、一緒に居ると胸の中があったかい気持ちになったりする様な、そんな感じの気持ちで、それを恋っていうの」


 「ドキドキ・・・・・」



 私の話をきいて、自分の胸に手を当てて難しい顔をして考え込む日向ちゃん。 そんな姿が愛らしくて、頭に手を乗せて優しく撫でてしまう。

 すると、難しく悩んでいた顔が一瞬で嬉しそうに目を細めて笑顔になる。



 「嫌じゃない?」


 「う~ん、れいなおねえちゃんにナデナデされるのきもちがいいです。 むねがポカポカします」


 「そっか」



 そうして、沢山ナデナデして十分に堪能させて貰ってから手を離すと、日向ちゃんがこう切り出してきた。



 「れいなおねえちゃんは、そのお手紙にへんじをするのですか?」


 「うん、するよ。 しないと相手に失礼だからね」


 「もしかして・・・・その人のことがすきなんですか?」



 と嬉しそうだった顔から、またもや不安そうな顔になってしまう日向ちゃんに慌てて答える。



 「違う違う違う! お断りするんだよ。 全然好きでもなんでもないからね。 私は日向ちゃんの方がずーーーと好きだよ」



 そう言って私は、日向ちゃんを膝の上に乗せて抱きしめる。 私の思いが、少しでも伝わればいいなと思って。

 私の好きが伝わるとは思えないし、バレてしまったら気持ち悪がられるかもしれないが、今ぐらいはいいよね?


 理解されないだろうということをいい事に、私は愛しの人の髪のいい香りや体温を感じながら抱きしめ続ける。



 いつしか、そのまま気持ちよくなってしまい、2人してお母さんが帰ってくるまでソファーで寝てしまうのであった。






 なんやかんやあって、卒業式。

 1人娘である私の卒業式だと張り切っている両親を尻目に、学校へ。

 ん? 告白の件はどうなったのか?

 もちろん断りましたとも。 その後、小学校という小さい社会の中では隠し事が難しく、告白の件がバレてしまいクラスメイトの女子達からは勿体無いと騒がれたりした。

 そしたらなんの嫌がらせなのか、3通のお手紙が下駄箱に入っていた。 もっと他に渡す相手が居るだろ、オイ。


 またもやトイレの個室に入り、手紙を開封する。

 どれも似たような内容で、これまた女子に人気の高いメンツが揃っていた。 なんで?

 それも何故か、そのことが既に知れ渡っており、またもや女子に囲まれて騒がれることに。



 「玲奈ちゃんって綺麗で私達と変わらないのに、お姉さんって感じがするよねぇ。 やっぱり男子はそう言う子が好みなのかなぁ?」


 「玲奈ちゃんなら仕方ないかなぁって思っちゃうよね」


 「「「うんうん」」」



 どうやら私の外見は美人さんの様だ。 確かに、うちの両親は綺麗だなとは思っていたし、たまに両親からも「玲奈は可愛いというよりも綺麗だから将来が楽しみだね」と言われるが、身内びいきな意見として捉えていたし自分のことは特に気にしていなかった。 なぜって、可愛いものを愛でている方が幸せだから。



 卒業式はつつが無く終わった。 大体の子は市内にある同じ中学へ行くので、特に感傷は無い。 また中学で会えるのに、女子の皆は泣いていたが。

 そして私はまたまた焼却炉の所へ向かっている。 3人共同じ場所を指定するとは、ワザと狙っているのかな?

 

 到着すると、気まずそうな男子3人が待っていた。 ワロス。



 「「「あ、高木さん!」」」



 向かってくる私を見つけると嬉しそうにこちらを呼び、直ぐに「え?」っという顔をしてお互いに顔を見合わせる。 ちょっと笑いそうになった。



 「えっと、3人共・・・コンt・・・・」



 おっと危ない、何をコントしているのとか言いそうになった。



 「ゴホン。 3人共お手紙の返事を待っていたんだよね?」


 「そうだ、ずっと前から好きだった。 良かったら俺と付き合って欲しい」



 私の問いかけにイチ早く答えるのは、俺様系でリーダーシップがあり顔も格好良いと噂される杉崎 まこと君。



 「僕だって前から好きだったんだ。 是非とも僕と付き合ってください」



 次は頭が良く、紳士的な態度で女子に人気のある上野 修也しゅうや君。

 


 「ぼっぼくも・・・ずっと好きだったんです。 だからぼくと!」



 と言うのは、小動物っぽい仕草と男の子にしては可愛い顔から、女子から可愛がられている早川 じゅん君。

 私もそれなりに漫画など見たりするが、どこの少女漫画ですかと言いたい場面だ。 ただ面倒なだけだけど。



 「3人共、ごめんなさい!」



 頭を下げてキッパリと断る。 そしてすぐさま、90度方向回転。 荷物は既に両親に持って行って貰っているので、身軽だ。 よーーーい、ドン!

 私は3人を切り捨てると、すぐさまダッシュ。 呆気にとられて唖然としている3人は、追ってくる様子はない。 もし追いかけてきたとしても、追いつけないだろう。 なんてたって、これでも走るのは得意で、学年で1番早かったりする。



 「ふぅ・・・巻けて良かった。」



 一番初めに告白してきた鈴木 勝谷君の時は、断ったあとも少ししつこかった事もあり、3人も居る所為で余計にややこしくなると予想していた私は、断った瞬間に逃げようと計画していたので上手くいって良かった。

 しかし、このあとも中学で会う可能性が高いので、結構憂鬱だったりする。 まぁいいか。 未来の私に全てをぶん投げて帰宅しよう。



 帰宅するとうちの両親と一緒に、何故か日向ちゃん家族が居た。 どうやら、私の卒業を一緒に祝ってくれるそうだ。 その中でも一番乗り気だったのはどうやら日向ちゃんみたいで、自分のお小遣いで買った一輪のスイートピーをプレゼントされた。



 「れいなおねえちゃん、ごそつぎょうおめでとうございます! どうぞ、これを受け取ってください」


 「ありがとう日向ちゃん!」



 あまりにも嬉しいサプライズプレゼントだったので、抱きしめてしまった。 これはあとで押し花にして、シオリにしよう。

 その後、6人で外食することになり、日向ちゃんに食事の席で卒業式について話をせがまれて、天狗になった私は色々な事を話した。



 「大半の子はまた会えるけど、寂しくて泣いちゃう子が多かったね」


 「れいなおねえちゃんは、さみしくないんですか?」


 「仲のいい友達は皆同じ中学校に行くから、寂しくはないかな」



 そして卒業となれば出てくる話題の1つ。



 「ねぇ玲奈。 誰から告白とかされなかったの?」



 と話題を降ってきたのはうちのお母さんだ。



 「そう言えば、荷物だけ持たせて何処かに行っていたな」



 お母さんに追随する様にお父さんまで言ってくる。

 その時、じょぜつになっていた私はそれに答えてしまう。



 「そうなんだよねぇ。 前にも1人告白されて、今度は3人同時でしかも同じ場所だったんだよね。 他に告白する相手が居ないのかな」


 「決まってるじゃない。 玲奈ちゃんが綺麗だからよ」


 「そうそう、玲奈ちゃんのお母さんに似て、とても美人さんなんだから。 見る目がある男の子達ね」



 とお母さんに同調する日向ちゃんのお母さん。



 「それなら、日向ちゃんだってとても可愛らしいから、将来モテモテになりそうですよ」



 なんといってもここに1人、既に心を奪われている人物がおります故。



 「そうなのよねぇ。 でも日向はしっかり者だから大丈夫よ」



 そんな感じで親達の娘自慢大会が始まり、私は大人しく聞くことにした。 それにしても、先程から日向ちゃんが静かで気になる。 ご機嫌斜め? 一体どうしたのだろうか?

 私の恋の行方と、日向ちゃんのご機嫌は行方知れずだ。






 ☆★☆★☆★☆★☆





 わたしの名前はたかなし ひなたといいます。


 おとうさんの仕事で、新しいお家にひっこしてきました。

 それからお家のすぐ隣にあるお家に、ひっこしの挨拶に行きました。

 そこには、とてもきれいなおねえさんがいました。 おねえさんのなまえはたかぎ れいな。 その日から、れいなおねえちゃんって呼ばせてもらっています。

 

 れいなおねえちゃんは、冬休みというすこし長い休みらしく、よくひなたと遊んでくれます。

 きれいでやさしくて、いろんな事をしっているれいなおねえちゃんを、ひなたはすごく好きになりました。



 「きょうもね、れいなおねえちゃんにいっぱい本を読んでもらったの!」


 「そうかい、それはよかったね。 日向は本当に玲奈ちゃんのことが好きなんだね」


 「うん、大好き!」



 と仕事から帰ってきたおとうさんに、きょうもあそんでくれたれいなおねえちゃんとの事を話します。 

 他にもおままごとをやったり、ゲームをやったりといろんな事をしますが、本を読んでもらうのが一番好きです。

 たまにひなたの知らない難しいことばとかを教えてもらって、ちゃんと理解するとあたまをナデナデしてもらえるからです。

 やさしい手つきで、ひなたのあたまをなでてくれる手はあたたかくて、とてもきもちいいのです。 それだけじゃなくて、いい匂いもして大好きです。




 そして、もう少しでれいなおねえちゃんが卒業式という日がやって来る日。



 「あ、れいなおねえちゃんだ!」



 ちょうどじぶんの部屋にいたひなたは、2階のまどかられいなおねえちゃんが帰ってくるすがたを見かけました。

 おかあさんに、れいなおねえちゃんの所に行くことを伝えて走って向かいます。

 まえに、おなじようにれいなおねえちゃんのお家に行った時、インターホンがならせなくて困っていたことがきっかけで、玄関前におかれるようになった棒を手にとってボタンをおします。



 「うんしょ」


 ピンポーーーーン



 すると直ぐに、れいなおねえちゃんの声がきこえてきました。 ひなたはドアがあいたしゅんかんに足に抱きつきます。 



 “れいなおねえちゃんのイイにいおい”



 さいきんでは、このにおいを嗅ぐと安心します。


 家に入れてもらい、ソファーに座りながられいなおねえちゃんが入れてくれたオレンジジュースを飲みました。

 先にのみおわったひなたは、ソファーに落ちている手紙を見つけました。



 “なんでしょう、これは”



 れいなおねえちゃんに聞いたら、ラブレターというものらしいです。

 ラブレターは好きな人におくる手紙です。 もしかしたられいなおねえちゃんが? 大好きなれいなおねえちゃんが、他の人にとられちゃう。 そんな考えがうかんでしまい、しんぱいになってきいてみたら違うようでした。

 ひなたもれいなおねえちゃんが好きだと言ったのですが、ちがうといわれてしまいました。 あとで、おかあさんにきいてみようと思います。

 そんな風に、ひなたがなやんでいるとれいなおねえちゃんがナデナデをしてくれました。 すると、こころがポカポカするきがしました。 れいなおねえちゃんが言う好きというのは、こんな感じなのかもしれません。


 そういえば、このラブレターを書いた人は、れいなおねえちゃんが好きで手紙をかいたんですよね。 もしかしたら、れいなおねえちゃんもその人の事を好きに・・・・・・。

 また不安になってきいてみましたが、どうやらちがうようで安心しました。



 「私は日向ちゃんの方がずーーーと好きだよ」



 そう言ってれいなおねえちゃんは、ひなたを膝のうえにのせてギューーーとだきしめてくれました。 いまのことば、ちゃーんとおぼえていてくださいね♪





 ついに、れいなおねえちゃんの卒業式です。

 お祝いのプレゼントために、おかあさんとおとおさんと一緒にお花屋さんへいきました。

 きれいなお花さんがたくさんあって、どれがいいのか分からなかったので、店員さんにおしえてもらいスイートピーのお花を1輪買いました。 お金は、ひなたがお手伝いしてためたお小遣いです!


 先に帰ってきた、れいなおねえちゃんのお母さんたちとお家で帰ってくるのをまっていると、ついにれいなおねえちゃんが帰ってきました。



 「れいなおねえちゃん、ごそつぎょうおめでとうございます! どうぞ、これを受け取ってください」



 そう言って、手に持っていたスイートピーを渡してあげると、いままでにないくらいの笑顔でお礼を言ってくれました。



 「ありがとう日向ちゃん!」



 さらに、ひなたのお小遣いで買ったことを言うと、おもいっきり抱きしめられちゃいました。 喜んでもらえてよかったです。

 



 それから、ひなた達はみんなでお食事に行くことになりました。

 そこで、ひなたは卒業式についていっぱいききました。 ひなたが色々ときくと、れいなおねえちゃんは嬉しそうにおしえてくれます。


 

 「ねぇ玲奈。 誰からか告白とかされなかったの?」



 と、れいなおねえちゃんのお母さんが聞きます。

 やっぱりきれいなれいなおねえちゃんは、モテモテでいっぱい告白されたみたいです。



 “れいなおねえちゃんが、ほかのひとに取られちゃう?”



 そう思ったら、さっきまでたのしかった気持ちもどこかへ行ってしまいました。

 そんなのはイヤです。 れいなおねえちゃんは、誰にもわたしたくありません。 ・・・・もしかして、このきもちが恋なのでしょうか?




 食事もおわり、お家に帰るとお母さんが話しかけたきました。



 「ねぇ日向。 どうした? 元気が無いようだけど」


 「お母さん・・・・恋ってなんですか? 好きな人を誰にもわたしたくないって思うきもちは恋なのでしょうか」

 


 ひなたは、ぎもんに思ったことをききます。



 「恋? 確かに誰にも渡したくない、自分だけのモノにしたいって思うわね。 だから今日、3人の男の子が玲奈ちゃんを自分のモノにしたくて告白したのよ」



 やっぱりこのきもちは恋のようです。

 そうなると、モテモテなれいなおねえちゃんのことです。 またたくさんの人に告白されるにちがいありません。 これはゆゆしきじたいです!



 「告白すれば、じぶんのものになるんです?」


 「告白をして、いいよってお返事が来たらね」


 「そうなのですか・・・・どうしたら、ちゃんとじぶんのモノにできますか?」


 「そうねぇ・・・・。 女の子からだったら、唇にキスをしてあげれば一発よ! なんて言っても、私はそれでお父さんをゲットしたもの」


 「くちびるですか? おでこやほっぺじゃなくて?」


 「そう、唇よ! これで一撃必殺の技よ!!!」


 「なるほど・・・・・分かりました!」


 「あとね、ムードも大切で―――――――」



 こうしてひなたは、お母さんからいちげきひっさつのワザを教えてもらいました。 あとは、じっこうあるのみです!






 ☆★☆★☆★☆★☆






 入学まで、いつもの様に日向ちゃんと遊んで、たまに友達と遊びに行ったりと嫌なことを忘れて楽しんでいた。


 そして入学式。

 こちらも退屈な式が終わり、教室へ行きショートホームルーム。 同じクラスには、小学校の時に仲が良かった友人がおり一安心。

 軽い自己紹介をして、これからの予定やらなんやらの話をきいて解散。

 うちで待っているであろう日向ちゃん元へ急がねば! 今日も卒業式の様に一緒に2家族でお食事をするのだ。



 「それじゃ、お先に」


 「玲奈ちゃん、またね~」



 友人に別れを告げて、急ぎ足で昇降口に向かう。 うちのクラスが早かったのか、まだ他の生徒の姿が見当たらない。



 “さて、軽く走って帰りますか”



 そう思い昇降口から出ようとしたら―――――――



 「「「「高木(さん)!」」」」

 


 何やら、聞き覚えのある複数の声に呼び止められた。

 振り返ると、軽く肩で息をしている4人の男子の姿。 あらやだ、振られた野郎フラれメンズの方々ではないですか。



 「「「「僕(俺)はまだ諦めないから(な)!」」」」



 何でこんなにも、私に執着するのかが分からない。 しかし、その諦めない心に敬意を評して。



 「ごめんなさい!」



 頭を下げて、すぐさま90度ターンを決めてそのままGO!

 

 ちなみに、このやりとりを遅れてやって来たクラスメイト達が見ており、初日から学校を賑わせるニュースになっていることを、この時の私は知らない。




 今度は4人同時に粘着宣言をされるという珍事件が起きたが、無事に家に着くことができた。 走ったことで乱れた息を、整えてから玄関の扉を開ける。



 「「「「「おかえりなさい」」」」」



 ちょうど待っていたかの様に、出迎えてくれる両親と日向ちゃん家族。



 「ただいま!」



 出迎えてくれた日向ちゃんも制服姿だった。 どうやら先程まで保育園に行ってきていたらしい。

 お店に予約をしているとのことで、時間も無く折角なのだからと制服のまま食べに行くことに。 食べに行くのはステーキらしく、新品の制服が汚れないかが心配だ。

 場所は歩いて10分少々の所にあるお店で、何度か行ったことあるが個人経営で美味しくて評判の所。 日向ちゃんのプニプニすべすべお手手を握って、2人で仲良く向かう。

 こんな日がいつまでも続けばいいなと、そう思わずにはいられない。


 


 お店に到着して、今度は入学式のお話を日向ちゃんからせがまれて話す私。



 「やっぱり、何かと式の校長先生のお話は長くてねぇ。 あくびを噛み締めるのが大変だった」


 「こうちょう先生のお話は、こもりうたなんですか?」


 「「「「「っぶ」」」」」



 日向ちゃんの何気ない意見に、全員で吹き出してしまった。



 「そっそうね、ある意味子守唄かもしれないわね」


 「日向ちゃんは、なかなかセンスがあるな」



 といううちのお母さんとお父さん。

 ひとしきり笑って、落ち着いてきた所に日向ちゃんのお母さんが話しかけてきた。



 「そう言えば、玲奈ちゃんは新しいクラスメイトとは上手くやっていけそう?」


 「んーーー。 まだ初日なので分からないですが、小学校の時の友達が同じクラスに居るので、寂しい思いはしないで済みそうです」


 「なら良かったわ。 でも、玲奈ちゃんならきっと直ぐに友達が出来るわよ。 なんてたって、4人から告白されるぐらいですもの。 クラスの男子が黙ってないわよ」


 「・・・・はぁ~~~~~~」



 つい、昇降口での珍事件を思い出して、溜息を吐いてしまう。



 「どうしたんだい玲奈ちゃん」



 突如ため息を付く私を心配してくれる日向ちゃんのお父さん。



 「実は、その4人から―――――――」



 とまたもや告白紛いな事を4人同時にされたと言ったら、親達に笑われてしまった。 こちらにしてみたら、笑い事ではないのに。



 「む~~~~~!」



 そして何故だか、日向ちゃんには睨まれる始末・・・・トホホ。




 美味しいステーキを食べ終えて、また日向ちゃんと手を繋いで帰る。 しかし、こっちを向いてくれないマイエンジェル。 私、何かしたのだろうか・・・・・・・。

 いつの日か、こんな風にして少しずつ離れていってしまうのだろうか。 そう思うと、心が締め付けられる様だ。 所詮は、叶わぬ恋なのだから。


 親達の楽しそうな話し声をBGMにして帰宅。 家の前についたら、ようやく日向ちゃんが私の方を向いてくれた。



 「れいなおねえちゃん。 わたしたいモノがあるので、ひなたのお部屋にきてもらっていいですか?」



 とお願いされてしまった。 もちろん二つ返事で行かせてもらいますとも!

 日向ちゃんに手を引かれ、彼女の部屋に。 階段を上り廊下を少し歩いて扉を開ければ、そこは日向ちゃんのお部屋。

 可愛らしいくまのぬいぐるみが1個と、たくさんの本が本棚に並べられている。 結構、日向ちゃんは読書家なのだ。


 ベットに誘導させられて、端の方へ腰を掛ける。 日向ちゃんはベットの上に上り目線を合わせてきた。



 「ひなたおねえちゃん、ご入学おめでとうございます」



 頭を下げて、綺麗なお辞儀を披露する日向ちゃん。



 「ありがとうございます」



 こちらも頭を下げる。



 「今回はですね。 特別なプレゼントを用意したので、目をつぶっていてもらってもいいですか?」



 となんとも可愛らしいお願いをされては、日向ちゃんラバーとしては胸を高鳴らせて目を瞑る以外の選択肢はない。



 「はい」



 目を瞑り、合図をする。



 「えっとですね。 前にれいなおねえちゃんは、ひなたに大好きだよって言ってくれました」



 確かにそんなような事を言ったけど、ちょっといい方が違うような。



 「でもれいなおねえちゃんはモテモテで、いつかひなたから離れて行ってしまうのではないかと不安になったのです」



 いやいや、居なくならないよ! むしろ私が、日向ちゃんが何処かに行ってしまうのではないと心配な日々を送ってるよ!!!



 「だから、これはオマジナイです」


 ッチュ


 「!!!!!!!!?!?!?!」



 突如唇に触れた柔らかい感触に、目を開けてしまう。

 すると、目の前には、目を瞑り離れていく小さいお顔が。



 「ひっひっひっひな・・・ひなたちゃ・・・・・」



 え、え? ナニコレ? ビックリ? ドッキリ大成功、という立札を持った人が出てくるとかそいうオチでしょ?!

 ドキドキと心臓が破裂しそうなほど鼓動している。

 今起こったことにパニックを起こしている私に、照れながら日向ちゃんは言う。


 

 「プレゼントは、ひなたの初めてキスです。 どうでしたか?」



 え、どうでしたか? そんなのは決まっている。もちろん―――――――



 「最高デス!!!!!!!!」



 顔も体も熱くなっているのが分かる。 あまりの興奮に意識が朦朧と・・・・・・。














 頭を撫でられている感触がする。

 愛おしく優しい手つきで撫でられて、とても気持ちがいい。 このまま寝てしまいたい。 って、むしろ今まで寝ていたじゃん、と自分にツッコミを入れて目を開ける。



 「ん」


 「あ、れいなおねえちゃん、おきましたか」



 目を開けると目の前には、天使の微笑みを浮かべた日向ちゃんの顔があった。

 どうやら私は、日向ちゃんに膝枕をされているようだ。



 「えっと、あっと・・・ごめんね? 重たかったでしょ」



 そう言って起き上がろうとすると、日向ちゃんに止められてしまった。



 「だいじょうぶです。 これぐらい、なんともないのです」



 そうすると間近で動く、可愛らしい唇に目線が行ってしまう。



 「日向ちゃん、さっきのは・・・・・・」



 さっきのはどういう事? なんでキスをしたの? と色々と聞きたいことがあったが、何から言えばいいのか分からない。



 「れいなおねえちゃん」


 「ひゃい!」



 突然呼ばれて、声が裏返ってしまった。


 

 「ひなた、気がついたんです」


 「気がついた?」



 何に気がついたのだろう。 もしかして遊んでいる時に、スキンシップとして体を触りまくっていることだろうか。



 「れいなおねえちゃんが告白されるたびに、他の誰かに取られたくないってきもちが強くなるんです」


 「・・・・・え」



 まさか日向ちゃんがそんな事を思っているとは、露ほどにも考えていなかった。 だって、この気持ちは、一生叶わない物だと思っていのたのだから。



 「れいなおねえちゃんと一緒にいると、いつも楽しくてこころがポカポカして、ずっと一緒にいたいっておもうんです」


 「・・・・うん」



 あまりの嬉しさに、視界がボヤけて来た。



 「でも、綺麗で優しくていい匂いなれいなおねえちゃんを、いろんな人がひなたから奪おうとするんです。 だから、ひなたのモノにしたくてオマジナイをしました」


 「私も、日向ちゃんがいつか私の元を離れていってしまうんじゃないかって考えてしまって、その度に胸が苦しくなってた。 私も、ずっと日向ちゃんと一緒に居たい」


 「それならなら、ひなたにもオマジナイをくれませんか?」



 そう言って目を瞑る日向ちゃん。

 私は体を起こして、そっと小さい唇にオマジナイをした。

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私と日向ちゃん totto @totto104

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